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「時計製造の多様性とダイナミズム示す」 ウォッチズ&ワンダーズCEO

時計の見本市ウォッチズ&ワンダーズの会場
世界最大級の時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ」は2023年に初めて一般公開され、4万人を超える来場者を集めた KEYSTONE/WWGF/KEYSTONE/Cyril Zingaro

世界最大級の時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ」は今年、過去最多の54ブランドが出展し、来場者数も記録を更新する勢いだ。かつて「バーゼルワールド」と競ったジュネーブの時計見本市が生き残った秘訣は何なのか。ウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブ財団(WWGF)の最高経営責任者(CEO)を務めるマチュー・ユメール氏に話を聞いた。

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1991年から続く見本市「ジュネーブサロン(SIHH)」を、コロナ禍中の2020年にオンライン形式で引き継いだ「ウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブ」。2022年に対面開催が復活し、2023年には初めて一般客も入場できるように。ビジネス関係者が殺到し、一般客向けのチケットは前売りで完売した。来場者数は7日間で4万3千人と、過去最多を記録した。

今年は4月9~15日まで、昨年と同様にジュネーブ空港に隣接する巨大コンベンションセンター「パレクスポ」で開催される。ここでは3月初め、歴史あるジュネーブ国際モーターショー外部リンクが開催規模を大幅に縮小して開かれた。それとは対照的に、ウォッチズ&ワンダーズは昨年を上回る出展数と来場者数を見込む。

ウォッチズ&ワンダーズを運営するユメール氏が、パレクスポでswissinfo.chのインタビューに応じた。

ローザンヌ経営大学院(HEC Lausanne)修了。在学中、交換留学制度で豪州シドニー工科大学でも学ぶ。2009年、高級時計財団外部リンクに入り、2021~23年まで同財団の最高経営責任者(CEO)を務める。その後、ウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブ財団(WWGF)外部リンクのCEOに就任。1年を通じて30人(見本市の開催時は60人)のチームを率いる。

swissinfo.ch:スイス国内外の他の時計見本市と「ウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブ」との違いは何ですか。

マチュー・ユメール:ウォッチズ&ワンダーズは、業界関係者が一堂に会し、声を一つにできる時計産業のサミットです。今年は、昨年より8ブランド多い、過去最多の54ブランドが出展し、すべての新作が発表されます。

また、ウォッチズ&ワンダーズは、パーソナライズされた一連の体験や時計職人との出会いを提供します。メディア露出に関して言えば、昨年は全世界で約7億人近い人々が見本市のことを見聞きしました。

もちろん、タイム・トゥ・ウォッチズ外部リンクなどウォッチズ&ワンダーズと同時期にジュネーブで開催される他の時計関連の取り組みやイベントは興味深く見ています。これらは何より見本市ビジネスを補完し、盛り上げるものと考えています。

今年の目玉は何ですか。昨年と違う点は。

パレクスポに新たに8ブランドを迎え、そのためにスペースを拡張しました。また、昨年は2日間だった一般公開を3日間にします。ダイナミックで革新的な時計産業の中心地を満喫するまたとない機会になるでしょう。さらに、会場の中央には、生まれ変わった「LAB」が登場し、時計学校やスタートアップ、出展ブランドが、時計製造業の明日へのビジョンを発表します。

一方、ジュネーブ市内では、講演会やガイドツアー、ワークショップ「時計作りの村」などの子ども向けイベントを開催し、見本市の存在感を高めます。特に若い世代に職業として関心をもってもらいたいので、これらのイベントはすべて無料。誰でも参加できます。

自動車など一部の部門では、国際見本市の存続が危ぶまれています。見本市の存在意義はまだあるでしょうか。

もちろんです。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの最中、ウォッチズ&ワンダーズをオンラインで2回開催しましたが、リアル開催を求める声が絶えませんでした。ますますネット化が進む世界の中で、私たちはこれまで以上に実際に顔を合わせ、時計産業のプレーヤーと互いに影響し合う必要があります。リアルな体験が求められています。

