「スイスには住民全員を収容できるだけのシェルターがある」って本当?
戦争が起きた場合、スイスには住民全員を収容できるだけのシェルターがあるというのは本当かーーそんな読者からの疑問を検証した。
第一次・第二次世界大戦を経て、スイスでは民間人の防衛が重要な政治課題となった。1963年10月に「民間防衛施設に関する連邦法」が成立し、現在の民間防衛制の基礎が築かれた。
冷戦下で核戦争の脅威が高まる中、スイスは全国にシェルターを整備する独自の政策を進めた。シェルターは鉄筋コンクリート製で、防爆扉や非常口、ガスフィルター付き換気設備などを備えている。大型施設には、汚染された空気の侵入を防ぐエアロックも設置されている。
こうした取り組みにより、スイスは「シェルター大国」として知られるようになった。
「誰もが利用できる」
連邦民間防衛局のダニエル・ヨルディ副長官は、「誰もがシェルターを利用できる」と話す。
現在、国内には約37万カ所のシェルターがあり、最大900万人収容できる。つまりスイスにはほぼ全ての住民に対してシェルターが割り当てられている。
州によって若干の差はあるものの、「不足する地域では新たな建設が進められている」。また、住民は原則として徒歩30分以内で指定されたシェルターに到着できるよう計画されている。
冷戦終結後も維持・拡充
冷戦終結後、多くの欧州諸国は民間防衛インフラを縮小したが、スイスは現在もシェルターの維持・拡充を続けている。同様の考え方を採る国との情報交換も行っており、シンガポールとは長年にわたって相互に知見を共有している。
シェルターは現代の戦争にも耐えられるのか
近年はウクライナや中東で戦争が起こっているが、数十年前につくられたシェルターは現代の戦争にも耐えられるのか。ヨルディ氏は、「耐えられる」と答える。
シェルターは特定の兵器に対応するためではなく、爆風や化学物質など兵器によって生じる物理的・化学的影響から人々を守ることを前提に設計されているからだ。
4年前に実施した試験でも、「想定されるあらゆる脅威に対して有効性が確認された」。
ただし、特殊な貫通兵器による意図的な直接攻撃まで想定した設計ではない。「通常の航空爆弾からは住民を守れるが、直撃への耐性は想定していない。シェルター内の民間人を狙って攻撃された場合、防ぎ切れない可能性はある」
整備費は1人当たり約1400フラン
シェルター1人分の整備費用は平均1400フラン(約28万円)。この費用を約60年間にならすと、10年ごとに更新が必要なガスマスクなどと比べても低コストだという。
さらに連邦政府は最近、民間防衛部隊と危機管理チーム向けに2億2000万フランの追加予算を計上した。シェルター関連の年間予算は各州が負担している。
現代の課題
一方で、働き方の変化に伴い、住宅地を中心に整備されてきた従来のシェルター配置には新たな課題も生じている。
ヨルディ氏によると、スイスでは現在、住民のおよそ29%が通勤しており、有事の際に自宅近くのシェルターへ避難できないケースも想定される。
「ウクライナでは、キーウで激しい戦闘が行われていない時でも定期的に攻撃がある。通勤者の安全をどう保護するかについて調査を進め、解決策を検討している」
では、戦争が起きた場合、スイスのシェルターは現在も住民を守ることができるのか。
ヨルディ氏は「はい」と断言する。「シェルターは、現代兵器、とりわけ長距離兵器による物理的な影響から住民を守るために造られている。その目的は今も変わっていまない」
編集:Balz Rigendinger/ac、英語からの翻訳・校正:大野瑠衣子
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