永久凍土の融解、スイスの山小屋の半数を脅かす
地球温暖化がスイスアルプスに甚大な被害をもたらしている。永久凍土の融解や氷河の後退によって山小屋周辺の安全が危機に瀕し、山小屋へ到達するための山道はますます不安定になっている。登山客が宿泊する山小屋を管理するスイスアルペンクラブ(SAC)によると、国内152カ軒の山小屋のほぼ半数がこの影響を受けている。
ベルナー・オーバーラント地方にあるムットホルン山小屋(海抜2900m)は、永久凍土の融解により周辺の地盤が不安定化し、施設のテラス部分などに深刻なひび割れが起きていた。落石の危険が高まったことを受け、この建物は2021年に閉鎖された。
「この山小屋があと100年も持ちこたえることはないとわかっていた。しかし、これほど早く閉鎖しなければならなくなるとは」。スイスアルペンクラブ(SAC)ヴァイセンシュタイン支部のファビエンヌ・ノッター会長は、フランス語圏・スイス公共放送(RTS)にそう語った。
崩れゆく山
永久凍土は、岩を結びつける天然の接着剤のような役割を果たしている。それが融けると、水が亀裂に浸透し、岩を弱体化させる。ムットホルン山小屋の上部では、2007年に幅70㎝だった亀裂が、1.5m近くまで広がった。
「何が、いつ崩落するかは予測できない。しかし、一つ確かなのは、崩落は避けられないということだ」と、ベルン州の自然災害対策責任者、ニルス・ヘーレン氏は語る。
SACによると、スイスアルプス全域に点在する152軒の山小屋ののうち、65軒が永久凍土融解による脅威にさらされる可能性がある地域に建つ。また、落石、土砂崩れ、地盤変動により、アクセスルートもますます危険になりつつある。
代償を伴う再建
ムットホルン山小屋の代替施設が、元の場所から1km離れた、より地盤が安定し雪崩の危険が少ない場所に建設された。旧小屋は2025年の夏に、40万フラン(約7600万円)の費用をかけて完全に解体された。
このプロジェクトには、約700回のヘリコプター飛行を要した。400万フランを投じ2026年6月に開所した新しい山小屋は、SAC内部で批判を浴びている。ただ、このプロジェクトはSAC地元支部の会員の3分の2の賛成を得て承認されている。
消えゆく氷河
ヴァレー州アレッチ地方にあるコンコルディア山小屋を訪れる人々は現在、山小屋にたどり着くために500段以上の階段を登らなければならない。かつてこの山小屋は氷河から50m上部にあったが、今は氷河からおよそ300m上部に建つ。
アレッチ氷河は毎年4~6mの厚さを失い、その影響で階段は2~3年ごとに延長せざるを得なくなっている。直近の改修工事には約5万フランの費用がかかった。
山小屋では、水も希少な資源になりつつある。コンコルディア山小屋では、7万リットルの貯水タンクに雪解け水を貯めている。これは約6000泊分の宿泊に十分な量だ。
「雪解け水がなくなると、そのときに確保できた水量で翌年の5月までやりくりしなければならない」と、山小屋の管理者であるクリストフ・セーガー氏は説明する。
財政的な課題
トリフト山小屋は2021年、雪崩で全壊した。近隣の氷河の融解により周辺の地形が変化し、雪崩発生の危険区域が拡大していた。1km離れた場所に移築された新山小屋の建設費は500万フランに上った。
SACによると、急速に変化する山岳環境に合わせて山小屋ネットワークを適応させるには、年間600万~700万フランの費用が必要となる。同協会は新たな資金源を模索している。
今後数年のうちに、一部の山小屋は移転や簡素化、あるいは移動式化を余儀なくされる可能性がある。
「変化のスピードに我々は驚かされ、追いつかれてしまっている」と、SAC山小屋委員会のハンスペーター・ビュルギ委員長は語る。
英語からの翻訳・校正:宇田薫
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