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深刻なスイス軍への不信感 挽回は可能?

連邦議事堂の前でスイス国旗を掲げる兵士
スイス軍は国民の信頼を取り戻し、国防費を増やすことができるのか? Keystone / Anthony Anex

スイス軍は装備不足に直面している。防衛力増強の必要は認識されているものの、予算増額に対する議会・国民からの支持は希薄だ。その背景には何があるのか?スイスインフォのポッドキャスト討論番組「Let’s Talk」で、2人の専門家に話を聞いた。

スイス軍はスイスを護れない――スイス軍指導部は自軍を客観的に評価し、こう断言する。軍が抱える数々の大きな欠陥を埋めるため、連邦内閣(政府)は付加価値税(VAT)を引き上げたい意向だ。

そのためにはまず、脅威が現実のものであること、軍が資金を適切に活用できるということを、国民に納得してもらわなければならない。だが今はただでさえ予算削減圧力が強く、調達をめぐる不手際で軍への信頼が低下しているという逆風も吹く。

今回の「Let’s talk」ではこのテーマを取り上げ、日刊紙NZZで安全保障政策を専門とする連邦議会担当記者セリーナ・ベルナー氏と、民兵組織の統括団体「スイス軍事協会連合(VMG/ASM)」のシュテファン・ホーレンシュタイン会長と議論を行った。

スタジオで討論する3人
ポッドキャストで討論するセリーナ・ベルナー記者(左)とシュテファン・ホーレンシュタイン(右)。スイスインフォのバルツ・リゲンディンガー記者がモデレーターを務めた SWI swissinfo.ch

ホーレンシュタイン氏はスイス軍の現状に関して、とりわけ昨今のように安全保障政策上「とても、とても緊迫した状況」下では、憂慮に堪えないと述べた。また、ウクライナ戦争はそう簡単には収束しないとしたうえで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこれからも北大西洋条約機構(NATO)に試練を与えるだろう、との考えを示した。「不安定化したヨーロッパは、スイスにとって有害だ」

損なわれた軍への信頼

ベルナー氏は「安全保障政策について議論するたびに、最後は財政政策の話に行き着く。このことにすべてが象徴されています」と語り、現時点で軍の財政基盤を強化することは政治的に非常に困難であるとの見解を示した。

その理由の一つは、国防省に対する信頼が揺らいでいることだ。果たして、割り当てられた予算を同省が有効に活用できているのか、国民の間に近年疑念が広がっている。これについて、ベルナー氏は次のように説明する。「国防省の主要プロジェクトは、醜聞としてメディアの見出しを飾ってきました。その最たる例が、もちろん、戦闘機F-35の固定価格契約をめぐる失態です」

2022年、スイス政府は米国政府との間でF-35A戦闘機の購入契約を締結。その際、政府は固定価格での購入であると国民に繰り返し説明してきたが、後に両国政府の間に価格をめぐる認識の齟齬が発覚し、追納を求められる事態となった。

しかし、追加費用そのものが問題なのではない、とベルナー氏は話す。「議会の大多数も、その点については理解を示しています」

真の問題は、「固定価格」の説明に対しては契約当時から議会が疑問を示していたこと、それにもかかわらず国防省がすべての警告を無視した点にあるという。「そのことが、議会からの信頼低下につながりました。不信感はブルジョア政党(保守・中道)にまで及んでおり、問題の根は実に深く、深刻です」(ベルナー氏)

孤立した国防相

ホーレンシュタイン氏は、今後は連邦内閣が一丸となって、より指導力を発揮する必要がある、と結論づけた。「政府は、安全保障政策がスイスにとって最優先事項であるのだと、明確に伝えなければなりません」。マルティン・フィスター国防相が所管政策の推進において、あまりにも孤立しているという点で、ホーレンシュタイン、ベルナー両氏の意見は一致している。

ホーレンシュタイン氏は、ヨーロッパにおける脅威の状況は、スイス国内での認識とは根本的に異なっている、と付言した。これはスイスにとって、ますます大きな問題になりつつあるという。「我々は、ヨーロッパの安全保障の枠組みに貢献していません。提供できるものがないからです」

NZZ紙の記者であるベルナー氏は、スイスが過去2度の世界大戦を免れてきた歴史に言及し、その影響を次のように描写した。「一般の人々に話を聞くと、多くの人がこう答えます。『そうですね、でも、いったいどこの国が私たちに攻撃を仕掛けてくるというのでしょう?私たちは中立国ではないですか』」。これについて同氏は、中立であるだけでは攻撃から自国を守ることはできない、と明言する。

若い世代への期待

ホーレンシュタイン、ベルナー両氏は、兵役義務が厳しかった時代の方が、軍の存在がスイス国民の間にしっかりと根づいていた、という点で意見を同じくしている。スイスでは1992年に「良心上の理由」で兵役の代わりに市民奉仕義務に就くことができるようになり、2009年には良心上の理由を査定する審問手続きが撤廃された。

そのうえでベルナー氏は、自国の防衛という考えは、若い世代の価値体系にも十分に合致し得るものだと強調した。またホーレンシュタイン氏も、「若い世代の間でパラダイムシフトが起きている」と指摘。「女性も含めてモチベーションの高い若者も多い。彼らに正当な対価を与えるべきだ」と訴えた。

編集:Samuel Jaberg、独語からの翻訳:鈴木ファストアーベント理恵、校正:ムートゥ朋子

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