チューリヒ州、自殺ほう助めぐり「宗教戦争」 今月住民投票
スイス・チューリヒ州内のすべての介護施設や病院に対し、施設内での自殺ほう助を認めることを義務付ける改正法案が今月、住民投票にかけられる。しかし、自殺を非とする民間経営のキリスト教系施設はこれを自律性と信教の自由の侵害だと主張している。
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チューリヒ州では今月27日、患者・医療法の改正案をめぐる住民投票が行われる。改正法案では、精神病院と刑務所を除き、州内のすべての高齢者施設、病院は施設内での自殺ほう助を認めなければならないと規定されている。
もともとの提案は、スイスの主要自殺ほう助団体「エグジット」と「ディグニタス」が出したイニシアチブ(住民発議)だ。当初案は精神科病院や刑務所内での自殺ほう助容認も求める内容だったが、州議会は行き過ぎだとして、病院や介護施設に対象を絞った対案を作成。自殺ほう助団体側は元の案を取り下げた。
しかし保守系政党が改正法の施行に反対するレファレンダム(住民表決)を起こしたため、改正法案が住民投票にかけられることになった。
自治権をめぐる争い
スイスでは自己の利益を目的に他人の自殺を手助けした場合にのみ、刑法の処罰の対象となる。
チューリヒ州では、自殺ほう助を選択した人の大多数は自宅か、自殺ほう助団体の施設で亡くなっている。病院で亡くなる人はごく少数で、介護施設で亡くなる人は約15%に過ぎない。
患者が施設内で自殺ほう助を受ける場合、自殺ほう助団体の関係者が施設を訪れ、患者が致死薬を自ら投与して死亡する。ただ施設内での自殺ほう助が禁止されている場合は、患者は自宅か別の場所に移動しなければならなかった。
チューリヒ州では2023年に法律が改正され、公営・あるいは自治体と業務契約を結ぶすべての高齢者施設・介護施設は、施設内での自殺ほう助を容認することが義務付けられている。これは州内の施設の約9割を占める。私営施設、特にキリスト教の施設は安楽死を禁止しているため、この義務の対象外だった。だが、今回の住民投票で賛成多数となれば、これらの施設も慣行の変更を迫られる。
もともと自殺ほう助に否定的な小規模キリスト教政党、福音国民党(SVP/CDU)、福音派国民党(EDU)は法改正案に反対している。州政府、保守系右派・国民党(SVP/CDU)も反対の立場だ。
反対派は、自治体の補助を受けていない少数の施設に強制が及ぶ点を問題視する。施設のスタッフや入居者が、自らの価値観と相反する状況を強いられる可能性が出てくるため、というのが理由だ。
一方、左派・中道政党は、人生の最後まで個人の自己決定権が守られるべきだと主張する。転院がもはや不可能な状況で自殺ほう助を希望する人——たとえ以前の意向とは異なっていたとしても——が、介護施設や病院の意向で、別の場所に移送される事態はあってはならない、と主張する。
州政府は特に病院を対象に含めることに反対している。病院の使命は健康の回復にあり、それが不可能な場合は緩和ケアが行われる。州政府は、自殺ほう助の強制的な導入によってこの慣行が損なわれることを懸念している。
他の州では?
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スイスで自殺ほう助がタブーではない理由
すでにジュネーブ州とヴァレー(ヴァリス)州では、全ての介護施設と病院で、施設内の自殺ほう助が法律で認められている。ヴォー州、ヌーシャテル州、ジュラ州、グラウビュンデン州では公的機関に適用される。2022年に投票が行われたヴァレー州では、カトリック色の強い州であるにもかかわらず、76.5%が法改正を支持した。
法的な障壁もない。連邦裁判所は10年前、複数の施設を運営するキリスト教系組織「救世軍」がヌーシャテル州の法律は信教の自由の侵害だとして提訴した際、同様の法改正を支持する判決を下した。連邦裁判所は、自殺ほう助を容認することが施設の信教・良心の自由に干渉することは認めつつも、その干渉は深刻ではなく、自己決定の権利がそれを上回ると判断した。
連邦裁判所はまた「救世軍」に対し、公的補助金を辞退する自由は残されている点も指摘した。純粋な民間施設であれば、施設内での自殺幇助を禁止できると付け加えた。
この付言の意義は大きい。ヌーシャテル州では、州と業務契約を結んでいる施設のみが規制の対象となっているためだ。チューリヒ州の改正法案はこの範疇を超えており、施設の自律性と個人の自律性を真っ向から対立させる構図となっている。
反対派の中心人物で、自ら介護施設を運営するチューリヒ州議会議員(福音党)のマルクス・シャーフ氏は最近のインタビューで、あらゆる形態の自殺ほう助を否定しているわけではないと述べた。ただし、民間施設には、死を望む入居者と対話を行う権利があるべきだと主張している。
これに対し賛成派は連邦裁判所の判決を元に、個人の権利は施設の権利に優先する、と主張している。
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編集:Balz Rigendinger、英語からの翻訳・校正:宇田薫
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