和平の場に女性を、コロンビアからの訴え
コロンビア政府と極左ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)との和平合意から約10年経つ。しかし暴力や違法行為が横行し、被害者救済も進まず、和平への道のりは依然として遠い。現地の女性活動家たちは国際社会に対し、引き続き和平プロセスに関与してほしいと声を上げている。
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殺人、誘拐、失踪――。コロンビアではこのすべてが今もなお、日々、当たり前のように起きている。和平合意から10年が経過しても、このような事件外部リンクが毎年数百件発生している。
このところの治安悪化を受け、欧州議会は6月のコロンビア大統領選を前に、候補者たちに書簡を送付。その中で「社会活動家、人権活動家、(中略)、そして和平合意の署名者たちを標的とした殺害や脅迫が続いていることへの深い懸念」を表明した。
これまでコロンビアの和平実現に向けて取り組んできたスイス政府も動きを見せている。ベルンでは、連邦外務省(EDA/DFAE)平和・人権部(AFM)のマリアナ・グロバ・ゴメス氏とコロンビアの人権活動家、カリン・ガブリエラ・バスティダス・ディアス氏の会談が行われた。
バスティダス氏は「コロンビアの危うい現状と、これまで進めてきたあらゆる和平プロセスが後退する恐れがあるということをスイス側に訴えた」と話す。バスティダス氏は、女性活動家連合Hilando Poderes: Mujeres que Transforman(力を紡ぐ:変革をもたらす女性たち、の意、以下イランド・ポデレス)のメンバーだ。このグループは、エクアドルの国境に近い南西部ナリーニョ県の中でも、特に暴力の被害が深刻な10カ所の自治体の女性たちで構成されている。
蚊帳の外に置かれた女性たち
バスティダス氏は、コロンビア政府と武装勢力フレンテ・クムネロス・デル・スール(Frente Comuneros del Sur)間の和平交渉の行方を当事者として見守ってきた。この勢力は反政府左翼ゲリラ勢力・民族解放軍(ELN)の分派だが、ELN自身は2024年に和平交渉から離れた。スイスは当時、和平プロセスを支援する立場としてコロンビア政府とELNの交渉に携わっていた。
バスティダス氏によると、ナリーニョ県の武装勢力として初めて武器を置いて交渉のテーブルに着く決断を下したのが、このフレンテ・クムネロス・デル・スールだった。2025年4月のことだ。
イランド・ポデレスは、交渉に女性たちの声を反映させるよう要請している。「私たち女性は平和を望み、平和を切望している。でも、紛争の根底には根強い男性至上主義とマチスモ(男性優位を誇示する文化)がある。女性への影響は見えづらくなっている」。紛争や強制避難、殺害は議題に上るものの、女性であるがゆえに受ける被害が見過ごされているという。
今回、バスティダス氏とグロバ・ゴメス氏との会談では、まさにそこが焦点となった。スイスは、対コロンビア協力プログラム(2025~28)でインクルージョン(包摂)を活動の柱としており、女性参画という視点を組み込む形で、当局の和平プロセスを後押ししている。
バスティダス氏によると、スイスはコロンビア国内で「信頼できるパートナー」として認識されている。20年以上にわたり平和政策に携わり、第三者という立場で武装勢力との交渉に関わってきた実績が、その信頼の背景にある。スイスはまた、「米州戦略2026~29」外部リンクにおいて、対話や和平交渉の場に男女が対等に参加することを中心に据えている。
和平プロセスにおいて、女性は今なお蚊帳の外に置かれたままだ。バスティダス氏と共にベルンを訪問した政治学者のパオラ・B・クアティン氏も、その現状を打破したいとの思いに突き動かされて活動している。クアティン氏は平和主義や反軍事主義を掲げるフェミニズム運動に尽力し、コロンビア国内でその名が知られている。イランド・ポデレスのリーダーも務める同氏は、ナリーニョ県での和平交渉から女性が排除されたことが、この連合を立ち上げる大きなきっかけになったと話す。
女性同士の対話と連携こそが、和平プロセスへの参画を実現する鍵だとクアティン氏は語る。このアプローチはスイスの平和外交政策にも深く根付いており、両氏は会談で、その理念がコロンビアの地でも具体的な成果につながるよう、支援を求めた。
過去10年で最悪の人道危機
クアティン氏は、コロンビアでは今もなお武力紛争が続き、深刻な人道危機も生じていると訴える。10年前にFARCと歴史的な和平合意に至ってから、武装勢力が四分五裂し、国中に割拠するようになった。
