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真相解明求めるスイス政界 クリプト社のスパイ疑惑に動揺

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米国家安全保障局が独ミュンヘン近郊に設置していた監視基地(2004年に閉鎖)。米国の諜報活動にはスイスも関与していたことが明らかになった Keystone / Matthias Schrader

いつ誰が何を知っていたのか?米独諜報機関がスイスの暗号化企業製造によるデバイスを使い、他の国をスパイしていた事実が明らかになり、スイスの政界にも衝撃が広がっている。

あるスイス企業が米中央情報局(CIA)の下でスパイ活動している――というのは、昔からまことしやかにささやかれていた噂だ。だが11日、スイスの公共放送(SRF)と独ZDF米ワシントンポストが合同調査で報道した280ページにわたる文書によって、それが現実にあったことをスイスの政治家たちに突き付けることとなった。

左派・緑の党のバルタサール・グレットリ議員はSRFに対し「今分かっている情報では(スパイ活動は)2018年まで続いていたといい、政治的に大事件だ。スイスの諜報機関もこの事実を知っていたはずだ」と憤りをあらわにした。

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スイスの暗号化企業、CIAのスパイ活動に関与

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CIAとクリプト社との共謀は公然の秘密だったことから、他の複数の議員からは比較的冷静な反応がみられた。ただ、その規模の大きさに驚きの声があがった。中道右派・急進民主党のクリスタ・マルクヴァルダー氏もSRFに対し、「CIAとクリプト社との共謀に関するうわさは耳にしていたのでそれほど驚かないが、スパイ活動がどのくらい広範囲に及んでいたのか、解読可能な暗号化デバイスがどのくらい多くの国にいきわたっていたのかは知らなかった。これにはびっくりした」とコメントしている。

右派・国民党のフランツ・グリューター氏は「これは並外れたスパイ活動だ」と話し、危機感をあらわにした。

共犯者か無実の巻き添えか

主義思想に関わらず、全ての政治家が求めるのは、スイス政府や諜報機関のうち誰がいつから何を知っていたのかという真相を明らかにすることだ。核心は「スイスと米国の共同スパイは政府公認だったのか?」(グレットリ氏)という点だ。

政府は11日、元連邦判事のニクラウス・オーバーホルツァー氏を筆頭にした調査チームを立ち上げ、6月末までに報告書をまとめる方針を示した。真相解明に乗り出した政府の姿勢は評価されているが、さらなる追究を求める声も上がっている。

グレットリ氏は政府の関与が明らかになった場合に議会調査委員会(PUK)を立ち上げるよう訴える。左派・社会民主党もこれに同調。急進民主党のペトラ・ゲッシ党首はドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーとのインタビューで、春期国会でPUKの立ち上げを申請することを検討中だと明かした。

社会民主党のクリスチャン・レヴラ党首は、事件に関して疑問はあるが、今すぐ明らかにしなければならない類のものではないと話す。「連邦内閣は(クリプトの社員など)関係者をはるか昔に告発することができたはずだ」

「永世中立国」のダメージ

事件はスイスが掲げる永世中立国の看板にも傷をつける可能性から、その信頼回復を今後どう行うのかという問題にもつながる。

スイス当局が外国の諜報機関への協力をクリプト社に許可していたとしても、スイス国内での外国機関によるスパイ活動を制限する国内法には違反していない可能性もある。だが緑の党のグレットリ氏は、「スイスの政治的アイデンティティの土台を傷つけるだろう」と批判する。

ゲッシ氏は「報道の核心部分に誤りがないとすれば、スイスの中立性と主権を危うくする。それは突き詰めればスイスの政治制度への信頼に関わる問題だ」と述べた。

前出のマルクヴァルダー氏は冷戦中には多くのスパイ活動があったこと、それでも未だに確固たる評判を維持していると話す。「我々の中立性と条約や協定が適用されることを相手国にはっきりと示さなければならない」と訴えた。

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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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