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仏マクロン大統領がスイス公式訪問

ヴォー州ローザンヌの欧州ジャン・モネ財団前を歩くエマニュエル・マクロン仏大統領(中央)とスイスのアラン・ベルセ大統領(同右)
ヴォー州ローザンヌの欧州ジャン・モネ財団前を歩くエマニュエル・マクロン仏大統領(中央)とスイスのアラン・ベルセ大統領(同右) © Keystone / Martial Trezzini

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が15~16日の2日間、スイスを公式訪問し、政界・経済界・学界の関係者と交流した。 

「スイスも欧州連合を必要としている」 

マクロン氏は15日、ベルンの連邦議事堂で演説し、スイス・欧州連合(EU)の二国間関係に言及。「EUはスイスを必要としている。スイスもEUを必要としていると確信している」と述べた。 

2021年、EUとの制度的枠組み条約交渉を打ち切ったスイス連邦政府は最近、年内に新たな交渉権限を策定したいと発表した。マクロン氏はこれについて目に見える結果が出ることを望んでいるとし「フランスは、前進を望む欧州共同体を支持する」と述べた。 

ベルセ大統領は「スイスは、欧州の真ん中でそこまで孤立しているわけではない。スイスには多くの『フランス』があるからだ」と発言。共有の言語と文化、そして歴史的なつながりが深いことを強調した。 

戦争に言及した演説 

マクロン氏は、ウクライナでの戦争や、中東、サヘル地域、ナゴルノ・カラバフでの紛争にも言及。特に、スイスが「ウクライナに対するロシアの侵略戦争を非難し、EUの制裁を踏襲するという明確で強力な姿勢」を称賛。「この点において我々は引き続き協力し、それぞれの手段に応じてさらに前進していかなければならない」とさらなる協力を呼び掛けた。 

ベルセ氏は「私たちの世界は血を流している」と返し、欧州での武力紛争に関して「政治的な解決策は確かに存在する。だが国家の撤退はその1つではない」と発言。この点に関し、マクロン氏が提唱する多国間で国際的なアプローチを「見習うべき手本」だと評した。 

大学を訪問 

15日の初日は政界などよりフォーマルな場だったのに対し、2日目はフランス語圏のヴォー州ローザンヌとジュネーブで大学などを訪問。学生や研究者、企業関係者らと会談した。 

マクロン氏とベルセ氏はまず、ローザンヌ大学(UNIL)のキャンパスにある欧州統合の父ジャン・モネのアーカイブを集めたジャン・モネ財団を訪れた。 

マクロン氏の訪問では、スイス・欧州連合(EU)の二国間関係ほか、現在の国際情勢における欧州の在り方が大きなテーマになった。同大主催の会議「欧州について語る:現在の社会的課題への対応」も同様で、マクロン氏とベルセ氏は学生ら1400人を前にスピーチを行った。 

ローザンヌ大主催の会議に出席したエマニュエル・マクロン仏大統領とスイスのアラン・ベルセ大統領
ローザンヌ大主催の会議に出席したエマニュエル・マクロン仏大統領とスイスのアラン・ベルセ大統領 © Keystone / Martial Trezzini

結束と主権:マクロン大統領にとっての「欧州」 

マクロン氏はスピーチで「欧州の基盤がこれほど揺らいだことはない」と発言。しかし「欧州というものが引き裂かれ、ナショナリズムが復活するあらゆるリスクに直面してもなお、『欧州』は最善の答えであり続ける」と強調した。 

そのためには欧州がEU内で「団結」することが必要だが、EUの「穴」(スイスを含むEU非加盟国)との結束も必要だと説明。EU非加盟国も参加する新たな「欧州政治共同体(EPC)」創設をマクロン氏が提唱したのはそのためだとした。EPCにはスイスも参加している。 

マクロン氏は、米国や中国をはじめとする他の大国が台頭する国際関係において、欧州は「主権」を奪還せねばならないと強調。そのためには自然環境保全への移行や人工知能(AI)など、多様な分野に「大規模投資」を行う必要があると呼び掛けた。 

欧州の研究開発支援プログラム「ホライズン・ヨーロッパ」からスイスが除外されたこと、そしてそれが研究や技術革新に及ぼす影響について問われると、マクロン氏はスイスが再び同プログラムに加わることに賛成だと述べた。 

