ロシアの「好ましからざる団体」指定が急増、スイス拠点の組織も
ロシアのウラジーミル・プーチン政権は今、安全保障上の脅威とみなす国外のロシア人や外国人への刑事訴追を強めている。
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ロシアが国外の市民団体や報道機関、亡命者への圧迫にかつてないほど力を入れている。
プーチン政権は2022年のウクライナ侵攻開始以降、年々急速に標的を拡大。2026年も過去最高のペースで対象を増やしてきた。
最近の事例には、ジュネーブを拠点に民主主義・人権促進に取り組む共同体組織ロシア・ブドゥシェバ・シュヴィツェリア(ロシアの未来スイス、以下ブドゥシェバ)外部リンクがある。プーチン政権は4月12日、同組織を「好ましからざる団体」に指定した。対象組織をロシア国内で実質的に違法化し、支援者や寄付者、参加者の訴追を可能にする措置だ。
指定の動きは世界中で勢いを増し、スイスとつながりのある組織も対象となっている。2026年はこれまでにブドゥシェバを含む6団体が指定された。また、過去数年間に追加された組織を見ると、世界自然保護基金(WWF)外部リンクや非営利教育財団の国際バカロレア(IB)もスイスに本部を置く。
反体制派は、ロシアは武装勢力のハマスやヒズボラ、ほんの1年前まで違法なテロ集団に指定していたタリバンと関係を強めておきながら、いかにも無害そうな組織を禁止していると盛んに指摘する。
時事問題を報道する独立テレビ局ドーシチ(雨)外部リンクのティコン・ザドコ編集長は、指定は「当局がロシアを出た活動家や記者に生活上、仕事上の困難を強いる手段であり、国内にとどまる人々との関係を断つ手段でもある」とスイスインフォに語る。同局は2022年にロシアを逃れ、現在はオランダを拠点としている。
罰金と刑事訴追
「好ましからざる団体」の指定に関する法律によると、対象組織に協力した場合、それがどんな形であれ、ロシアで罰金や刑事訴追を受ける可能性がある。ロシアはこれについて、国家安全保障と憲法を守るための法規だと主張する。一方、弁護士を含む専門家らによれば、文言が曖昧なため、あらゆる形態の市民活動、教育活動、政治活動が当局の標的になりかねない。
この法律はプーチン大統領の署名で2015年に成立した。ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合した翌年だ。当初はさほど使われず、2020年までの指定は世界全体でも年間4団体が最多だった。しかし、2022年にウクライナへの全面侵攻が始まって以降、指定が飛躍的に増加している。
年間の指定数は2024年が西側諸国の組織を中心に67団体で、2025年には101団体に増加した。2026年は4月半ばまでに55団体前後が指定されている。
安全上の理由から匿名で取材に応じたロシア人弁護士は「当局が特定の個人や団体を標的としようと決めたら、この法律でいつでも狙い撃ちにできる。実際のところ、訴追を避ける最も安全な方法は、『好ましからざる』に指定された組織について出版、宣伝、広告したり、公に支持したりしないことだ」と語る。
指定組織は現在までに350団体を超え、対象には独立メディアや大学、シンクタンク、人権・亡命者団体が含まれる。
イベントでの監視
スイスからの指定は、ブドゥシェバ外部リンクを含め12団体となった。国際組織の本部の多さが、数字を押し上げている。
ブドゥシェバのオレグ・ミハイロフ氏はスイスインフォに対し、指定前に内偵が行われた可能性を語っている。「ロシア国家が私たちの存在と活動への認識を正式に示したのは、これが初めてだ。私たちが(指定前に)行ったイベントの一部に、誰も知らない人物がこっそり現れた。集会の様子を撮影していて、他の参加者が話しかけようとすると、すぐに立ち去った」
ミハイロフ氏によれば、ブドゥシェバは過去1年、資金調達イベントや抗議行動で大衆やメディアの関心を集めており、ロシア当局にもこれで目をつけられたようだ。
例えば、ロシアのワレンチナ・マトヴィエンコ上院議長が国際会議のためジュネーブを訪れた時も反対運動を実施した。ロシア代表団のメンバーは、欧州連合(EU)とスイスによる制裁の対象になっていた。
同氏は、ブドゥシェバの活動内容は「ロシアの政治囚を支援する。ロシア人亡命者など、ロシア大使館や、ときには現地当局までもが支援したがらない人々を助ける。ウクライナを支援する。民主主義を求め、戦争に反対するスイス在住ロシア人の主張を広める」ことだと説明する。
関係者にロシア渡航自粛を呼びかけ
ブドゥシェバは指定以降、ロシアへの渡航を控えるよう会員や支援者、協力者に呼びかけている。ミハイロフ氏は「私たちはロシア領内で全く活動しないが、私たちに協力したというだけで、ロシアにいる人を訴追する口実に使われかねない」と語る。
「好ましからざる団体」のリスクは大きく、運営者は最長禁錮6年の刑を科される可能性がある。
ドーシチのザドコ氏と、独立ニュースメディア、メドゥーザ外部リンクのガリーナ・ティムチェンコ代表は、よく似た刑事訴追の標的になってきた。ティムチェンコ氏は「好ましからざる団体」の活動に関与したとされ、被告不在のまま禁錮5年の有罪判決を受けた。ザドコ氏は、ロシア軍に関する「フェイクニュース」を広めて「外国の代理人」の取り締まり法に違反したとされ、同じく被告不在で禁錮8年の有罪判決を受けた。さらに、両氏は現在、ロシアの指名手配外部リンクも受けている。
