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高額医薬品の薬価引き下げを阻む制度の壁 アメリカ発「特許の藪」

一部の製薬会社は二次的特許を利用して薬価を高水準に保っている
一部の製薬会社は二次的特許を利用して薬価を高水準に保っている Amelie-Benoist / AFP

薬価をめぐる国際的な議論で、大手製薬会社が特許を乱用し価格競争を阻んでいる状況が取り上げられることはめったにない。だが、この問題を是正すれば世界中で薬価が下がる可能性がある。

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昨年、薬価の切り下げが世界的な論争の的になった。アメリカのドナルド・トランプ大統領が、国内薬価を引き下げ、それに伴う製薬会社の収益減は他国の薬価引き上げによって埋め合わせるべきだと主張したためだ。スイスでは医療費が急増しており、当局がアメリカの要求だけを理由に薬価を引き上げるなど不可能だ。

一方で、薬価を引き下げる方法の中には、メディアであまり報じられないものもある。その1つが、安価なジェネリック医薬品の市場参入を防ぐために一部の製薬会社が行っている特許乱用にメスを入れることだ。

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数週間前、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が47のメディアと協力して、がん治療薬キイトルーダをめぐる暴露記事外部リンクを発表した。記事によれば、このブロックバスター医薬品(年間売上が10億ドルを超える医薬品)を長年にわたって独占するために、製造元のMSD(米国本社メルク)はクモの巣のように広がる一連の特許を利用している。

キイトルーダ(ペムブロリズマブ)はアメリカで初めて承認されたPD-1阻害薬だ。PD-1は免疫細胞の一種であるT細胞に備わる受容体で、がん細胞はこれに活動を抑えるシグナルを送って免疫系から逃れている。キイトルーダはPD-1に結合してシグナルをブロックし、T細胞ががん細胞を攻撃できるようにする免疫療法の医薬品だ。2014年に初めて進行性悪性黒色腫を対象に承認された。現在は少なくとも18種類のがんに承認されており、一部のがん患者の生存率を劇的に改善している。

この薬は長年、世界的トップセラーの一角を占め、わずか10年間で1600億ドル(約25兆円)以上を売り上げた。2025年だけで317億ドルに上り外部リンク、肥満症治療薬のマンジャロやオゼンピック(日本ではいずれも糖尿病治療薬で、同じ成分の肥満症治療薬はゼップバウンドとウゴービ)を上回った。キイトルーダは現在、MSDの収益の約半分を占める。

それでも多くの患者にとっては手が届かない薬だ。スイスのような富裕国でさえ、その費用は医療制度に重くのしかかっている。スイスの健康保険会社は2024年、キイトルーダに1億8300万フラン(約369億円)を支出しており、スイスの健康保険会社ヘルサナの報告書外部リンクによると、保険適用薬リストに収載された医薬品の中では最大の額だ。

オンラインマガジン・リパブリークの記事によれば、スイス当局は過去10年間でキイトルーダの薬価を40%引き下げることに成功し、現在は患者1人当たり年間約7万3000フラン(約1470万円)となっている。アメリカでははるかに高額で、約21万ドル(約3310万円)に上る外部リンク。日本では今年2月に薬価が引き下げられ、約680万円だ。

理屈の上では、患者や健康保険会社の負担は間もなく軽くなるはずだった。キイトルーダの主な特許は2028年に切れるため、競争が起きて価格は下がると誰もが考えるだろう。だが、特許制度の不平等を調査する非営利団体I-MAK(Initiative for Medicines, Access and Knowledge/医薬品、アクセス、知識のためのイニシアチブ)が提供する特許データベースに基づいてICIJが行った調査によって、キイトルーダを2042年まで独占できる有効な米国特許が50件存在することが明らかになった。

これらは、キイトルーダに関して53の国や地域で少なくとも1212件出願された特許の一部であり、多くが最初の特許の数年後に申請されている。

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二次的特許の問題

キイトルーダは特異な例ではない、そう話すのはI-MAK代表のタヒル・アミン氏だ。

「我々は、ある企業の特許が失効すると、ジェネリック医薬品やバイオシミラーの参入によって製薬会社の収益が急落すると考えがちだが、そうはなっていない。競争が早期に始まるのを防ぎ、独占状態をより長く維持するために、企業は特許を防衛手段として利用し始めている」

特許の目的は技術革新の促進で、発明者に一定期間の、一般的には出願日から20年間の独占権が認められる。この間、他社はその発明に基づく製造・利用・販売・輸出を行うことができず、発明企業に投資を回収する時間が与えられる。

