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若い声、映像詩、そしてベンチャービジネス 2026年ロカルノ国際映画祭を総括する

スイス人映画監督イサ・ヘッセ・ラビノヴィッチが制作し長く忘れられていた「Ghosts and Guests」(1989年)の1シーン。ロカルノ映画祭ではシネマテーク・スイスにより修復された同氏作品のうち2本が上映され、好評を博した
スイス人映画監督イサ・ヘッセ・ラビノヴィッチが制作し長く忘れられていた「Ghosts and Guests」(1989年)の1シーン。ロカルノ映画祭ではシネマテーク・スイスにより修復された同氏作品のうち2本が上映され、好評を博した Cinémathèque Suisse

若者の成長を描く物語と斬新な切り口の映像詩を取り混ぜてみせた第79回ロカルノ国際映画祭。業界関係者の来場者数は過去最高を記録し、インディペンデント映画への投資意欲の高まりを実感させた。

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若い世代が映画館に戻り始めている外部リンク。配信サービスやビデオゲーム、ソーシャルメディアの登場で甚大な影響を受けた業界は、文化体験の共有を見直す動きに巻き返しへの希望を託す。

偶然かどうか、今年のロカルノ映画祭では青春や大人になる過程、若い世代を取り巻く社会や政治の現実を描いた作品が目立った。しかもその多くは監督デビュー作でもあった。映画祭の最高賞である金豹を獲得したのも、そうした作品の1つだ。

ルーマニアのフローリン・セルバン監督による金豹受賞作「You Don’t Belong Here」は、母を亡くしたティーンエイジャーの息子が覆面自警団で夜な夜な活動していることに気づかないシングルファーザーを描いた。

今年の金豹を射止めたルーマニア映画「You Don’t Belong Here」
今年の金豹を射止めたルーマニア映画「You Don’t Belong Here」 Fantascope Films

こうしたテーマは世界的なトレンドらしい。今回の映画祭ではアルゼンチン(「The days Off」「The Illusion of an Everlasting Summer」)、カナダ(「Manhunt」)、米国(「Destroy All Girls」)、ガーナ(「Ego Reach We All」)、中央アフリカ共和国(「Congo Boy」)、スイス/ポルトガル(「Crocodil」)、イタリア(「Ketticè」)と、様々な国の作品が当てはまる。ウクライナの「I Rarely Wake Up Dreaming」は、テーマをジェンダーや戦争にも広げた。

ロカルノの2つのメインコンペティションで上映された32作品のおよそ半数が、青春やアイデンティティー問題、大人への成長過程を取り上げた。主題こそバラエティーに富むが、このパターンが示唆するのは、自らの経験をスクリーン上に反映させたい世代の存在だ。

ベンチャービジネスの進出

映画業界側でも関心が高まっている。ロカルノ映画祭の商業面にフォーカスしたメディアによると、プロデューサーや配給会社、投資家を対象とした映画祭のマーケット部門「ロカルノ・プロ」には今年2140人の登録があった。過去最高を記録した昨年をさらに10%上回る数字だ。

その内訳をよく見ると、新顔の存在に気づく。ベンチャーキャピタルだ。米エンタメ誌バラエティ外部リンクによると、様々なリスクがあり収益性の予測が困難な業界であるにもかかわらず、投資家の間でインディペンデント映画産業への関心が高まっているという。同誌は「放送局の予算や国際配給会社の投資、さらには国の助成金までが縮小するといった昨今の状況」がこれら投資家にとっては参入の好機であり、将来的に「システム全体が新しいプレイヤーによるルール変更に適応する」ことを迫られるだろうと分析する。

現時点ではこれがどう業界再編につながるかは定かでない。特にインディペンデントプロダクションにはメインストリームの定石が通用しない分野だ。また投資家は、プロジェクトを個別に支援するよりも、むしろパリ拠点のmk2やオンラインプラットフォームのMubi、エナジードリンクで知られる複合企業の映画部門レッドブル・スタジオのように、プロダクションや配給、セールスなどで既に実績のある企業を束ねたポートフォリオ戦略に傾いている。