また、選挙監視団体ゴロス外部リンクのグリゴリー・メリコニヤンツ外部リンク共同代表は、禁錮5年の判決を受けて今も服役している。ゴロスは2000年に創設され、ロシアの選挙での不正や投票規定違反を告発してきた。
ロシアの人権問題を担当するマリアナ・カツァロワ国連特別報告者は「訴追は政治的動機によるもので、証拠の提示に歪曲があったり、被告人の権利を無視したりと、法的根拠は疑わしい」と語る。
「好ましからざる団体」への指定は検事総長室が決める。前出のロシア人弁護士によると、国内の裁判所に異議申し立てをした指定組織はいくつかあるものの、いずれの主張も認められていない。
ロシアの人権問題を担当するマリアナ・カツァロワ国連特別報告者は「訴追は政治的動機によるもので、証拠の提示に歪曲があったり、被告人の権利を無視したりと、法的根拠は疑わしい」と語る。
「好ましからざる団体」への指定は検事総長室が決める。前出のロシア人弁護士によると、国内の裁判所に異議申し立てをした指定組織はいくつかあるものの、いずれの主張も認められていない。
ロシア政府から「好ましからざる団体」の一員と認定された人々には、危険な移動先が多い。国によって入国時に国外追放処分を受けたり、ひどければ逃亡犯としてロシアに引き渡されたりする恐れがあるからだ。
ロシアは反体制派への嫌がらせのため、「赤手配書」をしばしば悪用する。国際刑事警察機構(ICPO)が運用する国際逮捕手配書のことだ。その一方、独自の標的候補データベースも構築している。
人権擁護に取り組むアナスタシア・ブラコヴァ弁護士は「刑事手続きが始まれば、当局は対象を国家間の手配リストに掲載し、二国間協定に基づき引き渡しを求めることなどができる。国外に及ぶ法的影響は全て、刑事での立件から始まる」と説明する。ブラコヴァ氏は訴追に直面するロシア人の支援ネットワークとして最大のコフチェク(方舟)外部リンクの創設者で、自身もロシアの裁判所から有罪判決を受けている。刑は標準レベルの厳格さとされる矯正施設への収容で、刑期は計8年2月だ。また、同氏は国外在住のため、判決の言い渡しは被告不在で行われた。
ロシアは国際刑事警察機構とは別の手配者リストを用意し、旧ソビエト連邦の構成国からなる独立国家共同体(CIS)外部リンク内で運用している。
「本人が知りもしないうちに、リストに掲載されることもある。そのままカザフスタンのような国に渡航すれば、もうそこまで。対象が誰であれ、当局には立件を通知する義務がない」(ブラコヴァ氏)
スイスインフォの取材に応じた弁護士らによれば、ロシアからの亡命先としての安全性を国・地域別で比べると、スイスは最上位層に入る。裁判所がロシアからの犯罪人引き渡し要請を慎重に吟味するためだ。英国の裁判所もまた、政治的動機を理由にたびたび要請を拒否している。
欧州連合(EU)加盟国の大半も、通常は政治亡命者にとって安全と考えられる。ただし、キプロスとハンガリーの対応は比較的予想しにくいという。他には、イスラエルやアルゼンチン、モンテネグロが安全な部類に入る。
一方、弁護士らはアラブ首長国連邦(UAE)やCIS加盟国全て、セルビア、タイ、インドネシアへは渡航を控えるようすすめている。トルコとメキシコの対応は予想不能と評し、ジョージアは過去数年でリスクが増したとみる。ある弁護士は「引き渡しよりも国外退去の手続きの方がずっと簡単、迅速な国が多い」と指摘する。
ブラコヴァ氏によれば、交流サイト(SNS)の利用はリスクを高める恐れがある。同氏は「情報を慎重に管理する必要がある。移動や旅行計画について投稿してはいけない」とし、世界とのつながりやすさが危険を招くと警告。「私たちはそういう現実を生きている」と語る。
法改正で指定対象拡大
ロシアでの法的手段を尽くした後、欧州人権裁判所(ECHR)に申し立てをした人もいる。同裁が所属する欧州評議会は2022年にロシアを除名したが、申し立ては提出済みだったため裁判は続行した。判決は2024年6月に下され、「好ましからざる団体」の指定法は欧州人権条約のうち結社の自由などを定めた条項に違反している外部リンクと断じた。
一方、ロシアの議会は2024年7月、同法が対象とする在外団体の範囲を拡大する改正案を可決。民間・市民団体のみを指定できた従来規定に対し、外国政府系の団体も指定できるようにした。改正はプーチン氏の署名により同年8月に成立している。
また、議会は今年5月、公の場で国益に反する発言をしたと判断された個人が出国した場合について、罰金刑執行のため裁判所による資産差し押さえを可能にする法案を可決した。発効は9月を予定している。
「好ましからざる団体」に指定された組織のうち、ロシア国外に逃れたロシア語メディアは10団体を超える。ロシアの人権状況を報じるOVDインフォ外部リンクのアレクサンドル・ポリヴァノフ氏によれば、対象組織に関するリンクを共有したり、ロゴマークを再投稿したりするだけで組織への参加と見なされる恐れがある。
一方、ドーシチのザドコ氏は、「好ましからざる団体」の指定が増えても、亡命ロシア人らに大きな害は及ばないと見込む。同氏への刑事手続きは始まっており、指定のような行政的措置が拡大しても影響は限定的だという。
「ロシア国内での仕事は難しくなり、ロシアからの寄付は絶たれる。しかし、私たちはそういう縛りへの対処法をすでに習得している」
編集:Tony Barrett/vm/ds、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:宇田薫
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