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イスラエル・パレスチナでの戦争 

イスラエル・パレスチナでの戦争についても話題が及んだ。ローザンヌ大では16日朝、学生約200人がイスラエルを支持するマクロン氏の訪問に抗議しデモ活動を行った。 

大規模な警備部隊が投入され、地元警察が唐辛子スプレーを使うなどしてデモを阻止した。この日、4人が逮捕された。 

16日朝、学生約200人がローザンヌ大キャンパスに集まり、イスラエルを支持するマクロン統領の訪問に抗議した
16日朝、学生約200人がローザンヌ大キャンパスに集まり、イスラエルを支持するマクロン統領の訪問に抗議した © Keystone / Cyril Zingaro

会議では、パレスチナ自治区ガザ地区での武力衝突に関し、両大統領に質問が飛んだ。マクロン氏は、フランスは10月7日のハマスによる「テロ攻撃を断固として非難」し、イスラエルには「自衛の権利」があると述べた。 

しかし、この権利は「民間人への爆撃を正当化するものではない」とし、休戦につながる「即時の人道的停戦」と、パレスチナの人々が最終的に国家を持てるようにするための「政治的対話の再開」を求めた。 

スイスのアラン・ベルセ大統領は、もはや「恐怖」と化すこの紛争の「激化」に終止符を打たなければならないとし、民間人保護に対するスイスの取り組みを強調した。 

会議では気候変動問題も議題に上がった。 

スイス企業と意見交換

その後、両大統領はローザンヌのホテル・ボー・リバージュ・パレスで、リープヘル、スイス・クロノ、アプコ・テクノロジーズ、テトラ・ラバル、ジボダン、STマイクロエレクトロニクスなどスイス企業関係者との昼食会に出席した。 

マクロン氏の公式訪問は政界との接触や欧州の重要性を説くことだけが目的ではない。研究・教育、バイオテクノロジー、金融、産業、医療などの最先端分野を中心に、既に強固な関係にあるスイスとフランスの経済・商業関係を強化することも視野にあった。 

仏政府も声明で「スイスはフランスにとって3番目の投資国であり、その逆も同様」であること、そして付加価値の高い分野で「両国の貿易額は400億ユーロ(約6兆5000億円)を超える」点を強調する。 

スタートアップ企業の代表者と特別列車に乗車するエマニュエル・マクロン大統領(左)
スタートアップ企業の代表者と特別列車に乗車するエマニュエル・マクロン大統領(左) © Keystone / Martial Trezzini

会食後、フランスの大富豪ザヴィエ・ニエル氏を含む大統領一行は、ジュネーブに向かう特別列車に乗り込んだ。移動中の車内で、マクロン氏はスタートアップ企業の経営者たちと事業活動について意見交換した。 

連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)と連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のフランス人卒業生が設立した2つの新興企業DistranとTechnisのほか、スイス・仏のプロジェクトNeuroRestore、スイスのスタートアップ企業Haya Therapeutics、Bloom Biorenewables、FAIRTIQの代表者が参加した。 

マクロン氏は最後に欧州原子核研究機構(CERN)を訪問。CERNのファビオラ・ジアノッティ所長の案内で、フランスとスイスの国境に位置する世界最大の粒子加速器、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を見学し、若手科学者たちと話をした。 

2040年までに地下に新しい粒子加速器を建設することについても話題が及んだ。同装置には推定200~250億ユーロの巨額投資が必要になる。フランスはCERNの主要貢献国の1つで、CERNの予算の約14%近くを負担する。 

マクロン氏は原子力研究の重要性を強調し、この機関が「世界の卓越性」のトップに君臨し続けることを望むと述べた。 

フランスには約21万人のスイス人が住む。スイスには約16万3千人のフランス人が住む。さらに、22万人以上の越境労働者がスイスで働く。 

フランスはスイスにとって、ドイツ、米国、イタリア、中国に次ぐ5番目の貿易相手国。2022年、両国の貿易額は362億フランに達した。 

対内投資国としてみると、フランスにとっては、スイスは米国、ドイツに次ぐ3番手。スイスにとっては、フランスは第4位の投資国だ。 

仏語からの翻訳:宇田薫 

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