国連の人権予算削減 本部組織が中ロの手先に?
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が深刻な予算不足に喘ぐなか、ある人権NGOは、ニューヨークの国連本部に属する組織が人権予算の削減に暗躍していると指摘する。背後にはロシアと中国の存在があるという。
「我々は今、サバイバルモードにある」――2月5日、フォルカー・テュルク人権高等弁務官は、各国に寄付を要請する年次会見外部リンクで、大勢の外交官に対し、同事務所が抱える財政不安を隠さなかった。
他の多くの国連機関と同様に、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR、本部・ジュネーブ)も昨年、予算が激減した。アメリカをはじめ複数の国が分担金を削減・延滞し、深刻な資金繰り危機に陥った。
OHCHRは世界各地の人権侵害を記録し、各国に技術支援を提供し、国際法を擁護する任務を負う。2026年に6億2430万ドル(約1000億円)の予算確保を目指すが、これは2025年に計上された7億4600万ドルを16%下回る。
OHCHRの予算は、各国の義務的な負担金から成る通常予算と、任意拠出金で構成される。
2026年の通常予算は2億2430万ドルと、前年の2億4600万ドルから10%削減される。だがOHCHRは全額を確保できない可能性が高い。昨年は、予算の80%しか確保できなかった。
OHCHRは任務遂行に必要な予算を、各国政府やその他の主体、特に民間機関からの任意拠出金に大きく依存している。2026年には、4億ドルの任意拠出を見込むが、昨年要請した5億ドル(約半分を確保)より2割少ない目標だ。
通常予算と任意拠出を合わせると、2026年総予算は6億2430万ドルで、昨年の7億4600万ドルを16%下回ることになる。
現場の活動に支障
テュルク氏は会見で、予算削減が現場に及ぼす影響を詳細に説明した。
2025年、OHCHRは人権監視ミッションの実施数を前年の1万1000件から5000件へと、半分以上減らすことを余儀なくされた。人権監視ミッションは世界中で発生した人権侵害を記録し、被害者の保護や加害国家に圧力をかけることを目標としている。
テュルク氏は「偽情報や検閲によって真実が損なわれているこの時代に、OHCHRの報告書は残虐行為や人権状況に関する信頼できる情報を提供している」と述べ、これらは国際裁判所にとって「重要な証拠」になると強調した。
国連人権高等弁務官事務所は内戦で荒廃したミャンマーでの活動を6割減らしたほか、チャドでは約600人の不当拘束者が同事務所の支援を失った。全体として、コロンビア、ギニアビサウ、タジキスタンなど17カ国で活動を縮小・停止し、2000人の職員のうち300人を解雇した。
テュルク氏は「私たちの活動にかかる費用は小さいが、投資不足による人的被害は計り知れない」と語り、OHCHRが現地に存在するだけでも一部の人権侵害を防げると訴えた。
歴史的な資金不足
「OHCHR、より広く言えば国連の『人権』部門は、常に資金不足と人員不足に悩まされてきた」。ジュネーブとニューヨークに拠点を置くNGO、国際人権サービス(ISHR)のプログラムマネージャー、ラファエル・ヴィアナ・ダヴィッド氏はこう語る。
「人権」は「平和・安全保障」「開発」と並ぶ国連の3本柱の1つだ。だが人権関連の予算は、国連の通常予算の平均3~7%に過ぎない。
ヴィアナ・ダヴィッド氏は「官僚機構が財源不足で規模縮小を余儀なくされた、という単純な話ではない。世界中の個人や地域社会、国家が人権を尊重する能力に、非常に具体的かつ深刻な悪影響を及ぼす」と警鐘を鳴らす。
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暗躍する無名の組織
ISHRは昨年発表した報告書外部リンクで、中国とロシアをはじめとする一部の国々が、ニューヨークの国連本部に拠点を置く無名の組織を通じ、関連予算を削減し人権機関を弱体化させようとしてきた実態を明らかにした。
この無名の組織とは、「行政予算問題諮問委員会(ACABQ)」を指す。国連の行政・予算問題を扱う総会第5委員会に勧告を提出する組織だ。
報告書をまとめたヴィアナ・ダヴィッド氏は、「ACABQは理論上は独立した専門家で構成されているものの、非常に不透明な組織で、中には政府から直接指示を受けている者もいる。その中には、第5委員会の元代表者、場合によっては現代表者も含まれている」と説明する。
ACABQは年3回の非公開会合を開き、世界各地を代表する21カ国から21人の委員で構成される。委員の任期は3年で、国連総会で選出される。
ISHRによると、ACABQの勧告は事務総長の予算案を補完し、第5委員会で広く受け入れられている。「ACABQは他の分野よりも人権分野への資金を組織的に削減している」(ヴィアナ・ダヴィッド氏)
そのなかで、中国とロシアは中心的な役割を果たしているという。ヴィアナ・ダヴィッド氏はそのからくりを次のように説明する。「中国はACABQの枠組みの中で、予算削減を上流段階で押し付けるために重要な外交努力を行っている。そして勧告が第5委員会に届くと、ロシアが妨害行為を行って合意形成を阻む。そうなると、各国はACABQの勧告に頼らざるを得なくなる」
2つの調査任務は見送りに
ACABQは繰り返し、国連人権理事会が採択した調査メカニズムに割り当てる財源の削減を提案している。
実際、2025年に採択されたコンゴ民主共和国とアフガニスタンへの事実調査団は、財源不足のため年末までに活動を開始することができなかった。
1月初旬、第5委員会は2026年予算に関するACABQの勧告を概ね承認した。ACABQは国連80周年改革の一環として事務総長が提案した額を上回る削減を勧告していた。これを受け、OHCHRではさらに多くのポストが削減された。
編集:Virginie Mangin/ptur、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子.
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