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スイスの中立イニシアチブ否決から読み解く6つの教訓

SVPの会議で配布された、中立性イニシアチブに関するキャンペーン資料。
中立をより厳格に解釈し連邦憲法に明記する「中立イニシアチブ(国民発議)」は反対70.2%で否決された Keystone / Urs Flueeler

永世中立国スイスで27日、「中立」をより厳格に解釈し連邦憲法に明記する案の是非を問う国民投票が行われ、否決された。投票結果が示した6つのポイントを分析した。 

1. ウクライナ戦争が中立に対する見方を大きく変えた

スイスの中立をめぐる議論には、ウクライナ戦争の「前」と「後」で大きな違いがある。以前は、中立は大きな議論を呼ぶテーマではなかった。中立は堅苦しい時代遅れの概念とみられ、一握りの歴史家が関心を寄せる程度だった。 

ヨーロッパ大陸で戦争が再び起きたことで、状況は一変した。短期間のためらいを経て、スイスは国際的な圧力の下、欧州諸国の対ロシア制裁に追随した。この選択により、スイスの中立は政治的な議論の中心となった。 

スイスが欧州の近隣諸国に足並みをそろえたのは正しかったのか。それとも、より厳格な中立の考え方に基づき、制裁に加わるべきではなかったのか――。 

今回の投票結果は、多くの有権者がスイスの「中立」を、その時代の地政学的な変化に合わせて政府が調整できる余地を持つべきものだ、と考えていることを示した。 

注目に値するのは、65歳以上の有権者が、イニシアチブの立ち上げに関わった「プロ・スイス(Pro Schweiz)」に対してとりわけ批判的な姿勢を示したことだ。これは、この世代が大規模な紛争の脅威に晒されながら冷戦時代を生き抜いてきたからだろう。 

当時、スイスは軍事的にも法的にも厳格な中立を維持する一方、西側世界の一員でもあった。今回、国民はイニシアチブを否決し厳格な中立の解釈を退けた。ヨーロッパで再び戦争の脅威が迫る中、人々は当時と似た道を選んだことになる。 

2. 予測のつかない国際情勢を前に、スイスは孤立を望んでいない

中立イニシアチブの否決は、地政学的状況が不確実さを増す中、自国を欧州諸国から自国を切り離されたくないというスイス有権者の願望も反映している。 

2022年、スイスが欧州連合(EU)の対ロ制裁を追随した際、大きな議論が起こった。この決定は「中立イニシアチブ」が立ち上がるきっかけともなった。 

しかし現在では、国民の大部分が政府の戦略的な判断を理解しているようだ。有権者の多くは、スイスが近隣諸国との関係悪化や自国の孤立を招くリスクを冒してまで、ヨーロッパの制裁を組織的に回避することを望んでいなかった。 

同様に、将来的な軍事同盟との協力関係を完全に排除することも望まなかった。緊急事態の際に、そうした同盟からの支援を受けられなくなることを懸念したためだ。 

スイス軍のトップは最近、スイスにはヨーロッパを覆う脅威から無縁ではないと強調した。紛争が起きれば、スイスはヨーロッパの近隣諸国からの支援に頼らざるを得ないだろう。こうした状況下で、今回のイニシアチブは多くの有権者にとって、あまりにもリスクの大きすぎる賭けに映った。 

3. 拭えなかった「親ロシア」という印象

中立イニシアチブの発起人たちは、イニシアチブが持つ「親ロシア」的な側面を小さく見せようとしたが、成功しなかった。有権者は、平和のハトをあしらった「戦争反対」キャンペーンをプロパガンダと見抜き、完全に誠実なものとは受け取らなかった。イニシアチブが主に、スイスによる対ロ制裁を対象としたものだということが、あまりにも明白だったからだ。 

ロシア外務省の報道官マリア・ザハロワ氏は、国民投票キャンペーンが始まった時点ですでに中立イニシアチブを称賛していた。これが全体のトーンを決定づけた。 

その後、スイス国内でロシアの代弁者となっている人々が、平和のハトを掲げる運動のもとに結集した。こうして、スイス固有のものを装った国民党(SVP/UDC)のイニシアチブを支持する勢力の一部が、外国の利益も代弁していることが明らかになった。 

同時にロシアは、欧州に対する一連の攻撃的な行動でも注目を集めた。ドイツのドローン攻撃未遂、バルト海での破壊工作、ポーランドでの欧州政治家を標的とした妨害工作などが起きた。 

9月には、スイス軍のトップ、ベネディクト・ルース氏が「スイスはモスクワの標的になっている」と明言した。スイス国民が示した明確な反対は、ロシアによる西側諸国への攻撃に対する反対でもある。 