主な受賞作

ロカルノ映画祭では、上映作品の公式セレクションの質を識者が論評するのが恒例行事となっている。過去の名作や希少作品、批評家のチョイスを集めた部門は通常無風で、議論の俎上に載るのは主として国際部門と監督第1作・第2作を対象とする新鋭監督部門の2つの主要コンペティションだ。

ジオナ・A・ナザロ芸術監督は今年、新進映像作家と、ホン・サンス監督(韓国)やネルソン・ヨー監督(シンガポール)、グルヴィンダー・シン監督(インド)、デニス・コテ監督(カナダ)など既に地位を確立した映画監督とを同時にフィーチャーするという折衷主義的なメインコンペティションを企画した。中でもエノック・カルヴァーリョ、マテウス・ファリアス両監督のデビュー作「The Riverbank」を新鋭監督部門でなく国際部門に置いたことは、かなり大胆な選択だった。

ナザロ氏の賭けは成功した。「The Riverbank」は特別審査員賞を受賞し、過去にもグラウベル・ロシャ監督やクレベール・メンドンサ・フィリオ監督などブラジル映画界の新しい才能を発掘してきたロカルノの面目躍如を果たした。

新鋭監督コンペ部門は、斬新な語り口への指向をさらに強めた。フォトグラファーとして国際的に有名なアルゼンチンのアレッサンドラ・サンギネッティ氏の「The Illusion of an Everlasting Summer」は、20年以上にわたりブエノスアイレス周縁の田舎町に住む2人のいとこたちの成長を追った自身の写真プロジェクトをドキュメンタリー映画に落とし込んで作られた。

新鋭監督コンペティション部門で金豹を獲得した「The Illusion of an Everlasting Summer」。批評家と観客双方から圧倒的支持を受けた本作の受賞は、国際コンペティション部門と異なり意外性はゼロだった
新鋭監督コンペティション部門で金豹を獲得した「The Illusion of an Everlasting Summer」。批評家と観客双方から圧倒的支持を受けた本作の受賞は、国際コンペティション部門と異なり意外性はゼロだった Alessandra Sanguinetti

アートと実験映画の間を自由に行き来するブラジル人監督アナ・ヴァス氏の「Hanabi」は、福島原発事故(と地球規模の惨事)をテーマに10年以上をかけたプロジェクトの制作過程を描いた。

「Hanabi」は、映画と文学、ビジュアルアートを融合した作風からいかにも「実験映画」にカテゴライズされそうな作品だ。だが、クリエイター本人はそうしたレッテルを断固拒否すると思われる。同氏はスイスインフォが取材した際「ドキュメンタリー映画やエッセイフィルム、フィクション映画といった伝統の枠組みにおける規範を超えようとしないのは映画が無力だということであり、私はそれを認めない」と話した。

ロカルノの表彰式に出席したブラジル人映画監督アナ・ヴァス氏
ロカルノの表彰式に出席したブラジル人映画監督アナ・ヴァス氏 Locarno Film Festival / Ti-Press

詩的な映画、リアルなシネマ

アナ・ヴァス氏は、メインストリーム作品とオルタナティブ作品、あるいはいわゆる実験作品を分けないというナザロ氏の決定を歓迎する一方で、このやり方では受賞チャンスが著しく低い後者がコンペ上不利になるとも主張する。ちなみに「Hanabi」は特別賞を受賞した。

サンギネッティ氏とヴァス氏の上映リスト入りは、シネフィル天国としてのロカルノを観客にあらためて実感させた。今年のセレクションで特に充実していたのが、きわめて詩的な作品(「実験的」に変わる言葉を探してみた)の数々だ。スイスの芸術家でグラフィックデザイナー、フォトグラファー、映画作家のイサ・ヘッセ・ラビノヴィッチ(1917〜2003年)へのオマージュとして上映された「Siren Island」(1981年)と「Ghosts and Guests」(1989年)もそうした作品だ。共に最近修復作業を終え、公開がかなった。

イサ・ヘッセ・ラビノヴィッチ(右)と歌手で作曲家のヴェロニク・ミュラー。ミュラーは「Siren Island」に楽曲を提供した。壁には映画の宣伝ポスターが掛かる(1982年1月)
イサ・ヘッセ・ラビノヴィッチ(右)と歌手で作曲家のヴェロニク・ミュラー。ミュラーは「Siren Island」に楽曲を提供した。壁には映画の宣伝ポスターが掛かる(1982年1月) Keystone / Str

