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ネズミのしっぽで一攫千金?スイスに残るエコな伝統

野ネズミやハタネズミは、農作物に深刻な被害をもたらすこともある
野ネズミやハタネズミは、農作物に深刻な被害をもたらすこともある Keystone

畑に大量発生すると、農作物に深刻な問題を引き起こすネズミ。住宅地でも、さまざまな感染症を媒介する厄介者だ。中世ならば笛吹き男の出番だが、スイスの一部地域には今でも、捕まえたネズミのしっぽに少額の報奨金を出す制度が残っている。

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スイス北東部、ボーデン湖畔の自治体チュバッハの広報誌には、最近こんな広告が掲載された。「ネズミを捕まえてお小遣いを稼ごう!」。この地域内でネズミを捕まえ、しっぽを証拠として自治体の集積所に持参すれば、1本につき1フラン(約200円)もらえるという。

この広告を出した理由は他にもあった。ミヒャエル・ゲッテ村長はザンクト・ガレンの地方紙タークブラット外部リンクに対し、「ネズミ退治の報奨金自体は、昔からありました。ただ昨秋、その年は1度も報奨金の支払いがなかったことに気づきました。住民の皆さんに、この制度の存在をもう一度思い出して欲しかったのです」と語った。

ネズミやハタネズミは、増え過ぎると農家に深刻な問題をもたらす。とりわけハタネズミは、哺乳類の中でも飛び抜けた繁殖力を誇り、1組のつがいがひと夏で100匹以上の子を産むこともある。数年に1度は大発生に見舞われると同紙は報じている。

「毒を使う手もあるが」

スイス・リヒテンシュタイン国境の自治体ゼンヴァルドで村長を務めていたペーター・キンドラー氏は2017年、無料日刊紙20Min.外部リンクに「ネズミ狩りはこの地域の伝統であり、長年続いてきた実績ある方法です」と語った。2016年には1万本のしっぽが提出され、1本あたり1.50フランの「ネズミのしっぽ報奨金」が支払われたという。

キンドラー氏は「毒を使うという手もありますが、それでは鳥や他の動物にも危害が及びます。ネズミの駆除には、狩りが最も自然な方法なのです」と語った。

「モグラのしっぽ」にも懸賞金が掛けられている。仏語圏のスイス公共放送(RTS)が2022年に放映した映像外部リンク(仏語)では、西スイスに残る数少ないモグラ猟師の1人が、50年にわたりモグラを捕獲してきた経験を語っている。

コフキコガネも壮絶な運命をたどった。ジュネーブ当局外部リンクによれば、この虫は農業や林業に被害を与えると考えられていたため1950年代までは捕獲活動を行う農村があった。主な「ハンター」は子どもたちだ。コフキコガネ1kgにつき、わずかばかりの小銭が支払われた。虫は焼却処分するか、村の職員が石灰と混ぜて穴に埋め、処分した。

隣接するガムス村のフレディ・シェーブ元村長も、「この方法は環境に優しいうえ、比較的人道的」だと賛同する。2016年、ガムス村はネズミのしっぽに年間4000フランもの予算を充てたが、それでも足りなかったという。

10年後の現在、予算は6000フランに引き上げられた。現村長のマヌエル・シェーブ氏は「たとえ予算を超えても、提出分は全て支払います」とスイスインフォに語る。報奨金は今も据え置きで1本1.50フラン。昨年は計6499本提出された。

シェーブ氏は「一度は廃止を検討しましたが、住民に猛反対されました」と20Min.に語る。これはれっきとした伝統であり、子どもたちが小遣いを稼ぐ手段でもあるのだという。

「ネズミ捕りで健康促進」

懸賞金を狙うのは子どもだけではない。アールガウ州北部の自治体レメッチュヴィルに住む年金生活者アンドレアス・シェーレンさん(67)は2021年、毎月最大500本のしっぽを提出し「自治体の予算を食い尽くした」と話題となった。この事態を受け、村は同年末に1本1フランの支払いを打ち切った。

自治体の書記を務めるローラント・ミュルゼット氏は大衆紙ブリック外部リンクに対し、「住民が持ってくるしっぽの数が、突如として爆発的に増えた」と語る。これまでは年間200本程度だったが、今では1カ月でその倍を超えることもあるという。こうして100年以上続いた伝統は終わりを告げた。少なくとも、レメッチュヴィルでは…。

終了の知らせを聞いたシェーレンさんは非常に残念がり、「ネズミ狩りは屋外で体を動かす絶好の機会で、健康維持にも役立っていました」と話す。少年時代、実家の農場でネズミを捕まえては、しっぽ1本で0.50フランを稼いでいたシェーレンさん。退職後にネズミ捕りを再開し、「1日の最高記録は128匹。2年間で6000匹以上のネズミを捕まえました」と胸を張る。

外部委託で捕まえたネズミも懸賞金の対象になる。ただし、しっぽが残る保証はない
外部委託で捕まえたネズミも懸賞金の対象になる。ただし、しっぽが残る保証はない Keystone

