スイスのベルセ内務相、突然の退任表明のワケは？

アラン・ベルセ内務相。兼務する大統領の任期終了（今年12月）と共に退任すると表明した Keystone / Anthony Anex

スイスのアラン・ベルセ内務相が21日、年末に退任すると発表した。直近まで続投の意欲を見せていただけに、突然の翻意は国内に波紋を呼んでいる。

「閣僚の任期（4年）3期というのは、連邦議会から退くには良いタイミングだ」。ベルセ氏は21日正午過ぎに緊急開催した記者会見で満足げにこう語った。退任の噂は数カ月前から流れていたが、突然の辞意表明は驚きを与えた。

フランス語圏のフリブール州出身、左派の社会民主党（SP /PS）所属。初入閣した2012年以来、常に内務相の座にいた。閣僚歴は現在の7人の中で最長だが、51歳という年齢は最年少だ。その人物像にはさらなる特徴がある。アンケートでは常に好感度の高い政治家上位に入ってきた一方、右派には多くの敵がいた。特に新型コロナウイルス危機対応を巡り、批判の矢面に立つこともあった。

21日の記者会見でベルセ氏は、自身や家族がコロナ対応への反発者からの攻撃を受け、時には警察を呼んだこともあったと繰り返した。18日の国民投票で可決されたCOVID法についても触れた。新たな流行に備えるための同法が国民投票にかけられるのは今回が3度目だった。3回目も可決されたことで、パンデミックは真の終息を迎え、退任には理想的なタイミングだとベルセ氏は説明した。

ベルセ氏は数々のスキャンダルでも話題の中心になってきた。不倫絡みの脅迫、犯罪まがいのリークを犯した側近、プライベート飛行中のフランス領空侵入….メディアの見出しを飾る数は、他の連邦閣僚とは一線を画した。

だがその人気は揺るがなかった。アンチ勢がどれだけ頑張っても、ベルセ氏を失脚に追い込むことはなかった。記者会見でスキャンダルが退任の決断に影響を与えたかと問われたベルセ氏は、いつものように自信たっぷりにこう答えた。「私がそれらを気に病んでいたとお考えなら、それは間違いだ」

ベルセ氏不在の閣僚選

今年10月には連邦議会総選挙が予定され、その後にベルセ氏の後任となる新閣僚が選出される。上下院合同議会で行われる閣僚指名選挙は、総選挙の結果次第で波乱も予想される。

7人の閣僚ポストが配分される政党は「マジック・フォーミュラ」と呼ばれる比率で決まっている。議席上位3党が2ポストずつ、第4党が1ポストを握る。支持層の安定した第1党の右派・国民党（SVP/UDC）を除くと、他の主要政党（社会民主党、急進民主党、中央党、緑の党、自由緑の党）の議席数は横並びだ。秋の選挙は連邦閣僚の政党構成にも影響を与える可能性がある。

閣僚が辞任すると同時に後継者探しも始まる。ここでは言語圏や代表地域のバランスが考慮され、性別も大きな選考ポイントだ。現在の閣僚構成を踏まえると、ベルセ氏の後任にはドイツ語圏出身の男性が選出されることは確実だ。

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2023年6月21日水曜日、ベルンで行われる辞任会見に向かうアラン・ベルセ大統領（中央）（KEYSTONE /Marcel Bieri） Marcel Bieri/Keystone

2023年6月21日、ベルンでの辞任会見に向かう道すがら、通行人との自撮りに応じるアラン・ベルセ大統領 Peter Klaunzer/Keystone

2023年大統領就任に当たってのインタビュー写真。 連邦内務省の会議室にて Thomas Kern/swissinfo.ch

2018年4月14日、公式訪日中のベルセ大統領は明治神宮を訪れ、神主らの指南を受け参拝した Keystone

2018年1月26日、スイスのダボスで開催された第48回世界経済フォーラム（WEF）年次総会（ダボス会議）で、ドナルド・トランプ米大統領と2国間会談を行ったアラン・ベルセ氏。ヨハン・シュナイダー・アマン連邦閣僚（右）、エドワード・トーマス・マクマレン米国大使（左）が陪席 Peter Klaunzer/Keystone

子供の背中を台に、スイス国旗にサインするアラン・ベルセ氏。2021年7月1日、ヴォー州ル・シェニで開かれた交流イベントにて Laurent Gillieron/Keystone

2023年5月16日、連邦工科大学チューリッヒ校（ETHZ）が企画した二酸化炭素（CO₂）埋蔵プロジェクトを視察するアラン・ベルセ氏。スイスの廃水処理工場から排出されるCO₂をアイスランドに輸送し、レイキャビク近郊のヘリシェイディ発電所近くの地質貯水池に永久貯蔵するプロジェクトだ Anthony Anex/Keystone

2018年2月6日、アラン・ベルセ大統領はバングラディシュを公式訪問。コックスバザールにあるクトゥパロン・ロヒンギャ難民キャンプを訪れ、子供たちの熱烈な歓迎を受けた Peter Klaunzer/Keystone

2018年5月25日、第16回国際建築展「ベネチア・ビエンナーレ」のスイス館で「Svizzera 240: House Tour」展を見学 Peter Klaunzer/Keystone

2018年2月4日、バングラデシュ・ダッカには、4日間の公式訪問中のアラン・ベルセ大統領とバングラデシュのハシナ首相の肖像が飾られた Peter Klaunzer/Keystone

2022年7月1日、メンドリージオでの閣僚恒例の視察旅行中のアラン・ベルセ氏 Keystone

2018年9月26日、アメリカ・ニューヨークで開催された第73回国連総会で、二国間会議の合間に地べたに座ってメモを取るベルセ氏の姿はメディアで注目を浴びた Peter Klaunzer/Keystone

2021年8月25日、新型コロナウイルスのパンデミックに関する閣僚会議後の記者会見を終え、マスクを着用するアラン・ベルセ内務相 Anthony Anex/Keystone

2018年8月1日、建国記念日を祝うリュットリでのイベントで音楽隊とセルフィーを撮るアラン・ベルセ大統領 Peter Klaunzer/Keystone

2022年5月15日、国民投票の結果を受けた閣僚会見に向かうアラン・ベルセ氏。スタイリッシュな服装もベルセ氏のトレードマークだ Peter Klaunzer/Keystone

2020年7月3日、リッギスベルクで行われた閣僚視察旅行でインタビューに応じるアラン・ベルセ氏 Peter Klaunzer/Keystone

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独語からの翻訳：ムートゥ朋子