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【解説】SRGイニシアチブ「200フランで十分!」とは 

SRFスタジオ
ドイツ語圏スイス公共放送(SRF)のスタジオ Keystone / Michael Buholzer

スイスの一般世帯の公共放送受信料引き下げと、徴収対象から企業を除外することを求めるイニシアチブ(国民発議)が、3月8日の国民投票にかけられる。反対派は、国家の一体性や民主主義を揺るがすと警告している。 

3月8日の国民投票では、スイスの有権者はこのイニシアチブ(以下、SRGイニシアチブ)を含む4つの案件の是非を判断する。 

スイスでは有権者なら誰でも一定数の署名を集めることで政策案を国民投票に持ち込むことができる。有権者自ら編み出した政策案を国民投票にかける「イニシアチブ(国民発議)」と、議会の法案について国民の最終判断を問う「レファレンダム(国民表決)」がある。

イニシアチブはどのように生まれたのか 

SRGイニシアチブの正式名称は「200フランで十分!外部リンク」。2018年に国民投票にかけられたイニシアチブ「ノー・ビラグ(No Billag)」に続き、スイス公共放送協会(SRG SSR、日本の日本放送協会NHKに当たる)の財源を見直すことを目的としている。ノー・ビラグは公共放送・ラジオの受信料制度を廃止する内容で、7割以上の反対で否決された。 

SRGイニシアチブは、受信料の全面廃止から減額に手法を変え、同じ発起人委員会が提起した。ノー・ビラグよりバランスに配慮した内容とされている。 

発起人委員会には保守右派の国民党(SVP/UDC)、スイス商工業連盟、経済自由主義的な急進民主党(FDP/PLR)の一部が名を連ねる。それぞれの着眼点は異なり、SVPは主にSRGの組織構造や方向性を問題視し、FDPや経済団体は企業も受信料徴収の対象となっていることを批判する。 

具体的に何を求めているのか 

SRGイニシアチブは、スイス連邦政府が公共放送の受信料を年間200フラン(約3万9千円)に引き下げるほか、徴収対象から企業を除外し、一般世帯からのみとすることを求める。現行の受信料は一般世帯が年間335フラン。企業は売上高に応じて、これよりもはるかに高い負担金を支払っている。 

また、スイスの世帯数が将来増えた場合でも、受信料収入の総額は据え置く。世帯数の増加分は、1世帯あたりの負担金を引き下げることで相殺する。 

スイスにはドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4つの言語圏があるが、この言語圏ごとの受信料収入の配分比率は変更しない。また、受信料の引き下げが民間メディア企業の負担になってはならないとし、民間メディアは引き続き、これまでと同額の資金を受け取る。 

SRGの財源構造はどうなっている? 

SRGの現在の年間予算は15億6000万フラン。このうち83%の約13億フラン(2024年)を受信料で賄う。広告やスポンサーによる商業収入は13%、その他の収入が4%となっている。 

その他の収入の一部には、政府がSRGに委託する、国際社会向けの情報サービス提供に関する委託契約(フォーリン・マンデート)への資金も含まれる。SRGの中で最小の事業部門であるスイスインフォは国際事業の中核で、政府からの拠出金とSRGの資金で賄われている。

スイス公共放送協会(SRG SSR、以下「協会」)のフォーリン・マンデート(Auslandmandat外部リンク /Mandat pour l’étranger外部リンク )は、スイス政府とメディア企業である協会との間で締結された、国際社会向けの情報サービス提供に関する委託契約。委託内容は、協会が①国外在住のスイス人向け②スイスに関心のある全世界の読者向けのメディアサービス、の2点を提供すること。 

委託の目的は、在外スイス人の政治的権利を支援すること、また国外における偽情報に対抗することだ。例えばスイスインフォの報道は、スイスに関する誤解やフェイクニュースを是正し、根拠のある情報の提供に貢献している。 

委託業務にかかる費用、つまりスイスインフォの予算は①連邦政府の拠出金②全世帯から強制徴収されるラジオ・テレビ受信料を原資とする協会予算が半分ずつ賄っている。 

連邦政府の現在の拠出額(スイスインフォ以外の国際報道サービスも含む)は年間約1900万フランで、協会もほぼ同額を支出している。 

SRGは、言語圏間の収入と費用のバランスを保つため、地域配分方式に基づき費用を再配分している。 

最も人口の多いドイツ語圏では9億3000万フランの受信料収入があるが、そのうち3億7000万フランが他言語圏へ再分配される。この仕組みにより、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)は受信料の収入比率が23%だが、SRG予算の32%を受け取っている。さらに大きな恩恵を受けているのがイタリア語圏のスイス公共放送(RSI)で、受信料収入は全体の4%にとどまる一方、22%の予算配分を受けている。 