「コブラ効果」

「コブラ効果」という言葉をご存じだろうか。

イギリス植民地時代のインドでは、デリーでコブラが蔓延したため、対策としてヘビの死骸1匹につき報酬を出したところ、住民がコブラを飼育し、繁殖させてから殺し、より多くの報奨金を得ようと試みたという逸話だ。森の中でヘビ狩りをするより、その方がずっと簡単で安全だ。事情を知った政府が支払いを拒否すると、飼育されていたヘビが全て野に放たれ、結果的にコブラが爆発的に増えたという。

これが史実かどうかは不明だが、1902年にフランス領ベトナムのハノイでネズミが大繁殖したのは、実際の話だ。こちらの方が、スイスのケースに近いと言える。当時ベトナムのネズミ捕りは、ネズミを捕まえてしっぽだけを切り取り、フランス政府から報奨金を受け取ると、再び繁殖するよう、しっぽのないネズミを下水道に放していたという。

問題を解決しようとした施策が、かえって問題を悪化させることもある。もっとも、シェーレンさんや、スイスの熱心なネズミハンターがネズミを繁殖させていたという事実はない。シェーレンさんは毎朝畑に72個の罠を設置し、1日に何度もチェックするという地道な努力を続けていたそうだ。

罠と天敵を活用

話をチュバッハに戻そう。農夫トーマス・フックスさんの畑には目印の棒がいくつも立っている。「祖父がネズミ捕りに行く時、私と兄はよく一緒に付いて行きました。ネズミ捕りのノウハウは、全てその時に学びました」と地方紙タークブラットに語る。

フックスさんが使うのは、ばね仕掛けの金属製シリンダーを使ったトラップだ。トンネル状のネズミの通り道に設置し、ネズミがシリンダーを通ると罠が閉じ、ネズミは即死する。確実性は高いが、高価でもある。「ネズミを横取りしようとするキツネに、罠ごと持っていかれると経済的な痛手になる」ため、罠は日中だけ仕掛けるという。

目印の場所に行くと、罠の2つは作動していたが、獲物は逃げられた後だった。3つ目の罠には、お目当てのハタネズミが掛かっていた。ネズミを取り外した後、しっぽを切り、残った死骸は森の縁に置いてキツネの餌にする。死骸が大量に出た場合は、処理場で処分してもらうそうだ。切り取ったしっぽは、報奨金を受け取るために自治体の集積所に持参する。

天敵を使って駆除

ネズミの数を抑えたいなら、天敵を増やすという手もある。猛禽類やネコ、キツネ、チョウゲンボウ(小型のタカ)、メンフクロウ、イタチなどは、好んでげっ歯類を捕食する。樹木のない開けた場所では、猛禽類用に止まり木を立ててやれば、特に冬季の狩りが楽になる。

生け垣や積み上げた枝や石、草地の刈り残しや整備された森の縁などは、イタチの隠れ家や繁殖地、安全な通り道になる。チョウゲンボウやメンフクロウの巣箱を設置することも、個体数の増加につながる。

出典:St. Galler Tagblatt外部リンク

ねずみのしっぽで一攫千金とはいかないが、自治体によって報奨金が少し多めのところもある。バーゼル・ラント準州の自治体ツィーフェン外部リンクでは1本0.50フラン、ガムス村では前述の通り1.50フランだ。

数年前、ベルナーオーバーラント地方の牧歌的な自治体ラウエネンは、隣村のザーネンが報奨金を引き上げると知り、報奨金を0.50フランから1フランへ倍増した。自治体の書記を務めるアンドレアス・カッペラー氏は、このままでは報奨金目当ての「ネズミのしっぽ観光」がサーネンに押し寄せる恐れがあったため、先回りしてそれを防ぐ必要があったと独誌シュピーゲル外部リンクに語っている。自治体の話では、その後、ラウエネンの報奨金は1.50フランまで引き上げられた。

「ネズミのしっぽ観光」

「ネズミのしっぽ観光」という言葉は、私には初耳だった。ドイツ北西部の地方紙ミュールハイマー・ヴォッヘ外部リンクのコラムニスト、フランツ・フィルラ氏は、ザーネン村の話を聞きつけ、地元当局にこう問い合わせた。「妻と2人で、ザーネン村での休暇を計画しています。もしネズミを捕まえたら、観光客でも報奨金をもらえますか。その場合、ネズミを捕まえるのに最適な時期を教えてください」

すると1時間も経たないうちに返事が来た。「フィルラ様へ 基本的に、低地や中標高地で雪が消え、まだ草が生い茂っていない現在(5月)が(ネズミを捕まえるには)最適です。報奨金は、原則として地元の住民が対象ですが、ネズミをザーネン村で捕獲し、農家と土地所有者の同意を得たうえで、彼ら同伴で集積所にしっぽを持ってくる場合に限り、例外的に(非住民でも)支払いを認めます」

ロマンチックな休暇になるとは到底思えない。どうか、観光客がこの報奨金の「わな」に引っ掛かって現地に押し寄せませんように…。

この記事は、「スイスの奇妙なもの」シリーズの1つです。スイスの奇妙なものに関するお話は、こちらの特集ページをご覧ください。

編集:Samuel Jaberg/gw、英語からの翻訳:シュミット一恵、校正:宇田薫

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