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COP27の課題は途上国への気候資金支援 先進国は約束を守れるか

自宅で洪水の被害状況を確認する女性
パキスタン・チャルサダ地区にある自宅で洪水の被害状況を確認する女性。この夏、壊滅的な洪水がパキスタンの国土3分の1を襲った Keystone / Arshad Arbab

国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が6日、エジプト東部シャルムエルシェイクで開幕する。山積みされる課題の1つに、気候変動の被害が最も大きい国に対する資金援助問題がある。スイスは気候保護への投資拡大を求め、貢献が可能な国に対し積極的支援を呼びかける。

COP27には約90カ国から国家・政府首脳が出席する。議長国エジプトの会議担当特使ワエル・アブールマグド氏は、今年の会議に期待するのは「約束から行動へ」の移行だと言う。同氏は先日、産業革命前からの世界平均気温上昇を1.5度に抑えるというパリ協定の目標について、その達成に必要な行動と各国の気候変動対策の間には、まだ「大きな落差」があると指摘した外部リンク。COP27では、気候変動による被害が最も大きい国に対する資金援助が焦点の1つとなる。

温室効果ガス排出量の増加は止まらず外部リンク、地球温暖化が人間と環境にもたらす影響は目に見えて深刻化している。パキスタンの国土の3分の1を水没させた8月の洪水や、過去500年間で最悪の干ばつと猛暑を記録した欧州の夏などの異常気象は、地球規模の協調行動が早急に必要なことを改めて浮き彫りにした。

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このコンテンツが公開されたのは、 この夏、世界各地を襲った異常な熱波や大雨の原因は、地球温暖化である――国連の気候レポートの最新版の執筆に関わったスイス人研究者ソニア・セネヴィラトネ氏は断言する。

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ところが、ロシアのウクライナ侵攻やエネルギー危機、世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国である米中間の緊張といった時局は、合意の遵守や国際協調の足をさらに引っ張っている。スイスを含めいくつかの国では、ロシア産ガスの供給減のためにエネルギー戦略の見直しを余儀なくされた。昨年、英グラスゴーのCOP26で合意に至った「石炭の段階的削減」に関する国際的コンセンサスも、もはや絶対ではない。

COP27の注目点は

COP27では6〜18日の会期中、各国代表団と政府関係者がパリ協定の実施方法や排出削減目標の達成方法を巡って協議する。先進国が途上国の気候保護プロジェクトへの資金提供を通じて自国の目標を達成するメカニズムについても、ルール作りを行う。

前回のCOP26で、締約国はより野心的な気候変動対策に取り組むことで合意した。その1つに「国別削減目標(NDC)」の5年毎の再提示がある。だがCOP27までに上方修正を求められていた2030年目標について、今年9月の期限内に提示したのは、わずか23カ国外部リンクだ。COP27開幕直前に国連気候変動枠組条約事務局が発表した最新の報告書外部リンクによると、194カ国が批准したパリ協定の目標では、今世紀末までに気温が2.5度上昇する見込みだ。

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COP27では、天然ガスも議題の1つだ。背景には、アフリカ諸国が大陸の経済発展のために化石燃料を推進外部リンクしているという事情がある。また、最貧国や最も脆弱(ぜいじゃく)な国の気候変動対策を支える財政的手段や、地球温暖化がもたらす損失や被害に対する補償といった課題も、議論の紛糾が予測される。

富裕国の取り組みは?

富裕国は09年、途上国のCO2排出削減と気候変動適応プロジェクトに年間1千億ドル(約14.6兆円)を拠出することで合意した。20年の達成を約束したが、経済協力開発機構(OECD)の最新の分析外部リンクでは、同年に最も脆弱な国々に割り当てられた資金は、833億ドルにとどまった。

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COP26では最終日、富裕国が気候変動適応策に対する拠出資金の倍増を決定した。例えばパキスタンでは太陽光発電所の建設よりも洪水対策の方が急務であるように、温暖化災害に苦しむ国にとって気候変動への適応は待ったなしだ。それにもかかわらず、これまで援助の大半は、むしろCO2排出削減などの緩和策に充てられてきた。

最貧国側の要望は?

第一に、年間1千億ドルを拠出するという誓約の遂行だ。その期限は23年に延長された。その他の要望には、海面上昇や洪水・台風などの異常気象による被害や損失の補償に限定した追加融資メカニズムの創設がある。

アフリカのCO2排出量は世界全体の4%に満たないなど、排出に関し南半球諸国は最小の責任しか負っていない。ところが、気候災害による経済的損失と人命の面では最も高い代償外部リンクを支払わされている。これらの国が何らかの補償を求めるゆえんだ。

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しかし、最も脆弱な国に対する補償基金の創設には、米国と欧州連合(EU)が既に反対を表明している。COP27ではその代わりに、化石燃料に対する新たなグローバルタックス(国際連帯税)外部リンクの導入案が提示される見込みだ。

スイスの優先事項は何か

スイスは、温暖化防止に関わる具体的な決定事項にコミットするようCOP27参加国に働きかける。スイスのCOP27主任交渉担当者フランツ・ペレス氏は「1.5度の目標を見失わないことが優先事項だ」とし、そのためには、気候変動への適応と同様、気候変動の緩和についても作業計画作りが不可欠だと説明する。

「各国が単に経験をシェアするだけでなく、民間との連携も念頭に、排出削減目標引き上げのための解決策を模索する場を作りたい」(ペレス氏)

「1.5度の目標を見失わないことが優先事項だ」

COP27スイス主任交渉担当者フランツ・ペレス氏

スイス代表団は、気候保護への世界的な投資拡大も推進する意向だ。具体的には25年以降の新たな資金調達目標策定を目指す。ペレス氏は、全ての富裕国は支援の手を差し伸べねばならないとし、「我々は、キャパシティ(国内総生産)の大きい国は、先進国であるかどうかにかかわらず、貧困国を援助すべきだと考える」と述べた。

損失と被害の問題が重要だという点でペレス氏に異論は無い。しかし、一部NGOが求めるような、この点に特化した基金の設立については熟考の余地が大きいという見解だ。基金の用途や、誰が参加するのかといった合意が存在しないためだ。「こうした基金は、最も貧しく脆弱な国に優先的に配分されるべきだが、この点に関する合意がまだ無い。しかも運用開始までには何年もかかる。そのため、現時点でこれは解決策とは呼べない」(ペレス氏)。スイスは、24年まで継続される「グラスゴー対話」の枠内で、損失と被害のテーマについて議論を深め、さまざまな選択肢の評価を行うことを優先する考えだ。

編集:Sabrina Weiss、英語からの翻訳:フュレマン直美

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