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安倍晋三元首相の暗殺事件 日本の政治に与える影響は?

安倍晋三元首相
故安倍晋三元首相。2018年10月、東京で撮影 Keystone / Franck Robichon

安倍晋三元首相が殺害された事件は、スイスでも暗殺事件として報じられている。スイス公共放送は今後の日本政治に与える影響を分析。動機との関与が取りざたされる宗教団体の実名も複数のメディアが報じている。

ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は10日、同事件が今後の日本政治に与える影響について、日本が専門のアクセル・クライン教授(独デュースブルク・エッセン大学、政治学)に聞いた。

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SRF:安倍氏の暗殺事件は、参院選とその投票結果に影響を与えたのか?

アクセル・クライン:今のところ、それは当てはまらなそうだ。投票率、自民党の得票率ともに予想通りだった。1980年にも、選挙中に首相が死去したケースがある。衆院選の10日前で、自然死だったが、この時は大きな影響があった。

(編集部注:選挙中の1980年6月12日に大平正芳首相が急死し、結果的に自民党が大勝した)

SRF:安倍氏は首相を退いた後も、自民党の黒幕として強い影響力を持っていた。今回の事件は自民党にどのような影響をもたらすか。

クライン:憲法改正、国防の強化、そしておそらくは自衛隊の活動範囲拡大も推進していた非常に重要な人物がいなくなったということだ。

安倍氏亡き空白をどう埋めるのかは全く不透明な状況だ。党の再編成には相当な時間が必要だろう。

SRF:岸田文雄首相は、安倍氏の政策に対する党内批判者とされている。首相は今後、「岸田カラー」を打ち出していくことになるのか。

クライン:両者の間には過去、確かに対立があった。安倍氏に近い勢力が岸田氏の地盤で連立相手(公明党)の候補者を立てたのが1つの例だ。今後、岸田氏には自身のアイデンティティー、自分の政策を押し通す余地が出てくるだろう。

SRF:安倍氏は、国内政治を右傾化させた保守的なナショナリストと言われていた。岸田氏はそれを修正していくのか?

クライン:安倍氏は、自らの名前を冠した経済政策「アベノミクス」の継続を望んでいた。だが岸田氏はこれに反対した。岸田氏は、国内社会の大半がこの新自由主義的アプローチの恩恵にあずかれなかったという立場で、代わりに「新しい資本主義」を打ち出した。憲法改正については、はるかに緩やかなペースで進めていくとみられる。

SRF:宗教団体との関連が動機として報じられているが、宗教団体は日本の政治にどの程度関わっているのか。

クライン:日本の政治における宗教団体の関与は、何も新しいことではない。日本国憲法ははっきりと政教分離をうたうが、だからといって宗教団体が政治に関与したり、候補者を支援したりすることを妨げてはいない。

公明党が1990年代後半、自民党と連立を組んだのは、国家の干渉から自らを守りたいという思いもあった。それ以来、多くの自民党議員にとって宗教団体の支援は、たとえそれが社会の他の部分から歓迎されないとしても、票集めに一役買ってきたようだ。これは、安倍氏と韓国を起源とする統一教会にも当てはまる。暗殺者はそれを承知で、悲劇的な決断をしたのだ。

旧統一教会の名前、スイス紙でも

犯行動機との関連が取りざたされる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の名前は、スイス国内紙でも報じられている。スイスの通信社SDA-keystoneやドイツ語圏の大手日刊紙NZZなどは、警察やメディアが公式に発表していないとした上で、旧統一教会の名称に言及した。通信社の記事は複数のメディアで配信された。

スイスでは以前、韓国で行われた合同結婚式がニュースになった。世界平和統一家庭連合インターナショナルのスイス支部も存在する。

またドイツ語圏の大衆紙ブリックは10日、殺人容疑で送検された山上徹也容疑者(41)が死刑判決を受ける可能性は十分あり得ると報じた。

日本に詳しい歴史家のタクマ・メルバー氏が独大手日刊紙ビルドに語った言葉として「政治家として重要人物であり、厳しい判決が下されないとは想像できない」と報じた

ベルンの日本大使館に弔問

スイスの首都ベルンにある日本大使館は11、12日の2日間、安倍氏の事件を受け記帳台を設けた。同大使館によると、各国の大使が大勢弔問に訪れた。またスイスのイグナツィオ・カシス大統領は岸田文雄首相あてに書簡を送り、弔意を伝えた。

独語からの翻訳・宇田薫

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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