時計製造業にとって、1つの見本市にすべての主要ブランドが集中するのは好ましくないのでは。

それはそうです。ただ、オーデマ ピゲやリシャール・ミルの出展再開や、スウォッチグループ傘下のブランドに参加してもらえるのを楽しみにしています。一方で、ウォッチズ&ワンダーズに信頼を寄せるブランドが増えていることに、私たちは既に満足していますし、すべての主要プレーヤーが毎年出展することを期待するのは非現実的でしょう。

ジュネーブは時計製造業の街です。2019年まで世界中の時計産業が毎年集っていた「バーゼルワールド」と比べて、見本市の開催に有利な条件はありますか。

時計メーカーが多数あるというジュネーブの土地柄が重要な役割を果たしているのはもちろんです。ウォッチズ&ワンダーズにとっては、ロレックス、パテック フィリップ、ショパールといったブランドの参加が転機になりました。

さらに、ジュネーブには欧州の中心に位置する地理的条件、質の高いインフラや交通網、ホテルの選択肢の多さなど大きな利点があります。

バーゼルワールドでは、周辺ホテルの高い宿泊料が不評を買いました。ジュネーブのホテルはどうでしょうか。

非営利財団であるウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブ財団(WWGF)が、全パートナーとともに年間を通じてコストを管理しています。行き過ぎを避けるため、財団がホテルの予約を一元管理し、宿泊料の高騰を防いでいます。

欧州の主要な国際モーターショーでは中国ブランドの出展が増えています。ウォッチズ&ワンダーズではどうですか。

ウォッチズ&ワンダーズには、日本の高級時計ブランド(グランドセイコー)とシチズングループの2ブランド(フレデリック・コンスタント、アルピナ)が参加しています。私たちは出展に関心のあるすべてのブランドに対してオープンです。 ただ、今のところ、中国ブランドからの接触はありません。基本的に、新規の出展を認めるかどうかの最終決定は運営委員会に委ねられています。すべてのステークホルダー(利害関係者)の利益になるよう、ある程度の一貫性を確保するためです。

「今のところ、中国ブランドからの接触はありません」

マチュー・ユメール、ウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブ財団CEO

英語と仏語のウェブサイトしかありませんが、中国や日本、アラブ諸国はターゲットではないのですか。

どの市場も非常に重要なので、くまなくカバーするようにしています。中国については、中国人に人気の対話アプリ「WeChat(ウィーチャット)」にウェブサイトの全コンテンツを載せています。これに英語と仏語のウェブサイトを合わせると、世界の大半がカバーされます。さらに、例えば日本では、いくつかの仲介者を通じて情報提供しています。

中国・上海でもウォッチズ&ワンダーズを何度か開催しています。今後も続ける予定ですか。他の国々への展開は検討していますか。

上海ではこれまで3回開催しました。ウォッチズ&ワンダーズ上海2023は、14ブランドを迎え、若者を中心に1万2千人の来場者を集めました。今後数年間、海外イベントに関する戦略は出展ブランド次第で決まります。いずれにしても、ウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブがメインであることに変わりありません。

「超高級ブランド」だけでなく、スポーツウォッチのアルピナ外部リンクのように、価格が1千フラン(約17万円)を下回るブランドも受け入れています。その理由は。

(ウォッチズ&ワンダーズの)開放性と包括性を示すためです。昨年初めて一般公開したのも同じ理由からです。この経験は決定的でした。125カ国の出身者が来場し、そのうち25%が25歳未満の若者でした。

多種多様なブランドを取り揃えることで、時計製造部門の多様性とダイナミズムを示せます。また、来場者に、知る人ぞ知るブランドから有名時計メーカーまで、時計産業が生み出す最も美しく最も革新的な製品の全貌を紹介できます。

部品や工作機具などのサプライヤーに特化したブースを設ける計画はありますか?

徐々に拡大する予定ですが、今のところサプライヤーを巻き込む予定はありません。スペースにも限りがあります。パレクスポの収容能力はほぼ使い切っていますので、あと数ブランドを迎える程度のわずかなスペースしかありません。ウォッチズ&ワンダーズは、すべての出展ブランドが最適なビジビリティ(視認性)を確保できるよう細心の注意を払っています。

編集:Samuel Jaberg、仏語からの翻訳:江藤真理、校正:ムートゥ朋子

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