SRGはこの予算を使い、4言語圏でラジオ17局とテレビ7局を運営し、オンラインで10言語配信のスイスインフォ(swissinfo.ch)やtvsvizzera.itなどのサービスを提供している。SRGによれば、多言語化は全体コストの約40%を占める。 

これまでの受信料引き下げ 

受信料は、ここ数年で大きく減額された。政府は2019年、「ノー・ビラグ」の国民投票に先立ち、個人世帯の負担額を451フランから365フランに引き下げた。2021年には現行の335フランとし、中小企業に対しては支払いを免除した。 

2024年に政府は次なる減額を発表し、2027年から段階的に受信料を300フランまで引き下げ、中小企業を徴収対象から完全に免除する法令改正案を提示した。これは、「半減イニシアチブ」とも呼ばれるSRGイニシアチブへの政府の代替案だった。 

アルベルト・レシュティ通信相は、「政府は(受信料を200フランに引き下げる)SRGイニシアチブ可決を回避するには(300フランは)妥当だと考えている」と述べた。 

しかしSRGにとって受信料の引き下げはすでに大きな課題となっている。SRGは現在、将来を見据えた組織改革・コスト削減プログラムを進めている。 

SRGは2029年以降、年間2億7000万フランの減収と、約900人分のフルタイム雇用が失われる可能性があるとしている。 

SRGイニシアチブ賛成派の主張 

SRGイニシアチブ賛成派は、一般世帯の受信料引き下げは家計の負担軽減につながると強調する。生活費の上昇に加え、「公共放送の番組視聴者は減り続けている」ため、受信料の調整が必要だと主張する。発起人委員会によると、特に若年層はNetflixやYouTubeを視聴する傾向が高い。 
また、「メディアを消費できない」企業が徴収対象であるのは「不公平な二重課税」だと主張する。 

賛成派はさらに、SRGの情報番組、娯楽番組双方に批判の矛先を向ける。SRGは本来の基本的任務に立ち返るべきだとし、「公共にとって不可欠なサービス」を提供する番組だけが、正当な中核的使命を果たせると考えている。 

削減後に残る8億5000万フランは、そうした使命を果たすには十分だと主張する。また、スイスの民間メディアは活発かつ多様性に富み、国民に政治的な判断材料を提供する力は十分にあるとしている。 

ベルン連邦議会議事堂にあるSRGの放送室
ベルン連邦議会議事堂にあるSRGの放送室 Keystone / Alessandro Della Valle

SRGイニシアチブ反対派の主張 

反対派は、こうした受信料の大幅引き下げは、「スイスの公共放送の多様性と質」を脅かすと主張する。 

民主主義と国の一体性には、信頼できる独立した情報が不可欠だと訴えている。 

SRGは、スイス全土をカバーする唯一のメディア組織であり、受信料収入によって支えられているため、ウェブサイトのクリック数や資金提供者(所有者)の利害に左右されない唯一の企業でもある。それが、公共の利益に資する高品質で独立した報道を保証しているという。 

企業を対象とした受信料の徴収についてSRGは、スイス経済全体がSRGのサービスから恩恵を受けていると説明している。 

SRGのスザンヌ・ヴィレ会長は、SRGの弱体化は誰の力にもならないと訴える。「この資金は二度と戻らない。影響はSRGだけでなくシステム全体に及ぶ。利益を得るのは海外の事業者だ」 

イニシアチブ「200フランで十分!」に対する各政党の立場 

反対 
・連邦内閣(政府)・連邦議会 

・社会民主党(SP/PS)、中央党、緑の党(GPS/Les Verts)、自由緑の党(GLP/PVL) 

・複数スポーツ団体、自治体連合 

賛成 
・国民党(SVP/UDC)、急進民主党(FDP)青年部、スイス商工業連盟(SGV/USAM) 

未表明 
・急進民主党(FDP/PLR) 

編集:Mark Livingston、独語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:宇田薫 

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