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アフガン難民受け入れを巡り割れるスイス

Des Afghanes et Afghans se rassemblent devant l aéroport de Kaboul pour fuir
アフガニスタンを脱出するため、カブールのハミド・カルザイ国際空港の外に集まる人々。2021年8月20日撮影 Keystone / Stringer

アフガニスタンが再びイスラム主義勢力タリバンに制圧されたことを受け、スイスは同国への強制送還を停止するとともに、約200人のアフガン人に人道的査証(ビザ)を発給する。だが市民団体や左派からの強い要請の中、難民を大量に受け入れる予定はない。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、2020年末の時点で260万人以上のアフガン難民がいた。これは、世界の難民の10人に1人がアフガニスタン出身者であることを示す。主な亡命先はパキスタンやイランなどの近隣諸国だが、欧州でも30万人超が暮らしている。

欧州委員会や国連は、タリバンが国のほぼ全域を制圧したことで今後さらに50万人が避難を余儀なくされると見ている。では誰が彼らを受け入れるのか?アフガン難民受け入れを巡り、多くの国で大きな議論が起きている。

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欧州他国と同様にスイスでも、数年前から難民申請者の大半はアフガニスタン出身者になっている。スイス連邦移民局(SEM)によれば、今年7月の時点で、1万2500人のアフガン人が難民申請手続き中だった。

非政府組織(NGO)のスイス難民援助機関(SFH/OSAR)の広報担当者エリアンヌ・エンゲラー氏はスイスインフォに対し、「タリバンが政権を握る前からすでに長い間、アフガニスタンの治安と人権の状況は非常に厳しかった」と話した。

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エンゲラー氏は、難民申請の却下でアフガニスタンに送還される人は、「欧州にいたという事実だけで、脅迫や暴力を受ける可能性がある」と言う。そのためSFH/OSARはかねて、アフガニスタンへの強制送還の中止を求めていた。スイスは8月11日、他のEU加盟数カ国と同じくアフガン難民の本国送還の一時停止を発表し、UNHCRもそれを歓迎した。SFH/OSARは「状況が真に改善されるまで送還停止が継続されること」を望んでいる。

スイスからアフガニスタンへの強制送還は、以前から多くはなかった。直近のケースは2019年で、5人が送還された。SEMによれば、20年は新型コロナウイルスの流行を受けて、強制送還の実施はなかった。

過去25年間で、2万6千人以上のアフガニスタン出身者がスイスで難民申請をしている。このうち約1500人が申請を却下され国外退去になったが、主な送還先はアフガニスタン以外の国(第三国やダブリン規約加盟国)で、本国送還された人は80人だった。ちなみに1990年代のタリバン支配下のアフガニスタンに、亡命者がスイスから送り返されたケースはない。

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SEMの広報担当者、ダニエル・バッハ氏は、「多くのアフガニスタン出身者がスイスで保護を受けている」と弁護する。同事務局によれば、20年のスイスの保護率(その年の認定・却下合計件数に対する難民・暫定滞在認定者数)は、「欧州諸国の中では最も高く、84%に上る」という。

確かに、スイスはアフガン亡命者を保護している。だが難民として認定するケースは少なく、その認定率は16.5%にまで落ちるとエンゲラー氏は指摘する。多くの人が難民認定ではなく、「暫定的な在留許可」を受けているが、SFH/OSARは「暫定在留許可は、保護としてはるかに不安定だ」と言う。

「スイスは今以上のことをやるべき」

アフガニスタンの国情悪化を受け、SFH/OSARなどのNGOや様々な団体の他にも、左派政党、ジュネーブやチューリヒなどの大都市、市民社会からは、アフガン難民の受け入れ条件を拡大すべきだという声が上がっている。

「タリバン政権下では、人権や民主主義のために活動してきた全ての人々に加え、女性は特に脅威にさらされている」とエンゲラー氏は述べる。「タリバンは西欧諸国やNGOなどの機関で働いたことのある人たちを西側の協力者とみなしている。そのような人たちが現在危険にさらされている」

中でも、すでにスイスに滞在するアフガン人に暫定在留許可を出し、人道的ビザの発給や家族の呼び寄せ手続きを簡素化するとともに、UNHCRが支援する再定住プログラムでのスイスの割当枠を増やすことがスイス政府に求められている。

また、少なくとも5千人のアフガン難民の即時受け入れをスイスに求めるオンライン請願書には、先週のうちに1万6千人の署名が集まった。

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担当: Marc-André Miserez

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74 件のコメント
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連邦政府は現地支援を優先

18日の記者会見で連邦政府は、現在はこのような請願に応える予定はないと表明するとともに、現地での支援を約束した。

当面スイスは、現在一時的に閉鎖されているカブールの協力事務所の現地職員とその家族の避難・受け入れを優先事項とする。SEMは、「アフガニスタンで具体的かつ深刻な脅威にさらされているため」、約230人に人道的ビザを発給するという。

SFH/OSARのエンゲラー氏は、「それは必要なことだがまだ不十分」であり、「スイスはその人道的な伝統にふさわしくあるために、それ以上のことをするべきだ」と言う。一方、SEMのバッハ氏は、「私たちは常にアフガニスタンの状況を監視している」と断言し、「スイスは保護の仕方を常に見直し、必要であれば随時適応させていく」と話した。

(仏語からの翻訳・由比かおり)

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