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公開から1年、スイスのAIモデルApertusの成果と課題

スイス国産AIモデルApertusは1年でどこまで進化したのか
スイス国産AIモデルApertusは1年でどこまで進化したのか Keystone / Gaetan Bally

昨年9月に公開されたスイスの完全オープンAIモデルApertusは400万ダウンロードを突破し、活用の場を広げている。だが依然として競合モデルの性能には及ばず、厳しい状況が続いている。この1年間の成果と今後の課題をまとめた。

スイス独自の人工知能(AI)Apertus(アペルトゥス)が鳴り物入りで登場してから1年が経った。データ保護規則や欧州AI規制法を遵守するように設計・開発された大規模言語モデルで、完全なオープン性と透明性の高さが大々的に報じられた。しかし、発表当初は大きな注目を集めたものの、公開からわずか数週間で厳しい批判にさらされることになった。「使い物にならない」「ごく初歩的な質問にすらまともに答えられない」と酷評するユーザーもいる。

誰が使っている?

AIプラットフォームHugging Faceからのダウンロード数は現在までに400万件を突破し、数字は好調だ。Apertusコミュニティのリーダー、オレグ・ラブロフスキー氏は、これをオープンソースAIプロジェクトに対する世界的な関心の表れだと見ている。

だがダウンロード件数と実際の利用実態が必ずしも一致するわけではない。ラブロフスキー氏が把握している範囲では、Apertusの外部導入事例は少なくとも70件、派生版は100を超えているという。派生版としては例えばAIシンガポール(シンガポールのAI国家プロジェクト)の東南アジア多言語大規模言語モデルSEA-LION外部リンクがある。Apertusと他のAIモデルを独自に改良し、東南アジアの多言語に対応させたものだ。

ラブロフスキー氏は、こうした導入事例はプロジェクトの狙い通りだと話す。「私たちの目的は基盤モデルの構築だ。Apertusを最適化し適応させる利用方法こそ、まさに私たちが目指していたことだ」

今年7月には新バージョンのApertus 1.5を発表した。画像理解の新機能や推論能力の向上などが盛り込まれている。公式ロードマップ外部リンクではApertus 2.0の2027年公開が予定されている。

ラブロフスキー氏は批判的な見方に対して、Apertusは完成された商用製品ではなく、企業や研究機関が自らの目的に合わせてカスタマイズするための基盤モデルであり、ChatGPTの競合品ではないことを強調する。だがApertusがどの程度、実用的な利用や具体的な価値創造につながる可能性があるかについては、依然として議論の余地があると話す。

AIモデルは何がどれだけ公開されているかによって、大きく3種類に分類される。

①オープンソース(完全公開)

学習パラメーター(重み)・コード・データセットが全て公開されているもので、検証・改変・再現が可能。例えばApertus、 OLMoなど。

②オープンウェイト(重み公開)

学習パラメーターが公開されているもの。ダウンロード・利用可能だが、学習コード・データセットが全て公開されているとは限らない。例えばMetaのLlama、AlibabaのQwenなど。

③クローズド/プロプライエタリ(非公開/独占的)

学習パラメーター・コード・データセットのいずれも非公開のもの。OpenAIのGPT、AnthropicのClaudeなど、主要な商用モデルの多くはこのタイプ。

多言語対応とデータ保護に強み

Apertusに価値を見いだし活用する企業もある。例えばスイス南部ティチーノ州を拠点とするAIソリューション企業アーティフィシャリー(Artificialy)はApertusを積極的に活用している。

同社の深層学習部門を率いるダミアーノ・ビナーギ氏は「私たちは慈善事業を行なっているわけではない。Apertusを使う理由は、そうしなければならないからではなく、Apertusが優れたモデルだからだ」と話す。

アーティフィシャリーは、Apertusは既に一部の産業・公共部門での活用に耐え得る十分な性能を備えていると評価している。同社が実施したテストでは、特に翻訳と多言語会話において良好な結果が得られているという。

「クライアントの翻訳業務において、特にスイスの4つの公用語が関わる場合や機密性の高い文書を扱う場合に、他のモデルよりもApertusを選ぶケースが多い」とビナーギ氏は言う。

例えばティチーノ州は行政文書の自動翻訳にApertusを使うことを決定した。特に多言語の個人文書を取り扱い、高い正確さと厳格なデータ保護を必要とする移民局でApertusの強みが活かされている。

「ティチーノ州移民局のニーズはまさに、このモデルの強みが形になったものだと言える」とビナーギ氏は言う。

多言語対応はApertusプロジェクトが最も力を入れた機能の1つだ。1800種類以上の自然言語のデータセットで学習されており、その約4割は非英語データで、ロマンシュ語やスイスドイツ語などマイナーな言語も含まれる。主要なAIモデルが英語中心(約9割が英語ベースと推定外部リンク)のデータセットに依存する中、Apertusの言語の多様性は際立っている。

