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スイスの時計オークションが映し出すコレクターの情熱

オークション
11月3日、ジュネーブでフィリップスら主催の時計オークションが開催された Diego Mesquita

オークション会社アンティコルムとクリスティーズ、フィリップスの3社が11月初旬に開催した時計オークションは、総額1億フラン(約170億円)以上の売上げをもたらした。店頭価格を大幅に超える価格で高級時計が取引されるオークションは、コレクターたちが時計に注ぐ情熱を反映するスペクタクルだ。

「神の審判」――著名時計職人であり、オリジナル時計ブランド「F.P.ジュルヌ」の創業者、フランソワ・ポール・ジュルヌ氏(65)は、オークションをこう呼んだ。同氏は権威あるジュネーブ時計グランプリ(GPHG)の最高賞「エギュイユ・ドール(金の針)」賞を唯一人3度受賞した経験を持つ。

だがそれ以降はGPHGには参加せず、オークションが唯一の競争の舞台になった。作品を100万フラン以上で売ることのできる、選りすぐりの「百万長者」時計サークルの一員だ。

ロンドン発祥のオークション会社クリスティーズ外部リンクは今年5月、F.P.ジュルヌの特別販売会を開催し、40本が計1370万フラン(約23億円)で落札された。時計・宝飾品向けコンサル企業の年次報告書外部リンクによると、F.P.ジュルヌは今年のオークションでパテック フィリップとロレックスに次いで3番目に人気のあるブランドとなった。

フランソワ・ポール・ジュルヌ
フランソワ・ポール・ジュルヌ氏、ジュネーブの工房にて Keystone/pascal Mora

独立系ブランドの人気上昇

これは時計オークションがデザイナーやブランドのヒエラルキー(階層)を決め、同時に世界中のコレクターが時計の魅力を正確に測るためのものさしの役割を果たしていることの一例だ。

創業24年と若輩ブランドのF.P.ジュルヌが、184年の歴史を持つパテック フィリップや118年のロレックスといった大御所と同じ舞台で競争できるのはオークション販売のおかげに他ならない。

クリスティーズで時計を担当するレミー・ジュリア氏は、「多くの人が今『独立』ブランドに注目している。F.P.ジュルヌやフィリップ・デュフォー(Philippe Dufour)のようなブランドは値上がりが進む」と話す。

「その背景には、上の世代と差別化したいという新世代の願望がある。パテック フィリップとロレックスは依然としてオークション売上高の7~8割を占め、市場を独占している。1~2位の地位は不動だが、さらに興味深いのは、3番手にも競争の余地があることだ」

時計オークションの中心地ジュネーブ

オスバルド・パトリッツィ氏がジュネーブで初の時計専門オークションを開催したのはほぼ半世紀前の1974年。同氏はその後、オークションハウスのアンティコルム外部リンクを共同設立した。以来、時計は美術品や宝飾品に並ぶ重要な存在になった。

ラグジュアリーとアートが交差する美しい時計は、新たな顧客層と新世代をオークションに惹きつける。ジュネーブは今日でも香港やドバイ、ニューヨークを抑えて時計オークションの中心地としての地位を保つ。

伝説の時計専門家オスバルド・パトリッツィ氏は回想録の中で、パテック フィリップが搭載した「永久カレンダー」が大成功を収めた1982年、オーナーのフィリップ・スターン氏から1本の電話を受けたことを振り返る。スターン氏は、ショーケースに並べられたものと同じ時計がなぜオークションではるかに高い値段で取引されるのかを知りたがったという。

そこでパトリッツィ氏は自問した。生産基準に従って算出された店頭価格と、コレクターの情熱を飲み込んだオークション価格は、どちらに正当性があるのだろうか?

「時計の価値はモデルの希少性や歴史、独自性によって決まる」。時計オークションハウスのバックス&ルッソを率いるオーレル・バックス氏はこう解説する。例えば切手のコレクターは、特殊な印影や珍しい形の「歯」を持つ切手を追い求める。

情熱による投資

近年、中古時計の相場高騰が著しい。このため転売目的で時計を購入する人が増殖している。

だが決してお手軽な「投資」ではない。時計製造に関する深い専門知識、あるいは経験豊富な専門家のアドバイスが必須だ。

バックス氏は「金銭的利益を得る目的で時計を購入するなら、美術品の収集や株式投資と同じくらい多くの要素を考慮することが不可欠だ」と警告する。「私からのアドバイスとしては、自分の情熱に従って投資するべきだ。金庫にしまって価値が上がるのを待つよりも、美しく希少な時計を所有する喜びを堪能する方がメリットは大きい」

時計の価値は上がることもあれば下がることもある。オークションは市場のバロメーターとして機能する。価格変動はより深刻な激変の前兆となる可能性がある。

マーキュリー・プロジェクトによると、時計オークションの2023年1~6月期の売上高は3億1200万フランと、前年同期に比べ18%減少した。

だがオークション業者は強気だ。ロンドン発祥のオークション会社フィリップス外部リンクの時計専門家、アレクサンドル・ゴトビ氏によると、「オークション売上高が減少したのは最も人気の高級モデルのごく一部だ。だがこうした時計も店頭価格より高値で落札されている」

時計業界の祭典

時計オークションは決して富裕層だけのものではない。歴史ある時計でも、多くは新品と同等の手頃な価格で販売される。

オンラインオークションはもちろん、大規模な対面オークションでは特にその傾向が顕著だ。11 月4~5日にアンティコルムが開催したオークションでは、金のロレックスが2500フランで、ジャガー・ルクルトが5750フランで落札された。

時計愛好家たちはたとえ入札しなくとも、大規模なオークションに比類なき魅力を感じている。

英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語でオークションを主催するオーレル・バックスは、顧客と円滑なコミュニケーションを取り、サスペンスを演出する。ジュネーブの会場であるラ・リザーブ・ホテルは、本物の劇場さながらのスペクタクルの舞台となっている。

フィリップスのゴトビ氏は、「『オフライン』販売会にはオンラインショッピングにはない喜びと情熱がある。私たちは役者ではなく、何十万フラン、何百万フランの芝居を提供している」と説明する。「だがオークション中は、誰もが参加できる本物のショーを見せられるよう努めている。それが美しい時計のイメージにとって重要だからだ」

同氏はオークションを時計業界の歴史と進化、展望を映し出す真の祭典であるとみる。今や単なる商業イベントをはるかに超えた存在だ。

編集:Samuel Jaberg、仏語からの翻訳:ムートゥ朋子

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