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4. 疑念が残ったクリストフ・ブロッハー氏の動機

今回の否決は、イニシアチブを後押ししたクリストフ・ブロッハー氏(85)にとって大きな打撃となった。同氏はかつて、保守右派の国民党を率い、「国民の代弁者」として広く知られた実業家だ。 

しかし、キャンペーンの過程でブロッハー氏自身も厳しく批判された。本人が主張するように、厳格な中立のために戦っていたのか。それとも、反対派が指摘したように、実際には自らのビジネスのために戦っていたのだろうか。ブロッハー氏の意図が本当に誠実なものなのか、疑問は拭えなかった。 

同氏は、化学大手エムス・ケミー(EMS-Chemie)を立ち上げた当初から、国際的な制裁を受けていた南アフリカのアパルトヘイト政権との取引を続けていた。現在は娘のマグダレーナ・マルトゥーロ・ブロッハー氏が経営するEMSは、ロシアによるウクライナ侵攻後もロシアとの取引を続けた。ブロッハー氏は、ロシアとの取引は重要ではないと説明した。それだけに、ブロッハー氏のロシアへの肩入れが、かえって際立って見えた。 

ただし、EMSグループにとってロシアより重要なのは中国だ。中国も将来、制裁の対象となる可能性がある。中国政府が実際に台湾を攻撃すれば、その可能性は現実のものとなるだろう。そうなれば、EMSの中国事業は直接的な影響を受ける。 

ブロッハー氏はEMSによって数十億フラン規模の資産を築き、国民の心をつかむ政治感覚によって、一時代を築いた政治家となった。連邦閣僚からの解任(落選)という大きな敗北を受け入れるまでには何年もかかった。 

そして晩年を迎えた今、2度目の大きな敗北が訪れた。 

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市民団体「MASS-VOLL」が主催した集会で、厳格な中立政策を求めるスイス国民。2023年3月11日、ベルンの連邦議事堂前広場で撮影

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投票

対ロシア制裁が焦点 スイスの中立イニシアチブ

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5. 国民にとって、柔軟な中立と外交上の信頼性は矛盾しない 

中立イニシアチブの賛成派は、厳格な中立を支持することで、スイスの独立した仲介者としての地位や外交上の信頼性を守りたいと訴えていた。 

これを唱えたのは国民党の支持者だけではない。ジュネーブでこの目的のために結成され、非政治的な組織として位置付けられている「スイスの中立を守る委員会(Komitee zur Verteidigung der Schweizer Neutralität外部リンク)」も同じ立場を取った。 

同委員会にとって、国際舞台で公平な立場を取る国としてのスイスの評判が懸かっていた。委員長は「少しだけ中立というのは、もはや中立ではない」と要約した。しかし国民の多数は、とりわけ外交・人道分野から出た多くの声が示した見方に同調した。本当のリスクはむしろ逆方向にある-スイスが中立を絶対的に適用すれば、ジュネーブ諸条約の寄託国であるスイスが、被害者と侵略者を区別せず、さらには後者を優遇しているような印象を与えかねない-という見方だ。 

多くの人にとって、スイスの外交的な信頼性は確かに、その中立に一部基づいている。しかし何よりも重要なのは、平和、国際法、人権のために一貫して取り組んできた姿勢だ。こうした原則が踏みにじられた場合に、スイス政府が政治的対応をとる余地を残しておくことは、中立に反するものではない。有権者はそう判断した。 

6. 中立をめぐる議論は、まだ終わらない 

中立の論争がそう簡単に終わることはないだろう。11月29日に行われる、軍需品法の規制緩和をめぐる国民投票によって、スイスの中立は引き続き注目を集める。 

現行法では、紛争に関与している国への武器輸出は禁止されている。11月の国民投票にかけられる改正法案は、「緊密なパートナー国」とみなされる一部の国について、こうした輸出を認めることを想定している。ただし、ウクライナはその対象には含まれない。 

中道・右派政党は、スイスの軍需産業を支援するため、規制の緩和を支持している。一方、左派政党は、スイス製の武器が紛争地域に流入するケースが増える可能性を懸念するとともに、同改正法案ではウクライナへの支援が可能にならないことを批判している。 

スイスの中立に関する法規が、原則として武器輸出そのものを禁止しているわけではない。それでも、この問題は再び議論の中心となるだろう。 

より多くの武器を輸出しながら、同時に中立を維持することはできるのか。軍事的中立と政治的連帯の境界は、どこにあるのかーこうした問題が問われることになるだろう。 

ヘルヴェティアのイラスト

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編集:Samuel Jaberg、独語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:上原亜紀子 

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