エイズと戦って20年
スイスは欧州諸国でもいち早く、エイズについて取り上げ、1980年代からエイズ予防に力を注いできた。インパクトの強いエイズ予防キャンペーンを支えてきた影武者に話を聞く。
今年の6月で20年目を迎えるスイスエイズ連盟(SAF)の創立者、ロジャー・シュタウブ氏は、キャンペーンで効き目のあるメッセージを打ち出すには「分り易く、すぐに実行できること」と語る。
女優のレニー・ゼルウィガーが手でピースサインを揚げている広告がある。スイスに住んでいれば、「あれ?」と思うようなエイズ予防キャンペーンに気づかずにはいられない。とてもインパクトの強いキャンペーンを1986年から繰り広げてきたSAFのシュタウブ氏にここ20年の成果を聞く。
swissinfo : あなたの20年の活動で何が最も変わったと思いますか?
シュタウブ氏: 一番の変化はスイス社会が一般的な「性」に関して、特に同性愛者に対して、また、ドラッグ使用者に対してオープンになったことです。現在、使用しているスローガンなどは20年前には衝撃的だったでしょう。
SAFを20年前に創立したときは一般の人や同性愛者に対してまず、予防対策を呼びかけるメッセージを送りました。当時、我々の組織の目的はエイズ患者、HIV感染者を差別してはいけないというメッセージを伝えることでした。
swissinfo : そのキャンペーンはどのぐらい成功しましたか?また、何が成功の鍵だったのでしょう?
シュタタウブ氏: はい。今日ではおよそ3分の2の人が新しい性交渉の際にコンドームを使用していると答えています。「ストップ・エイズ」のロゴは人口の90%の人々に認められており、保健衛生局がエイズに関する情報キャンペーンを続けるべきだと考えています。このような態度、エイズへの認識度が変化したということは成功した証拠です。
「ストップ・エイズ」キャンペーンの成功の秘訣はこれがメッセージを媒体するブランドだということです。我々は人々が何をできるかということを基本にしています。18歳を対象にしたメッセージは「ストップ・エイズ—コンドームを使用しよう」でした。シンプルで実行しやすいでしょう。
swissinfo : このメッセージに人々は反応しましたか?
シュタウブ氏:もちろんです。危険がある状況での性交渉でコンドームを使用するケースが1987年の8%から現在は60%以上に上りました。
swissinfo : 前回の「ストップ・エイズ」キャンペーンでは女優レニー・ゼルウィガー(『ブリジット・ジョーンズの日記』主演)や映画監督マーク・フォスター(『ネバーランド』監督)といった有名人を起用されましたが、二人とも30代です。もっと、若い人に訴える若い有名人を使ったほうが良いのではないですか?
シュタウブ氏: いいえ。もっと若い人を対象に訴えなければというのは思い込みです。若い世代はエイズ問題を特に自覚しているという調査が出ています。学校などで十分な情報を得たのでしょう。だから、年上の世代よりも自分をきちんと守ります。もっと上の世代、つまり25歳以上の年代からコンドームの使用が減ってきます。ですから、20歳から60歳の人を対象にしようというのは見当はずれではないでしょう。
swissinfo インタビュー、トーマス・ステファンス 屋山明乃 意訳
<エイズ・ファクト>
厚生省エイズ動向委員会が4月25日に発表した数字によると、日本での昨年1年間で新たなHIV感染者・エイズ患者数は1,165人と初めて1000人台になった。
日本はHIV/AIDSが減少方向にある先進国では唯一、感染拡大が続いている。
スイスでは2004年に新たなHIV感染者が741人、エイズ患者が300人報告された。
スイスでは1985年以来、2万7,904人の人がHIVウイルスに感染した。
スイスでは1983年以来、8,023件のエイズ患者が報告され、うち5,531人死亡した。
1981年来、世界では2千万人がエイズで死んでいる。
<UNAIDS(国連合同エイズ計画)の2004年版報告によると>
現在、日本のHIV感染者・エイズ患者数は1万2千人。
2004年、日本のエイズによる死亡者数は500人弱。
日本のHIV感染者・エイズ患者の人口比率は0.1%。
現在、スイスの HIV感染者・エイズ患者数は1万3千人。
2004年、スイスのエイズによる死亡者数は200人弱。
スイスのHIV感染者・エイズ患者の人口比率は0.4%。
アジアでは2004年には新たに120万人がHIV感染、エイズ発病した。
2004年にアジアでHIV感染者・エイズ患者数は820万人に達した。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。