The Swiss voice in the world since 1935
パーソナルフィード

ログインしてフィードにトピックを追加しましょう。

今すぐ登録
お気に入りリスト

ログインして記事を保存リストに追加しましょう。

今すぐ登録
スイスの民主主義

カーボン・オフセットに賭けたスイスの誤算 2030年目標の達成率は1%未満

外国における温室効果ガスの削減活動に投資すれば、スイス国内の気候対策の帳尻を合わせられるのか?
外国における温室効果ガスの削減活動に投資すれば、スイス国内の気候対策の帳尻を合わせられるのか? Illustration: Kai Reusser, Swissinfo

スイスはここ10数年来、他国に先駆けて国際的なカーボン・オフセット事業に取り組んできた。だが、その効果には疑問の声が上がり始めている。スイスが2030年までに達成すべき削減目標のうち、これまでの成果は1%にも満たない。同様のアプローチで排出量の削減を狙う欧州連合(EU)や日本などの国々にとって、これは何を意味するのか。

スイスは、2015年に採択された気候変動に関するパリ協定の「第6条2項」を実際に活用する先駆けとなった。同規定を利用すれば、各国は国外の排出削減プロジェクトに投資して実現した削減量を、自国の気候目標の達成分として計上できる。例えば、スイスはバンコクの電動バス導入プロジェクトに資金を提供し、そこで得られる排出削減クレジットを自国の削減目標に充てようとしている。

スイス連邦政府はこの10年間にこうした二国間協定を16件締結し、2030年の気候目標の最大3分の1を外国のカーボンクレジットで達成する方針を掲げてきた。このクレジットは「国際的に移転される緩和成果(internationally transferred mitigation outcomes: ITMOs)」とも呼ばれる。協定に基づき提案されたプロジェクトのうち、連邦環境省環境局(BAFU/OFEV)が承認したのは6件で、28件は今なお審査中だ。だがスイスが国外の排出削減によって得ようとするCO2削減目標3400万トンに対し、これまでに達成できたのは0.36%にとどまる。

こうしたスイスの現状について、ベルギー環境NGOカーボン・マーケット・ウォッチ(CMW)のフェデリカ・ドッシ氏は「化石燃料関連のプロジェクトを対象から除外するなど、適切な対策を取ってはいるが、実際に得られたクレジットは期待していたものとは違う」と語る。

グラフ
SWI swissinfo.ch

「例えばバンコクの電動バス導入プロジェクトは、クレジットに質が伴っていない。ところがスイスは目標を達成できないと分かった今も、代替策を用意していない」とドッシ氏は指摘する。

こうしたプロジェクトは、パリ協定第6条に基づく厳格な基準を満たさなければならない。実際に排出が減り、長期的に維持され、透明性が確保されていることなどを証明する必要がある。だがその内容を正確に記録し、検証するには時間がかかる。仮にクレジットを確保できても、その質には疑問が残るケースが多い。

パリ協定第6条は、前身にあたる京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)が抱えていた問題を解決する狙いもあった。2024年に英科学誌ネイチャーに掲載された研究外部リンクでは、CDM下で実施されたプロジェクト2346件を調査。発行されたクレジットのうち、実際に排出削減を達成できたのは16%未満だった。特に調理用コンロのプロジェクトは最も成績が悪く、達成率は11%にとどまる。

同調査の対象は第6条に基づくクレジットではなかったが、スイスが購入しているのは、まさにこの種のプロジェクトだ。スイスのNGO南同盟(Alliance Sud)とファステンアクツィオンは、スイスの支援がなくてもバンコクのバスは2030年までに電動バスに置き換えられていた可能性が高いと指摘。これに対しクレジットを購入した気候保護・カーボンオフセット財団(KliK)は、この主張は憶測に過ぎないと一蹴している。またガーナの調理用コンロ導入プロジェクトをめぐっては、実際の削減量を超えるクレジットが発行されたという指摘もある。

【動画】スイスが融資するセネガルのカーボン・オフセット事業

環境局はスイスの代替策について、政府が来年、2030年の目標の進行状況を検証する予定であると回答。また、質の高い排出削減プロジェクトを確保すべく、パリ協定に基づく炭素市場の発展にも積極的に取り組んでいると説明した。

カーボン・オフセットを利用しているのはスイスだけではない。ノルウェーやシンガポール、そして日本も同条項に基づく二国間協定を締結しており、気候目標を達成するために数億単位のクレジットを購入すると表明している。

問題に直面するスイスの戦略

マリオンナ・シュラッター下院議員(緑の党、GPS/Les Verts)は今年5月、独語圏のスイス公共放送(SRF)のインタビューで、カーボン・オフセット戦略は「完全な失敗」であり、スイスが「責任を逃れている」と批判した。左派のナディーン・マスハルト氏(社会民主党、SD/DS)も、外国のクレジットは主張されているほどCO2を削減していないケースが多いと警告した。