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完全なオープン性もApertusの大きな特長であり、AIシンガポールがSEA-LIONプロジェクトで用いる基盤技術の1つにApertusを選んだ最大の決め手となった。「Apertusを選んだ理由は、世界で数少ない真のオープンソースモデルであり、その点が研究にとって重要だからだ。どのデータが使われ、どのように学習したかを正確に知る必要がある場合に特に重要になる」とAIシンガポールのレスリー・テオ氏はスイスインフォに対しメールで回答した。

同じ理由で医療分野でも活用の場を広げている。スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)は今年6月、Apertusを基盤とした臨床AIモデル構築のためのフレームワーク、MeditronFO外部リンク(メディトロンFO)を発表した。

性能は発展途上

アーティフィシャリーは、Apertus1.5で翻訳、画像認識、推論機能が大幅に向上したと高く評価する一方で、改善の余地もあると見ている。

「エージェント機能(ユーザーに代わりタスクを実行する機能)に関して言えば、Apertusはかなり進歩しているものの、依然として他のオープンウェイトモデル(機械学習の重みが公開され、誰でも自由に取得・実行・改変できるモデル)のレベルには及ばない」とビナーギ氏は言う。エージェントAIモデルは多段階処理を含むタスクを自律的に実行できるもので、例えば航空券の比較・予約などが可能だ。

こうした差はApertus開発チームによる性能評価テストでも確認されている。パラメーター数700億を超えるApertus最大モデルであっても、同程度の規模のオープンウェイトモデルのレベルにはいまだに達していない。特にプログラミング、数学、推論タスクにおける差は歴然外部リンクとしている。

チューリヒを拠点とするIT(情報技術)サービス開発企業リープ(Liip)は、ZüriCityGPT(リープが開発する、AI駆動型のチューリヒ市向け質問ツール)にApertusを入れてテストした結果、Apertus1.5で差は縮まったものの、商用モデルには依然として及ばなかった。

リープの生成AIプロジェクト責任者、ヨセフ・クルッケンベルク氏は、Apertus1.5はより役立つ回答を生成でき、指示に対する追従性が向上し、情報が足りない場合には回答を控える能力も高まっていると評価する。だがリープが最も重視する「忠実性」、つまり全ての回答が、利用できる情報源に裏打ちされているかという点に関しては、まだ不十分だとする。

「これまでのところ、クライアントのプロジェクトでApertusを使ったことはない。まだ実用に耐えるレベルには達していないと考えているからだ」とクルッケンベルク氏は話す。最新版Apertus1.5についても、クライアント向けに具体的な活用方法を判断するには不十分だと言う。

性能向上の鍵

完全オープンモデルにはどうしてもトレードオフ(妥協)が伴うため、競争力の高いモデルを開発すること自体が難しい挑戦だ。AIシンガポールのテオ氏は「真のオープンソースを目指せば、利用できるデータが制限される。それがモデルの性能や全体的な能力に影響する」と話す。

アーティフィシャリーのビナーギ氏もこれに同意する。Apertusは著作権要件を満たす透明性の高い検証可能な公開データに基づいて構築されている。この点で、非公開またはライセンス取得のデータセットを頻繁に利用するプロプライエタリ(独占的)な開発者とは異なる。この根本的な姿勢の違いはわずかな性能の低下を生じさせる可能性がある一方、デジタル主権の強化にもつながるだろうとビナーギ氏は指摘する。

アーティフィシャリーの自然言語処理部門責任者、フェデリコ・マニョルフィ氏は、Apertus1.0がリリースされた時点で既にアメリカの最先端モデルより2年遅れをとっていたと見積もる。「3カ月ごとに進歩するこの分野で、2年というのは非常に大きな差だ」。遅れを取り戻すには、新しい学習サイクル、計算能力、投資が必要だ。スイスAIイニシアチブの旗艦プロジェクトであるApertusには、利用可能な計算機資源の大部分が既に注ぎ込まれている。こうしたリソースの配分について批判的な議論がないわけではない、とApertusコミュニティのラブロフスキー氏は話す。

また、Apertusの欠点の全てが必ずしもAIモデル自体に起因するわけではない。AIモデルはシステムを構成する要素の1つにすぎない。ユーザーの要求に応じた情報検索・抽出・順位付けなどのタスクを実行するAIモデル以外のソフトウェア群も、システムの性能に大きく影響する。

リープのクルッケンベルク氏は、Apertusはこうしたソフトウェア群の最適化が必要だと指摘する。例えばリープが行ったテストで、Apertusはチューリヒ市の人口を間違えたが、原因はAIモデル自体ではなく、検索システムが最新データを選択できなかったからだった。このことはAIモデルの性能だけでは競争力を保てないことを意味していると同氏は言う。「タスク実行のためにAIモデルを取り巻くエコシステム全体のレベルを整えなければならない」

公開から2年目を迎えるApertusプロジェクトは、AIモデル自体の改良とそれを支えるエコシステムの強化という2つの大きな課題に直面することになるだろう。スイス発のAIモデルが競争力を維持し、実社会に浸透していくためには、この両方の壁を乗り越えなければならない。

編集:Gabe Bullard/vdv/ac、英語からの翻訳:佐藤寛子、校正:大野瑠衣子

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