スイスは高度人材にとって魅力的な国 その知られざる理由
先進国では、たとえ同等のスキルを持っていたとしても、移民労働者の賃金は自国籍の労働者よりも低いことが多い。ではなぜ、スイスでは移民労働者の賃金格差が小さいのだろうか?
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スイスが世界的に見て高賃金の国であり、外国人労働者が高給を期待できるのは周知の事実だが、その他にも知られざる利点がある。それは、外国籍であることが給与額へほとんど影響しない、ということだ。
多くの高所得国では、移民労働者の収入は自国籍の労働者よりも低い。学歴、職務経験、年齢、業種、勤務地などを考慮しても、依然として大きな格差がある。しかしスイスでは、特に欧州連合(EU)、欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国からの移民の場合、調整後賃金の差はほぼ皆無だ。
これは、スイスが世界の高度人材の獲得競争で成功している国の1つであることからも注目に値する。スイス・ローザンヌの国際経営開発研究所(IMD)が発表する世界人材ランキングで、スイスは長年、首位を保持している。2025年の世界競争力ランキングでは2位だった。 経済協力開発機構(OECD)の「人材誘致に関する指標」でも、スイスは高度人材にとって最も魅力的な国に挙げられている。
不合理な賃金格差
移民労働者が直面する賃金格差に関し、スイスと他の競合国とで歴然とした差があることは国際労働機関(ILO)の報告書外部リンクからも明らかだ。多くの先進国では、自国籍の労働者と移民労働者との間に構造的な賃金格差が存在する。
説明可能な要素の調整後も、平均約10%ポイントの賃金格差がある。女性の移民労働者の場合、格差はさらに大きくなる。特に影響が顕著なのは人材不足の専門技能職だ。ILOによると、高所得国で介護職に従事する移民労働者の賃金は、非移民労働者と比べ平均19.6%低い。
しかし、スイスは例外的な数値を示している。特に、デンマーク、オランダ、アイルランド、スウェーデンなど、優秀人材の誘致における競合国と比較すると、スイスは移民労働者の賃金格差が事実上存在しない(あるいは移民労働者のほうが高収入の場合もある)という点で突出している。
だが、上記のILOの調査結果には重要な注意点がある。上記のグラフは2015~2020年のデータを元にしたもので、現時点ではそれ以降の国際的に比較可能なデータはないからだ。
スイスの最新データから分かること
スイスに関しては、連邦経済省経済管轄庁(SECO)が調査したスイス人と外国人労働者間の賃金格差に関する最新のデータがある。
現在、EU・EFTA加盟国からの移民の調整後賃金格差はマイナス1.1%で、統計的不確実性の範囲内の数値だ。SECOはスイスインフォの問い合わせに対し、「この結果から、人の移動の自由協定によりスイスへ移り住んだ移民は概してスイス人と同等の賃金を要求し、実現していると推測できる」と回答した。
第三国(EU・EFTA域外)からの移民の場合、調整後賃金格差はより大きく、4.5%という結果となった。これに対しSECOは、構造的要因によるものと分析している。第三国における教育修了資格はスイスで互換性が認められない場合や、スイスの労働市場で同等に利用できない場合などがあるからだ。語学力不足が一因となっている場合もある。
とはいえ、ここで重視したいのはEU・EFTA加盟国からの移民に構造的賃金格差は見られない、という調査結果だ。
スイスが他国と一線を画す理由
注目すべきは、この調査結果の背景に移民への賃金差別を禁じる厳格な法律が存在しないことだ。スイスには性別に基づく賃金差別を禁じる男女平等法外部リンクはあるが、出身地や国籍を理由とした不利益待遇を禁じる労働法、特別法はない。
調査結果の背景にあるのは、スイスに移り住む移民の構成だ。過去15年間にスイスへ流入した永住移民の約77%は、人の移動の自由協定に基づいて移住してきた。こうした移民労働者の多くは、スイスの労働市場で互換性のある高い学歴や資格を持っている。スイスの公用語のいずれかを話せるケースや、社内公用語が英語の国際企業に勤務しているケースもある。
つまり、スイスにおける賃金格差の小ささは、反差別の姿勢の表れというより、欧州内からの移民が備えている高い技能がスイスの労働市場で比較的活用しやすいために生じた結果だ。高度専門分野の人材や管理職の給与が高いことも、平均値を押し上げる一因として考えられる。
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知られざるスイスの利点
しかし、チューリヒに拠点を置く、管理職や高度人材に特化した英人材紹介会社ロバート・ウォルターズのクリスチャン・アトキンソン氏(スイス事務所代表)は、調整後賃金格差の小ささは勤務地の選択にほとんど影響しない、と述べる。
国外の求職者が格差の小ささについて知っているのは極めて稀で、重視されるのは実際の給与額だ。
そしてその点にこそ、スイスの魅力と表裏一体の欠点が隠れている。給与は高いが、生活費も同じく高いからだ。
アトキンソン氏は「給与が高いことは魅力の1つだが、非常に高い生活費のために相殺されることが多い」と述べる。「長い目で見れば、たいていは投資や老後のために使える可処分所得が増えるが、高い給与のみを目的にスイスに移り住む人は往々にして失望を味わう」
求職者が高い給与だけを目的にスイスへの移住を希望するのは「危険信号」であり、勤務地の選択には「総合的観点からの検討」が欠かせない、とアトキンソン氏は述べる。それには、安全性、湖や山などの自然、子どもの生活の質などが含まれる。
つまり、スイス人とEU・EFTA加盟国からの移民との間の賃金格差が皆無に等しいことは、高度人材の大量誘致においてアピールポイントとはならない。しかし、一般的には知られていない上記の利点により、外国出身の高度人材は予想に違わぬ高い給与をスイスで得ることができる。
独語からの翻訳:鈴木寿枝、校正:宇田薫
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