だが、企業はこの数十年間で二次的特許の出願を増やしており、多くが医薬品としての承認から長期間が経過した後に申請されている。このような特許には、投与が大幅に容易になる製剤のような、患者の利益になる真の意味での進歩的発明が含まれることもある。

その一方で、ほとんど患者の役には立たないのに安価なジェネリック医薬品の参入は阻止するような、わずかな変更が加えられただけの場合もあるとアミン氏は言う。このような特許は最終的に多くが拒絶されるが、ジェネリック医薬品メーカーに低価格品の開発を思いとどまらせる効果がある。

アミン氏はスイスインフォの取材に対し、「企業は時間稼ぎのために多岐にわたる特許を利用している。訴訟になれば、これらの特許を使って4〜5年間引き延ばす。この業界の1日には、何百万ドルもの価値があるからだ」と述べた。スイスの製薬大手ノバルティスによると、慢性心不全の治療薬エンレストから得た今年第一四半期の収益は、42%減の13億1000万ドルだった。アメリカの特許が切れ、ジェネリック医薬品が市場に参入したためだ。

アメリカ製の問題の是正に向けて

特許をめぐる問題は、ヨーロッパよりアメリカのほうがはるかに深刻だ。1つの薬をめぐる複雑で重複した特許の集合体、つまり「特許の藪」を作り出す二次的・三次的特許の出願がアメリカでは容易なためだ。

昨年アメリカで、スイスのジェネリック医薬品メーカー、サンドがアメリカのバイオテック企業アムジェンを相手取り、1998年発売の関節リウマチ用医薬品エンブレル(エタネルセプト)をめぐる反トラスト法訴訟を起こした。争点は、アムジェンが「市場における自らの地位を守るために、特定の特許権を違法に獲得して利用」し、エンブレルの独占権を延長したことだ。

サンドの主張によると、これらの特許が後発薬の市場参入を遅らせている。後発薬には、同社のバイオシミラーErelzi(エタネルセプト-szzs。szzsは先発品や他のバイオシミラーと区別するために米食品医薬品局(FDA)が使用する接尾辞。Erelziは日本未承認)も含まれる。このバイオシミラーは2016年にアメリカで承認され、2017年にヨーロッパで発売された。だが、アムジェンの特許のためにアメリカでは販売できず、この特許は2029年まで有効だ。

サンドのリチャード・セイナー最高経営責任者(CEO)は、昨年11月開催のフィナンシャル・タイムズ・グローバル・ファーマ・サミットにおいて、「特許の乱用や特許の藪は、以前から繰り返し見られていたが、現在はさらに進行している。(先発医薬品メーカーは)競争を阻止するために、ありとあらゆる駆け引きやトリックを使っている。私は真のイノベーションには大賛成だが、手抜きのイノベーションには賛成しない」と語った。

ヨーロッパでは、エンブレルのバイオシミラーが複数承認され、はるかに安い価格で販売されている。アミン氏は、「アメリカが国内の特許乱用の慣行を抑制し、それによってより早く価格が下がれば、ヨーロッパ人は技術革新のコストを十分に負担していないという現在の通説は変わるだろう」と述べた。

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このような特許の乱用を取り締まろうとする動きはある。昨年4月に署名された大統領令で、トランプ氏は製薬会社による「競争を妨げる行為」について報告書を作成するよう求めた。昨年5月には、米国議会に「ETHIC法(Eliminating Thickets to Increase Competition Act/競争促進のために特許の藪を除去する法律)」の法案が提出されている。アメリカのバーニー・サンダース上院議員も、新薬の価格が高すぎる場合には競争を認めるべきだと提案外部リンクした。だが、これらの取り組みの進展は遅く、他国からの圧力もごくわずかだ。

スイスの製薬業界は国内総生産(GDP)の6割強を占め、知的財産の活用に力を入れる同国の産業界外部リンクに、アメリカに制度変更を強く求めるインセンティブはほとんどない。スイスはイギリス外部リンクインドのような国との貿易協定交渉で、医薬品分野における知的財産保護の強化を盛り込むように求めてきた。

製薬業界で知的財産を強力に保護する理由は十分にある。企業は新薬の発見や開発に何十億ドルもの資金を投じており、それは正当に報われるべきだ。だが、どこからが行き過ぎになるのだろうか?

編集:Virginie Mangin/gw、英語からの翻訳:鵜田良江、校正:宇田薫

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