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遺伝子検査で判明したスイスのルーツ 家系図への情熱がつないだ遠い親戚の出会い

スイス中部の集落ゴレトで、1858年に曽祖父が生まれた家の前で写真に収まるロバート・セイヤーさん(左端) 
スイス中部の集落ゴレトで、1858年に曽祖父が生まれた家の前で写真に収まるロバート・セイヤーさん(左端)  SWI swissinfo.ch / Céline Stegmüller
シリーズ 系図研究、 エピソード 2:

アメリカ人のロバート・セイヤーさんは、53歳で受けた遺伝子検査で初めて自分のルーツがスイスにあることを知った。家系について調べるうちに、遠縁の親戚に当たるスイス人系図研究家と出会い、先祖が暮らした場所を訪れた。

曇り空の5月のある日、小さな白い車が右折して、ベルン州南西部ジンメンタールの谷の村エルレンバッハに向かう道を進んでいく。家々の間の狭い道を抜けて曲がると、丘を登る1車線の田舎道に入る。すぐ後ろには2台目の車が続いている。景色はまるで絵のようだ。道の両側の急斜面に牧歌的な緑の草地が広がり、息をのむほど美しい谷が見える。車の通りはほとんどない。そうでなければ正確な運転技術が必要だっただろう。

白い車に乗っているのはアルベルト・リーヒティさんだ。この道が前回の訪問と同じかどうか、妻と確認している。82歳のアルベルトさんは熱心な系図研究家で、ベルン州の先祖ゆかりの地にアメリカの遠い親戚を案内するのは、今日で2度目だ。後ろの車には、ロバート・セイヤーさんとその妻、さらにロバートさんのきょうだいのグロリアさんと、グロリアさんの息子が乗る。4人は曲がりくねる道に圧倒されそうになりながら丘を上がっていく。ここは土地勘のある地元住民だけが使う道だ。

立ち寄った場所と家族史との関係を説明するアルベルト・リーヒティさん(左から3番目) 
立ち寄った場所と家族史との関係を説明するアルベルト・リーヒティさん(左から3番目)  SWI swissinfo.ch / Céline Stegmüller

歴史のミステリー

運命のいたずらに導かれて、4人は初めてここを訪れた。2018年、ロバートさんは自分がセイヤー家の血筋ではないことを知った。グロリアさんが兄弟のうちの2人に遺伝子検査をプレゼントしたところ、その結果から判明したのは、2人ともがライクティ家の系譜だという驚くべき事実だった(ライクティはリーヒティの英語名)。

ロバートさんは、「祖母と、道を挟んだ農場の男性との間に何らかの関係があったようです。私たちは、父がこの道ならぬ関係から生まれた子どもだとは知らずに育ちました。父自身も知らなかったのだと思います」と話す。

「ライクティ家とセイヤー家は隣同士の農場で暮らしていました。とても親しくしていたのです」。本当に親密で、自分ときょうだいたちは、いとこ同士だと知らないままライクティ家の子どもたちと学校に通っていたとロバートさんは付け加える。「デートをしたりしなくてよかったね」と、ロバートさんとグロリアさんは笑う。

遺伝子検査から、思いがけない事実と、遺伝子が一致する人たちを知ったロバートさんは、家系の調査にのめり込んだ。「エリザベスとジェイコブ・ライクティ・シニアの2人は、私と、私と遺伝子一致度が極めて高い人たちの共通の先祖です。つまり、私の父方の曽祖父母でもありました。よく分からないのは、そして決して分からないのでしょうが、祖母が父を妊娠した1926年に隣の農場に住んでいた2人の息子のうち、どちらが私たちの生物学的な祖父なのかということです。その2人とは、ジェイコブ・ロバート・ジュニアと、フレデリック・アーネストです」

前列左側に座るジェイコブ・ライクティ・シニアさんと、その右に座る妻のエリザベスさん。6人の子どもたちと1906年ごろに撮影。後列中央がジェイコブ・ロバート・ジュニアさん、右隣がフレデリック・アーネストさん 
前列左側に座るジェイコブ・ライクティ・シニアさんと、その右に座る妻のエリザベスさん。6人の子どもたちと1906年ごろに撮影。後列中央がジェイコブ・ロバート・ジュニアさん、右隣がフレデリック・アーネストさん  Courtesy of Robert Thayer

ロバートさんは現在、「コリン郡系図研究会」(コリン郡は米国テキサス州西部の自治体)の会員だ。「テクノロジー全般」分科会のリーダーで、人工知能(AI)に手書き文書の解読を手伝わせる方法や、系図調査に使用されるAI技術の倫理的な問題について議論している。