反国際組織犯罪グローバル・イニシアチブ(GI-TOC外部リンク)アンデス地域事務所のシニアアナリスト、アンドレス・アポンテ氏は、武装勢力が暴力行為を通じて経済的利益を得ている限り、持続的な平和の実現は難しいと指摘する。
アポンテ氏によれば、問題は麻薬取引にとどまらず、はるかに多岐にわたっている。「コカインだけではない。ほかにも複数の違法ビジネスが横行しており、コカインに匹敵するか、もしくはそれ以上の問題となっている」。例えば金取引、人身取引、武器取引、アマゾンでの違法伐採などだ。
アポンテ氏はまた、和平プロセスにおいて当初掲げられていたアプローチ、特に「全面的和平」という構想が「非常に曖昧な」ものだったと指摘する。「それを政治的・法的にどう担保するのか。その点が検討されていなかった。規範的な枠組みがなかった」。特に犯罪組織との交渉では、こうした枠組みの不在が災いし、和平プロセスが実質的な進展を伴わない「停戦の延長」に終始することが多かったという。
一方で同氏は、国際社会がキープレイヤーとして伴走することが重要だと強調する。スイス、ノルウェー、スウェーデンなどの存在は、武装勢力や犯罪組織と交渉する上で「信頼関係はもとより、ルールの確立といった最低限の規範を定める上で不可欠」だとし、「こうした国々が引き続き、和平プロセスに関与していく必要がある」と力を込めた。
今年5月、赤十字国際委員会はコロンビアの人道状況に関する年次報告外部リンク(2025年)を公開。その中で、武力紛争の結果、同国の人道状況は過去10年間で最も深刻な水準に達したと警鐘を鳴らした。
国際社会は2016年以降のコロンビアは平和と安全をもたらす移行期に入ったと見ているが、その認識は現実とはかけ離れているとクアティン氏は話す。「コロンビアで人権擁護を訴えるというのは命がけの選択だ。そうすると決めたからには、そのリスクを覚悟することになる」。同氏もイランド・ポデレスのメンバーも、身の危険を感じているという。
「私たちを見捨てないで」
こうした現実があるからこそ、クアティン氏とバスティダス氏はスイスが今後も和平への取り組みを支えていくことが非常に重要だと考えている。クアティン氏は「コロンビアは依然として厳しい状況にある。今、国際社会に見捨てられては困る」と訴える。
クアティン氏は「スイスには和平プロセス交渉に関わることで、引き続き重要な役割を担っていってほしいと考えている」と続けた。スイスの支援はコロンビア市民社会のイニシアチブ強化に大きく貢献してきたという。スイスのNGO 「ピースウーマン・国境を越え平和をつくる女たち」外部リンクの財政支援もそのひとつで、ふたりが今回ベルンを訪問できたのも、同NGOの協力あってのことだ。
スイスの取り組みを評価する声はほかでも上がっている。コロンビア政府もつい先日、平和構築に向けたスイス、ドイツ、ノルウェー、オランダの継続的な貢献に謝意を示し、米州機構の和平プロセス支援ミッション(MAPP/OEA)の活動を維持する上でも、地域社会の変革、公的機関の強化、信頼醸成に向けた施策を支援する上でも、こうしたパートナー諸国の貢献が不可欠だったと明確に述べた。
ただし、クアティン氏はコロンビアの大統領選を前に、政権交代によってこれまでの歩みにブレーキがかかるのではないかと懸念する。「右派が現政府の和平政策とその交渉プロセスを支持していないことは周知の事実だと思う。彼らは軍事的解決を望んでいる。戦争をさらなる戦争で終わらせようとしている」。とはいえ、それが不可能であることはこの国の歴史が証明している、と同氏は付け加えた。
グスタボ・ペトロ大統領が掲げた「全面的和平」が失敗に終わったことは明白だとクアティン氏も考えている。今では「紛争が各地で頻発するようになり、犯罪組織は勢力を強め、暴力が麻薬取引や違法採掘、恐喝と結びついてビジネスになってしまった」。
一方で同氏はこう強調する。コロンビアで起きているような紛争は4年で解決できるものではない。どの政権になっても、長期的視野に立つプロジェクトが必要なのだ、と。
6月21日に行われた大統領選の決選投票では、右派の弁護士アベラルド・デ・ラ・エスプリエジャ氏が、現職ペトロ大統領の後継で左派のイバン・セペダ上院議員を破って勝利した。8月7日に就任予定で、任期は4年だ。
編集:Marc Leutenegger/gm、独語からの翻訳:吉田奈保子、校正:宇田薫
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