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スイスの民主主義

ガザ侵攻3年、顧みられない妊産婦のリスク

パレスチナ自治区ガザで続く戦争により、妊娠・授乳期の女性らに特有の危険が生じている。保健・医療体制の大部分が壊滅したため診療や支援を受けることが困難で、費用も高い。衛生状態も最低の水準にある
パレスチナ自治区ガザで続く戦争により、妊娠・授乳期の女性らに特有の危険が生じている。保健・医療体制の大部分が壊滅したため診療や支援を受けることが困難で、費用も高い。衛生状態も最低の水準にある Hassan Herzallah

パレスチナ自治区ガザでの戦争が始まってから3年が経った。国連によると、妊産婦と新生児に対する現地の保健・医療体制は壊滅状態に陥っている。

ナガムさん(29)はパレスチナ自治区ガザの南部ハンユニス、アル・マワシ地区にある避難民キャンプで暮らしている。自分が妊娠していることを知ったのは2月、出血と激痛で病院に搬送された時だ。

現在、妊娠8カ月を迎えたナガムさんは、妊婦として生きることは全般的に極めて「難しい」とスイスインフォに語る。

「生活環境のせいで、心身ともに疲れ果てた。ひどい食料不足の後はなおさらだ。ストレスに加え、暑さや湿気、衛生状態の悪さもある」

定期検診は受けられなかった。最寄りの病院まで2時間かかるうえ、交通費が払えなかったからだ。人道団体がキャンプ近くに診療所を開設し、ようやく医療が受けられるようになったのは、この夏のことだ。必須のビタミン剤や医薬品を手に入れるのもとても難しく、費用もかさんだ。

最近はひどい感染症にかかり、抗生剤が必要になった。また、8月の平均気温は33度まで上昇。極度の湿気と合わさり、息をするにも眠るにも苦労した。

イスラエルの存在を認めないガザの武装勢力ハマスは2023年10月7日、他の集団を率いて同国を攻撃し、約1200人を殺害した。イスラエルはこれを受けてガザ侵攻を開始。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、パレスチナ側では2026年9月末までに7万4000人を超える死者が報告されている。

ガザでの戦争により、妊娠・授乳期の女性らに特有の危険が生じている。保健・医療体制の大部分が壊滅したため診療や支援を受けることが困難で、費用も高い。衛生状態も極めて劣悪で、テントやあり合わせの設備で出産せざるを得ないことが多い。

英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院とパレスチナのアルクッズ大学の調査によると、2023年10月8日時点で妊娠していたガザ女性の死亡率は翌年6月までに妊婦10万人当たり948人に上った。ただし、死因の大半は妊娠・出産を原因としない外傷とみられている。この調査結果は6月、世界保健機関(WHO)発行の医学誌に掲載された。

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届かない食料と始まらない再建―ガザ在住記者が見た停戦9カ月目の実情

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侵攻開始前のガザにおける妊産婦死亡率は、生児出産10万人当たり30人だった。他国の水準を見ると、例えば米国は2024年時点で17.9人、スイスは2023年時点で5人となっている。ただし、両大の調査では妊産婦数を分母としたほか、死亡した妊産婦を原因を問わず分子に加えたため、一般的な妊産婦死亡率(年間の出産数に対する妊娠・出産に起因する死亡数の割合)とは単純に比較できない。

医療体制の破壊

ガザでは広範な保健・医療体制の劣化により、妊婦が診療を受けられる場所が減っている。

世界保健機関によると、過去3年のイスラエルの攻撃でガザにある病院のほとんどが破壊されるか損害を受け、医薬品の供給も妨げられたと報告されている。多くの人が家を追われて飢えるなか、こうした状況は妊産婦の死亡や流産、新生児の死亡が急増する要因となった。

国連は2025年12月、ガザの妊産婦・新生児医療体制は「壊滅」したと発表した。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は「ガザの女性の間では、2024年末までに出産時の死亡リスクが戦争前の3倍、流産リスクも3倍に上昇した」と報告している。

イスラエルの政治・軍事指導者らはこれまで一貫し、ガザでの軍事作戦は自衛であり、ハマスや他のパレスチナ武装集団を打ち倒すため実施していると発言。軍の作戦は国際法にのっとって遂行し、民間人の被害を軽減するため可能な限りの措置を取っているとも主張している。

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2024年11月、国際刑事裁判所(ICC)は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(左)と、同国の元国防相ヨアヴ・ガラント氏に対し、2件の逮捕状を発行した。

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国際都市ジュネーブ

ガザ攻撃から3年 ハマスとイスラエルへの国際的な戦争犯罪訴追はどこまで進んだか

このコンテンツが公開されたのは、 2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃は、ガザでの壊滅的な戦争の引き金となった。3年が経過した今、ハマスとイスラエルの双方が国際司法の場での訴追に直面している。現状を整理する。