自分の生物学的な祖父はスイスにルーツがある。その事実について調べるうちに、ロバートさんはこの日のガイド役であるアルベルトさんと知り合った。「5年ほど前に、2018年12月発行の『ベルン系図紋章研究会』の会報誌でアルベルトさんの記事を見つけました。私の先祖について数世代分の記録がまとめられていて、その中に、それまで私が知らなかった6世代前の先祖、クリステン・リーヒティとカタリーナ(旧姓アウグスブルガー)もいたのです」

ロバートさんはその記事からアルベルトさんのメールアドレスを知り、連絡を取った。家系をめぐる熱心な情報交換が始まって、2年ほど後に2人でY染色体検査を受けようと決めた。そこで分かったのは、共通の先祖が1530年ごろにベルン州中部ランディスヴィルに住んでいたことだ。

Y染色体DNA検査では、父親の系統を通して父から息子へとほぼ変化せずに伝えられるY染色体のDNAを分析する。Y染色体があるのは生物学的な男性だけであるため、女性はこの検査を受けることができない。

母親の系統を追跡したい場合には、男性も女性もミトコンドリアDNA検査が受けられる。この検査では、卵細胞を通じて事実上変化せずに受け継がれるミトコンドリアのDNAを分析する。

自宅で検査が受けられるほとんどの市販キットで使われるのは、常染色体DNA検査だ。これは両親や祖父母などから受け継がれた遺伝物質を分析する。ごく身近な家族から、6〜7世代前に枝分かれした親戚までを見つける、最も優秀で手頃な方法だ。

歴史の小道をたどる旅

40回目の結婚記念日を機に、ロバートさんと妻は初めてスイスへの旅に出ることにした。曽祖父母のジェイコブさんとエリザベス・ライクティさんが、1883年にニューヨークへ向かう船に乗り込む前に住んでいた国を見るためだ。アルベルトさんは当然のように、彼らをベルン州中南部を巡る小さなツアーに連れていき、先祖が住んでいた家や、洗礼を受けて結婚した教会を見せると申し出てくれた。

アルベルトさんはその1年前、ロバートさんのいとこのシエナさんを同じツアーに案内していた。先祖のうちの何人かが住んでいた家の場所を綿密に調べ、立ち寄って少し見学できるだろうかと今の所有者に相談し、ベルン州の丘を上り下りする細かいスケジュールを立てた。ロバートさんの高祖父母が1849年に結婚したシュピーツに始まり、4世代のリーヒティ家が1612〜1715年に住んでいたエツリシュヴァントで終わる旅だ。

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アルベルトさんが腕時計を気にしながら予定通りに次の場所へ行けるように車へ戻り、ロバートさんたちは神妙についていく。グロリアさんは古い建物に魅了され、グロリアさんの息子はカメラで旅の記録を取る。誰もが静かで小規模な集落の周りに広がる絵葉書のような風景に感動していた。

「これはとても大きな祝福のようだと感じています」と、ロバートさんは感情を込めて言う。「(アルベルトさんには)本当に多くのことをしてもらいました。どうお礼をしたらいいのか…。『お礼なんていらない』と言うのですが、数千ドル分の恩があるような気がするのです。ルーツのある土地に案内してもらうために、たいていの人が大金を払っています。これは系図学への情熱の素晴らしい面だと思っています」

最後に立ち寄ったエツリシュヴァントの集落。かつてリーヒティ家が所有していた場所に住む農家の人と散歩を楽しむ 
最後に立ち寄ったエツリシュヴァントの集落。かつてリーヒティ家が所有していた場所に住む農家の人と散歩を楽しむ  SWI swissinfo.ch / Céline Stegmüller

交流は始まったばかり

最後の訪問地エツリシュヴァントに着いた。家や農場の今の持ち主、エリザベートさんとアルフレート・イェーガーレーナーさんが、ロバートさんたちをささやかな「ツフィエリ(午後の軽食を指すスイスドイツ語)」でもてなす。ハムやスイスチーズ、ビスケットが皆に回され、客とホストがいくつかの逸話を語り合った。これも、アルベルトさんが英語からスイスドイツ語へ、その逆へと通訳してくれたおかげだ。

別れ際、誰もが長年の友人同士のように固く抱き合い、いつかお互いを訪問しようと話し合った。ロバートさんは、この日会った人々とアルベルトさんがスイスドイツ語で交わした会話を録音しており、それを全て翻訳するのを楽しみにしている。遠い親戚の2人は別れを告げた。家系の調査を進めるために、これからも連絡を取り合うのだと思いながら。

編集:Samuel Jaberg/gw、英語からの翻訳:鵜田良江、校正:宇田薫

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