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激しさを増すアルプスの土石流、その理由は?

2024年6月下旬、スイス南部のマッジャ渓谷では激しい雷雨により壊滅的な土石流が発生し、甚大な被害をもたらした
2024年6月下旬、スイス南部のマッジャ渓谷では激しい雷雨により壊滅的な土石流が発生し、甚大な被害をもたらした Keystone / Michael Buholzer

アルプスの斜面や谷は、突然の豪雨で数分のうちに泥と岩の奔流へと変わる。気候変動で豪雨が増えるなか、山岳災害研究の専門家が、アルプスで高まる土石流リスクについて語った。

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ジュネーブ大学に新設された山岳災害研究室を率いるマルクス・シュトッフェル教授外部リンクは、気候変動によってアルプスの災害リスクが急速に高まっていると警告外部リンクする。氷河や永久凍土の融解、積雪の減少により山岳地帯の土壌が不安定になり、落石や土石流、複合災害が増え、地域社会やインフラを脅かしている。

降水パターンも変わりつつある。スイスの夏は乾燥が進む一方、集中豪雨は季節を問わず激しさを増す見通しだ。短時間の豪雨は発生頻度が高まり、雨量も最大で30%増す外部リンクと予測される。つまり、雨はより短い時間に集中して降るようになる。

ジュネーブ大学(UNIGE)のマルクス・シュトッフェル教授
ジュネーブ大学(UNIGE)のマルクス・シュトッフェル教授 UNIGE

シュトッフェル氏はスイスインフォに対し、「こうした雨は、これまで以上に多くの土砂を削り取る可能性がある」と述べた。「そのため、水が集まりやすい場所では、前例のない規模の土石流災害が発生する恐れがある」

シュトッフェル氏の研究チームは、気候変動が土石流を含むアルプスの災害にどのような変化をもたらしているのかを調査し、リスクを抑える方策を研究している。官民のパートナーと連携し、将来の損失や被害を減らす戦略づくりを進めている。

6人の専門家からなるチームは、温暖化、降水パターンの変化、氷河の後退、永久凍土の融解が、土石流や雪崩、落石、大規模な斜面崩壊などの山岳災害の頻度、発生範囲、被害規模にどう影響するかを研究する。5月1日に始動したこの5年間のプロジェクトは、アクサ・ヒューマン・プログレス財団から100万ユーロ(92万フラン、約1億8400万円)の助成を受けている。

シュトッフェル氏はこう語る。「昨年のブラッテンの岩盤と氷河の崩落や、2024年の夏に死者を出した土石流が、こうした現象とその力学をより深く理解する必要性を示している。こうした現象そのものは今後も防げないだろうが、被害は確実に減らせる」

前例のない土石流

ほかのアルプス災害と同様、土石流も人命を奪い、経済的にも莫大な外部リンク損害をもたらす。2024年夏には、激しい暴風雨がアルプス各地で深刻な土石流を引き起こした。被害はスイス南部(バヴォナ渓谷やマッジャ渓谷)とイタリア北部(ヴァッレ・ダオスタ州やピエモンテ州)に及び、さらにオーストリアとドイツの一部にも広がった。

氷河の後退と永久凍土の融解で山腹の堆積物が不安定になるため、土石流は今後さらに頻発し、被害も深刻化すると予想できる。2000年以降、スイスの氷河の体積はすでに40%近く外部リンク減少しており、今後も毎年質量を失い続ける見通しだ。

シュトッフェル氏は、斜面の向きや地質、氷の厚さによっては、永久凍土の下限標高が21世紀末中に200~750m上昇すると推測する。これにより新たな堆積物が露出し、より大規模な土石流が起きやすくなるという。

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「破壊力は増す」

土石流は以前から起きていたが、発生頻度は低く、時期も主に夏に限られていた。だが近年では、その発生期間が広がりつつある。

シュトッフェル氏は「5月、ときには4月にも始まり、10月まで続くこともあった」と述べる。

冬に発生した例もある。シュトッフェル氏は、2018年1月のケースを挙げる。スイスアルプスで大雪が降ったあとに気温が上がり、さらにかなりの雨と雪が続いた。

「アルプス各地で大規模な雪崩が起き、そのあと、真冬にもかかわらず土石流が発生した。以前は経験したことのなかった事態で、今世紀末には当たり前になっていることの前触れだったのかもしれない」

スイスでは災害危険区域のマッピングが進み、土石流や鉄砲水の影響を受けやすい地域もおおむね把握されている。ただ、降水量が増えれば、土石流はより遠くまで、より強い勢いで到達する恐れがある。

シュトッフェル氏は「降水量が増えれば、土石流のエネルギー(そして破壊力)も増す」と語る。

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気候変動だけが原因ではない

ここで忘れてならないのは、堆積物には限りがあるという点だ。大規模な土石流が起きると、流域の土砂がすべて流され、岩盤が露出することがあるとシュトッフェル氏は指摘する。その場合、山の上部からの落石で流域が再び土砂で満たされるまでには時間がかかるため、次の土石流までの間隔は長くなる。つまり、激しい嵐が続いても、一部の地域ではしばらくの期間、以前より安全になる可能性がある。

シュトッフェル氏は「そのため、今後何が起き、何が変わるのかを一般論で語るのは本当に難しい」と話す。

同氏はまた、山岳災害の原因は気候変動だけではないと強調する。「気候変動の影響は3分の1から50%程度だろう。残りの3分の2から50%は、インフラが時間とともに増えた結果、つまり人間の判断、特に過去の判断によるものだ」

その例が、20世紀後半のアルプスの変化だ。当時、山岳地帯では集落が拡大し、人口密度も高まった。1950年以前、多くの村はほぼ孤立していたが、戦後の好景気で道路網やバス路線、スキーリフトが整備され、集落の姿は大きく変わった。1950年から1970年にかけて人口が30%以上増えたことに加え、観光業やセカンドハウスの急増も、アクセスしやすいアルプス地域の開発を後押しした。

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スイスに広がる共同研究ネットワーク

ジュネーブを拠点とするシュトッフェル氏のチームは、スイス連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)、連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)、ローザンヌ大学、チューリヒ大学、フリブール大学など、スイスの山岳災害研究を担う有力なネットワークに加わっている。

ただし、同氏のチームはアプローチが少し異なるという。ETHZやWSLなどが、ヴァレー(ヴァリス)州のイルグラーベン土石流域のような特定地点で、ハイテク技術を使った詳細なケーススタディを行うのに対し、シュトッフェル氏のチームは全体像の把握に力を入れている。大規模なアーカイブデータベースを構築し、地域的な傾向や転換点、アルプス全域の変化を分析することで、スイスアルプスで起きている変化が、数十年前にフランス南部のアルプスなどで見られた現象と共通しているかどうかを検証する。

20年にわたる基礎研究に、現地観測、遠隔探査、プロセスのモデル化を組み合わせることで、斜面がいつ、どこで崩れるのか、壊滅的な土石流がどこまで到達しうるのか、地域社会や重要インフラにとってそれが何を意味するのかを、より深く探るつもりだ。

リスクと不確実性が高まるなか、シュトッフェル氏は柔軟な対応の必要性を強調する。山岳地域のなかには災害が増える場所がある一方で、安定する場所もあるという。

「危機に直面し、状況が悪化する場所もあれば、逆に改善する場所、あるいは何十年も安定する場所もあるだろう」

編集:gb/vdv、英語からの翻訳:長谷川圭、校正:宇田薫

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