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イスラエルはまた、ハマスはガザの病院を戦闘員の隠れ家や作戦拠点にしていると説明してきた。しかし、パレスチナ被占領地域に関する国連の独立国際調査委員会は2024年9月、イスラエルはガザの主要医療施設の85%余りをハマスが使っていたとの広範な主張に関し、証拠を示していないと報告した。ガザ市のアル・シファ病院については横穴・縦穴が存在したことや、武装集団メンバーが院内に入ったことを示す情報を確認したが、穴が軍事目的で使われたことは確認できず、砲撃された病棟に兵力が存在した証拠もないとした。

女性の保護は話題になっているが…

戦争による女性特有の被害については、2000年以降に国際的な関心が高まってきた。国連安全保障理事会が同年に採択した決議1325号は、紛争下での女性保護と平和構築への女性参加を国際社会の課題に据えた。国際刑事法も戦時性暴力を犯罪として扱っている。

しかし、国際人道法が武力紛争中の妊婦と乳幼児の保護を明記しているにもかかわらず、生殖に関連する暴力への世界の関心は比較的低調だ。

ガザの女性団体
ガザの女性団体 Hassan Herzallah

テロ対策と人権に関する国連特別報告者を務めたフィヌーラ・ニー・イーライン氏は2024年2月、オンライン誌ジャスト・セキュリティーで、お腹の子どもや新生児を抱えて妊娠・出産期や産褥期を生き延びようとする女性らに暴力が及ぼす影響は、交戦者の義務をめぐる世界の政治論議で全く重視されていないと指摘。ガザでの戦争はこのことを浮き彫りにしていると論じた。

人権団体や医療団体は、そうした状況を変えるよう訴えてきた。米国の非営利団体「人権のための医師団(PHR)」とイスラエルの人権団体「人権のための医師団・イスラエル(PHRI)」は1月、それぞれ報告を出し、ガザの2025年前半の出生数が22年の同じ時期から41%減少したことや、妊産婦の死亡や流産、新生児の死亡、早産が著しく増加したことを取り上げた。

PHRIのプロジェクトを率いるラマ・バクリ氏は「妊娠・授乳期の女性やその子どもらは、健康と生命を脅かす深刻かつ現在進行形の危険に直面している。これは必然だ。保健・医療体制を壊され、基礎的な生活条件を否定されながら、必要最小限で耐え忍び、ただ生き残るだけの日々を終わりなく繰り返しているのだから」と語る。

両団体は国連調査委員会と並び、イスラエルはガザの生殖医療体制を意図的に解体していると非難する。

国連調査官や人権団体は生殖医療の破壊には国際法違反の疑いがあると言い、ガザにおける妊婦や子どもへの加害は戦争犯罪や人道に対する罪に相当し得るとの主張もある。ただし、いずれも各組織の法的見解であり、最終的な司法判断ではない。

例えば、国連調査委員会は2025年3月、イスラエル軍は組織的に病院の産科病棟や生殖医療施設を破壊し、バスマの不妊治療院に対する2023年12月の攻撃を意図的に実行したと結論付けた。人権団体や国連調査官らは一連の行動について、生殖や妊娠・出産に害をなす暴力と見なしている。

調査委員会は国連人権理事会に提出した報告で、ガザの産科病棟や不妊治療院に保管されていた胚の破壊について、特定集団内での出産を阻止する戦略を示唆し得ると表明した。その集団を壊滅させる意図を持って実施される場合、こうした戦略はジェノサイド(集団殺害)条約上のジェノサイドに該当する可能性がある。

イスラエルは、パレスチナ人の出産の阻止を意図した政策を実行しているとの見解を断固拒否し、そうした政策は存在しないと表明。自らの目的はパレスチナ人の壊滅ではなく、ハマスの打倒にあると主張した。

国連調査委員会は2025年9月、人権理事会に提出した法的分析で、イスラエルがガザでジェノサイドを実行したことや、実行し続けていることを「合理的根拠に基づき結論付ける」と踏み込んだ。ただし、同委員会の判断は司法判決のような法的拘束力を持たず、ジェノサイドがあったという事実を確定するものではない。イスラエルはこの結論を拒否している。

同委員会は2021年の設置以降、イスラエルやパレスチナ自治区への立ち入りを認められていない。さらに、イスラエルは2023年10月の攻撃後、国連機関や人道支援従事者の立ち入りと活動への制限を強めている。

停戦後も状況は悪化

ガザでは2025年10月に停戦が始まってからも、生殖に関する健康指標が悪化を続けている。国連人道問題調整事務所によると、2026年前半に記録された流産は3958件だった。これは生児出産1000人当たり208.5人に相当し、2025年後半に比べて3.3倍増加している。

また、2026年前半の出生数は前年同期比で3.2%減少した。

前出のナガムさんは、診療の受けにくさは過去数カ月で変わっていないとし、「私たちは今も同じ場所、同じテント、同じ衛生状態にいる」と語る。

また、病院に行ってもなお、もっと緊急性の高い患者がいると言われる現状に触れ、「単純に妊婦に手が回っていない」と指摘する。

世界保健機関によると2026年に入ってもガザの保健・医療施設に対する攻撃は続き、8月6日までの集計で45件に上っている。

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停戦下でも「地上の地獄」 深まるガザの人道危機

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編集:Virginie Mangin and Dominique Soguel/livm、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:大野瑠衣子

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