スイス、兵役改革案、相続税めぐり国民投票 ともに否決の公算
スイスでは30日、兵役義務の対象を女性にも広げる案と、超富裕層に50%の相続税を新たに課す案の2件をめぐり国民投票が実施される。
スイスでは年に4回程度、国民投票が実施される。投票にかけられる議題には、①市民が自身の政策案を憲法改正案として提案する「イニシアチブ(国民発議)」②議会を通過した連邦法や条約について民意を問う「レファレンダム(国民表決)」の2種類がある。
30日に投票にかけられる2件はともにイニシアチブで、有権者全体の過半数だけでなく、過半数の州で賛成が反対を上回ることが可決の条件となる。国民投票と同じ日に、州や自治体単位の住民投票を実施する地域もある。
兵役の抜本改革案「市民奉仕イニシアチブ」
スイスでは現在、18~40歳のスイス人男性全員に兵役義務が課されている。良心上の理由で兵役を拒否する者は代わりに社会福祉や医療、環境などの民間機関で「社会奉仕」に就く義務があり、兵役より期間が長い。女性は志願制だ。
こうした現行制度の抜本改革を目指すのが「市民奉仕イニシアチブ」だ。このイニシアチブ(国民発議)は、スイス国民に課される奉仕義務を、兵役に限定しない「サービス・シトワイエン(市民奉仕)」に置き換え、対象者を女性にも広げることを提案する。
ここ数年、一部の欧州諸国が徴兵制を復活させているが、同イニシアチブはこの文脈で発議されたわけではない。発議した団体「サービス・シトワイエン」はもっと前、2013年に発足し、現行の兵役制度は時代遅れで不平等だと批判してきた。イニシアチブ成立に必要な署名10万筆を集め、国民投票に持ち込んだ。
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11月初旬時点では、イニシアチブに懐疑的な国民が優勢だ。スイス放送協会(SRG SSR)による世論調査によると、賛成は32%にとどまり、反対は64%に上った。4%は態度未定。
連邦政府と議会はともにイニシアチブに反対の立場をとり、主要与党も反対している。反対理由は、イニシアチブが奉仕中の給与手当など連邦・州財政や、企業に代替要員の確保を強いるなどスイス経済にも過大な負担を与える点だ。一方、自由緑の党(GPL/PVL)や福音国民党(EVP/PEV)、海賊党、中央党(Die Mitte/Le Centre)青年部といった小政党はイニシアチブに賛成している。
5000万フラン超で50%徴税「相続税イニシアチブ」
もう1つ国民投票にかけられるのは、気候変動対策の財源に充てることを目的として新税制を導入する内容のイニシアチブだ。発議者は社会民主党青年部(JUSO)。5000万フラン(約97億円)を超える資産を子孫に遺贈または贈与する者に対し、50%の税率を課す内容だ。相続資産全額に50%が課されるわけではなく、5000万フランを超える部分のみが課税対象となる。
現行では、相続税は州・自治体に課税権があり、連邦税としての相続税は存在しない。税体系は地域によって大きく異なるが、概して免税範囲が広く、税負担は軽い。国際的に見ると、スイス(州レベル)の実効相続税率は経済開発協力機構(OECD)平均を大きく下回る。
連邦相続税の導入により税収がどれだけ増えるのか、さまざまな見積もりが出ている。発議者は、イニシアチブが可決されれば税収は60億フラン増え、それだけ気候変動対策に回せると主張する。反対派は、富裕層がスイスに住み続ければ25億~50億フランの増収になるが、超富裕層や起業家がスイスから移住する可能性が高く、税収はそこまで増えないと警戒する。
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世論調査によると、スイスの有権者は相続税イニシアチブにも反対する姿勢を示している。11月上旬時点で賛成はわずか30%、反対は68%だった。態度未定は2%。
相続税イニシアチブは政治家からの支持も薄い。連邦政府と議会はともに反対。主要8政党のうち、支持しているのは社会民主党(SP/PS)と緑の党(GPS/Les Verts)のみ。
150万票で可決
国民投票で意を示せるのはスイス在住者全員ではない。投票権を持つのは、18歳以上で後見人などの保護を受けていないスイス国籍者に限られる。投票者は郵便投票または投票所での直接投票で投票できる。国外在住者は登録が必要。投票権を持つのは約550万人で、スイスの人口約900万人の3分の2弱に相当する。
スイス人口の4分の1は外国人で、スイス国籍を持たないため投票権がない。
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限られた投票権者のうち、実際に投票するのは半数ほど。連邦統計局によると、過去10年間の年間平均投票率は41~57%の間で推移している。つまり、国民投票での可決に必要な得票数は約150万票となる。
注目の州民投票
今週末は、各州でもさまざまな案件が住民投票にかけられる。
ヴォー州では、国外に住む州民が全州議会(連邦上院)の選挙に参加できるようにする案について州民投票が実施される。国民議会(同下院)での投票は既に可能。フランス語圏では、上院で在外投票できないのはヴォー州とヴァレー(ヴァリス)州のみ。同案が可決されれば、国外在住のヴォー州民約2万5000人が投票資格を得る。
またヴォー州では、外国人が州レベルで投票し、立候補できるようにするイニシアチブも行われている。資格を得るには、外国人はスイスに少なくとも10年間、ヴォー州に少なくとも3年間居住している必要がある。さらに、精神疾患者など被後見人に州・自治体選挙での選挙権を付与する案も州民投票に付される。
アッペンツェル・アウサーローデン準州では、州憲法の改正案が投票にかけられる。改正の目玉は外国人への選挙権の付与だ。現時点で同州内に住んでいること、スイスに継続して10年以上住んでいることが要件。被選挙権は付与しない。可決されれば、ドイツ語圏では州レベルの外国人参政権を付与する初めての州となる。
編集:Samuel Jaberg/ts、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫
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