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パーキンソン病患者が転ばず歩けるように 脊髄に電気刺激  

重度の運動障害を抱えていたパーキンソン病患者の体内にインプラントを埋め込み、脚の筋肉を制御する脊髄部分に電気刺激を与える実験を行ったところ、患者の歩行能力が改善し、転ばずに歩けるようになった。スイス・ローザンヌ大学病院(CHUV)の研究開発チームが6日、医学誌「ネイチャー・メディシン」で発表した。

仏ボルドー出身のマルクさん(63)は、1996年にパーキンソン病と診断されてから約30年にわたり闘病生活を送ってきた。パーキンソン病の症状である「ふるえ」や「こわばり」は、2004年に受けたドーパミン投与と脳深部刺激療法(DBS)で改善した。しかし、「バランス障害」や「すくみ足」など、重度の歩行障害も発症した。

ローザンヌ大学病院で脊椎から脚の筋肉への信号伝達を回復させるためのインプラント手術を受けると、マルクさんは「生まれ変わったように」なり、自立を取り戻すことができた。歩行能力が改善し、転ばずに歩けるようになったからだ。

マルクさんは、「前は一日に何度も転ばなければ歩けなかった。エレベーターに乗るときなど、その場に凍りついたように踏ん張ってしまうこともあった」と手術前を振り返る。「今はもう階段だって怖くない。毎週日曜日には湖に行って、5キロメートルほど歩く。信じられない」

腹部に埋め込んだ電気刺激発生装置から、脊髄に埋め込んだ電極に電気刺激が送られ、脚の筋肉を活性化する。

両足に運動センサーを装着した患者が歩行を開始すると、自動的にインプラントのスイッチが入り、脊髄に電気刺激を与え始める。この電気刺激によって、脳から脊髄を通って脚に送られる異常な信号が修正され、正常な歩行を促すことができる。

パーキンソン病はふるえやこわばり、バランス能力の低下、協調運動障害(ゆっくりとした動きが難しく、体が勢いよく動いてしまう)などの症状を特徴とする神経変性疾患。世界保健機関(WHO)によると、パーキンソン病患者の数は過去25年間で倍増している。2019年の世界の患者数は推計850万人以上とされている。

医学誌「ネイチャー・メディシン外部リンク」に発表されたこのインプラント技術は、まだ完全な臨床試験には至っていない。しかし、まひを克服するためのブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の開発に長年取り組んできたローザンヌ大学病院は、この技術がパーキンソン病患者の運動障害に対する全く新しい治療法を切り拓いていくと期待している。

「まひ患者に対して行ったのと同様、脊髄に電気刺激を与えることで、パーキンソン病患者が抱える歩行障害を改善できた。これを目の当たりにして感動している」。研究を共同執筆したローザンヌ大学病院のジョセリーヌ・ブロッハ教授(神経外科)はそう語った。

スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)とローザンヌ大学・同大学病院で教鞭をとるグレゴワーヌ・クルティーヌ氏(神経科学)によると、研究チームは2024年に新たに6人の患者を対象に臨床試験を行う予定だ。技術を完成させる「概念実証」のためには、少なくとも5年間の開発とテストが必要になるという。

英語からの翻訳:大野瑠衣子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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