市場原理に基づく解決策を支持する中道右派のクリスティアン・ヴァッサーファレン氏(急進民主党、FDP/PLR)も、現行の取り組みには問題があると認めた。

こうしたオフセット・クレジットが抱える問題の1つは、市場規模が小さいことだ。ガーナやペルー、タイなどの限られた国で達成できるクレジットをめぐり、スイスはシンガポールや日本、EUと競合している。そのため、裕福な国々が削減しやすい排出量ばかりを選び、削減が難しい取り組みを他国に押しつけているという懸念が生じている。

現時点でのスイスの排出量は、1990年の水準を22.3%しか下回っていない。これでは「2030年までに排出量を半減する」という目標には遠く及ばない。自国における脱炭素化という、より困難な課題を回避するために外国でのクレジットを利用した可能性は否定できない。

ドイツの調査機関ニュークライメート・インスティテュート(NCI)に所属するジュリエット・ド・グランプレ氏は、「スイスが苦戦しているのは、単に質の高いクレジットが見つけにくいのではなく、構造的に不足していることを証明している」と語る。さらに、「安価な」カーボン・オフセットという選択肢は近いうちにほぼ消滅すると予測する。これはスイスなどにクレジットを販売している国々も、自国の排出削減目標を自ら達成する必要性があるからだ。

「スイスの事例は非常に興味深い。スイスは1つの方法にすべてを賭けていながら、それが上手くいっていないうえに、自国の排出量を減らす対策も不十分だ。つまり両方で行き詰まっている」(グランプレ氏)

柔軟性か、後退か?EUが直面するジレンマ

同じアプローチを採用している他国も、状況は似たり寄ったりだ。気候変動対策に多額の資金を拠出しているノルウェーは、パリ協定第6条に基づき2030年までに1500万トン分のクレジットを購入すべく、15億6000万ドル(2477億円)を拠出すると約束した。だが今年9月時点で、オフセットの実績は1件も報告されていない外部リンク。

またシンガポールは、ガーナ、ペルー、パラグアイから220万トン分のクレジット外部リンクを調達する契約を約6000万ドルで締結している。クレジットは今年から2030年にかけて移転される予定だが、現時点ではまだ1トン分も移転されていない。 

グラフ2
SWI swissinfo.ch

日本は二国間協定を32件締結し、2億ドル(約318億円)相当のクレジット調達目標を掲げている。しかし国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に提出した2025年の報告書外部リンクによると、タイとモルディブから移転されたITMOsは、約1442トン(CO2換算)にとどまる。

こうした各国の苦戦を受け、EUも重大な岐路に立たされた。EUは2040年の気候目標の達成にあたり、1990年の純排出量の最大5%分を外国のクレジットで補う方針で合意した。

だがカーボン・オフセットの現状を踏まえ、EU加盟国は国内の取り組みだけで排出削減目標を達成し、オフセットは世界全体の排出削減に貢献するためにのみ利用すべきだと専門家らは主張している。

「第6条は本来、各国の気候対策への意欲を高めるためのものだった。ところがEUは削減努力を後退させるために利用している。これでは柔軟性ではなく、後退だ」とドッシ氏は述べる。

制度の改善か、自力で排出量を減らすか

カーボン・オフセットの問題に対処するには、対象プロジェクトの基準を厳格化するか、この制度を廃止し、各国に国内で排出を削減するよう義務づけるか、いずれかの選択を迫られる。だが基準の厳格化に対し、各国の反発は必至だ。

環境局はこれまで、パリ協定第6条2項に基づく二国間協定を適切にモニタリングすることで、目標を達成できると繰り返し主張してきた。だが監視団体は懐疑的だ。ベルギーの環境NGOカーボン・マーケット・ウォッチによると、第6条2項には、カーボン・オフセットの品質を十分に保証する仕組みがない。土地の不当な取得や人権侵害の防止をするための安全策も不十分だ。例えば先住民や地域社会から、事前に十分な情報を提供したうえで自由意思に基づく同意を得ることなどが義務づけられていない。加えて、オフセット制度の不正利用に対する実効性のある罰則がほとんど存在しない。その説明責任を果たす役割まで、資金不足に苦しむ市民団体に委ねられていると同NGOは指摘する。

「例えば『永続性』のような重要な要件が1つでも欠けていれば、そのクレジット全体の健全性が損なわれる。7つの要件のうち6つを満たしても、成功とは言えない」とドッシ氏は語る。こうした厳格な基準が設けられなければ、各国は国内での対策を後回しにして、欠陥を抱えたオフセット制度への依存をより強めるのではないかと懸念する。「私たちの世界には、そんなことをしている余裕はない」

編集:Gabe Bullard/vdv, dos、英語からの翻訳:シュミット一恵、校正:大野瑠衣子

人気の記事

世界の読者と意見交換

Google で Swissinfo を優先する

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部