ヘッセ・ラビノヴィッチが生前認められたのはフェミニスト映画のパイオニアとしてであり、義父である文豪ヘルマン・ヘッセの知名度に助けられたものではない。当時の女性芸術家はそうした見方をされがちだった。今回上映されたのはスイスの映画資料館「シネマテーク・スイス」が修復中の作品群のほんの一部に過ぎず、全体の公開が待たれている。

「コンペティション外」部門で上映されたポルトガル人監督エドガー・ペラ氏の「Asphalt Guerrilla (Guerrilha no Asfalto)」も映像詩系の作品だ。パンクな迫力に溢れた多層的モキュメンタリー(ドキュメンタリー風に作られた風刺映画)であり、(オート)フィクション、ドキュメンタリー、そしてエッセイ映画の境界線が故意にぼかされている。

カーネーション革命(1974年)によりポルトガルで50年続いたファシスト政権を倒した後の都市ゲリラの一味を追った古いプロジェクトを修復するという設定をベースに、政治的ゲリラの記録とゲリラ撮影の記録を錯綜させつつ過去50年間の映画の発展に関する考察へと次第にシフトする。その終点は危険で恐ろしい使われ方をするAI(人工知能)だ。

この映像を真に受けないように。これは実際の監督ではない」。映画の醍醐味を伝えるエドガー・ペラ監督のモキュメンタリー「Asphalt Guerrilla (Guerrilha no Asfalto)」の1シーン
「この映像を真に受けないように。これは実際の監督ではない」。映画の醍醐味を伝えるエドガー・ペラ監督のモキュメンタリー「Asphalt Guerrilla (Guerrilha no Asfalto)」の1シーン Edgar Pêra

スイス映画

国際コンペティション部門にスイスから出品されたのは、バジル・ダ・クーニャ監督の「レボレイラ三部作」の最終章「O Jacaré (Crocodile)」だ。1作目「O Fim do Mundo (The End of the World」(2019年)、2作目「Manga d’Terra」(2023年)に続き、作品中でダ・クーニャ氏自身の芸術と人生が溶け合う。

スイスのポルトガル移民家庭に育ったダ・クーニャ氏は、映画制作を学ぶとポルトガルに渡った。無一文の状態で到着し、じきにレボレイラ地区に落ち着いた同氏は、しばらくすると主にカーボベルデ系移民とその家族が暮らすこの地域で住民らを巻き込み映画を作り始めた。作品には友人や隣人の実体験が反映された。

20年という年月の間に、ダ・クーニャ氏の周りには協力者たちのコミュニティーが築き上げられた。一方、初期作品にみられるレボレイラはもう存在しない。都市の膨張と不動産投機は、必然的に立ち退きや離散を引き起こしながら首都リスボンを越え、貧しいレボレイラをも飲み込んだ。

バジル・ダ・クーニャ監督とその家族。ロカルノで
バジル・ダ・クーニャ監督とその家族。ロカルノで Locarno Film Festival / Ti-Press

新鋭監督部門に出品されたマテオ・イバラ監督の「Small Talk」は、スイスに残った最後のフィニッシングスクールを舞台に展開する。ハイソな世界とそのルールに魅了される多くの観客にアピールするだろう。

いずれの作品も賞は逃した。実はスイス映画は、ミラグロス・ムーメンターラー監督の「Abrir puertas y ventanas」(2011年)を最後にロカルノでは主要な賞を獲得していない。それ以前の受賞は1985年、フレディ・ムーラー監督の「Alpine Fire」までさかのぼる。

それでも観客賞はスイス映画が獲得した。ピアッツァ・グランデの野外スクリーンで上映された作品の中から観客が投票で選んだのは、ペトラ・フォルぺ監督初の英語作品「Frank & Louis」だ。それはまさに直接民主制が見事に機能した瞬間だった。

観客賞を受賞した「Frank & Louis」の1シーン
観客賞を受賞した「Frank & Louis」の1シーン 2026 Zodiac Pictures Ltd / Laundry Services Ltd

編集:Mark Livingston/sb、英語からの翻訳:フュレマン直美、校正:宇田薫

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