スイス、バー火災でイメージ大きく低下?海外メディアはどう評価したのか
スイス南部ヴァレー州クラン・モンタナのバーで40人の死者を出した火災は世界で報じられ、スイスの「規律正しい国」というイメージに大きな傷をつけた。当局の火災対応に対する不備が明らかになるたび、その傷は増えていく。火災を取材した海外の記者はこの事態をどう見たのか。
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スイスのスキーリゾートで起きた火災がこれだけ大きく報道されたのは、40人の死者のなかに隣国からの休暇客が多く、しかも大半が10代の未成年者だったからだ。また火災を起こしたバーの経営者もフランス国籍だ。そうでなければイタリアのメディアはもっと違った反応を示し、報道も控えめだっただろう。
スイス南部ヴァレー州のスキーリゾート、クラン・モンタナにあるバー「ル・コンステラシオン」で1日深夜、大規模な火災が発生。バーにいた客の40人が死亡、116人が重い火傷などのけがを負った。
州警察の発表によると、出火原因はいわゆる筒形の花火「フォンテーネン(Fontänen)」を店内で使用したことが関連している。Fontänenは花火を内蔵した火金属製の筒形カプセルで、地面に置いたり、スタンドに取り付けたり、手に持ったりして使う。火災発生時は、店内にいた複数の人物がこのFontänenをシャンパンボトルに取り付けて使っていた。その1人が火花を天井に近づけすぎ、そこから火災が発生したとみられる。
州警察が入手した目撃者の証言によれば、天井から発生した火は短時間で急速に燃え広がった。大量の煙と強い熱波が発生し、局所的な火災が急速に燃え広がる「フラッシュオーバー」が起きた可能性が高いとみられる。
特にイタリアメディアのスイスに対する視線は厳しい。その背景を、イタリアの日刊紙コリエレ・デラ・セラの特派員としてクラン・モンタナで取材したジュゼッペ・グアステラ記者は次のように説明する。「イタリアでは若者に対する文化的配慮が非常に強く、若者は特に保護に値する存在だとみなされている」語る。
イタリアの大手メディアグループ、メディアセットのジャーナリスト兼コメンテーター、カルメロ・アバテ氏も、この点を重視する。「イタリア人は、大人が若者を守るという考え方だ。しかし今、大人たちは貪欲さと無関心から、多くの若者を罠に陥れている」
「まるで中世から飛び出してきたような死」
「スイスのイメージは大きく損なわれるだろう」。アバテ氏はそう断言する。それは、スイスの捜査機関の火災への対応を、イタリア国民が容認することはまずないからだ、とも話す。「イタリア国民はこのような悲劇に強い感情を抱いて反応する」
この火災がもたらした衝撃は2つある。1つは、多くの人々の心に焼き付いた大火事そのものだ。アバテ氏の言葉を借りれば、「まるで中世から出てきたような死」だった。中世ヨーロッパでは罪人が火あぶりの刑に処されていた。
もう1つは、火災の後に起きたことだ。日を追うごとに、地元のヴァレー州当局の無能さが明らかになり、スイス全土に驚きが広がっている。
失態続きの当局
当初、批判の矛先は管轄であるクラン・モンタナ自治体当局に向けられた。クラン・モンタナ当局は防火安全検査を怠り、さらには公の場で自らを被害者のように見せかけていた、というのが理由だ。
同時に、捜査機関であるヴァレー州検察庁への批判も強くなった。検察庁は何日も、バーの経営者夫妻に対する公判前勾留を命じなかったからだ。だが、おそらくイタリアから圧力があったとみられ、夫のジャック・モレッティ氏に対してのみ9日遅れで勾留命令を出した。だが最新の報道では、出火原因となった「シャンパン花火」は妻の方が指示していたとされる。
また地元の捜査機関が証拠確保のための様々な措置を怠った、との不満も強い。多くの刑法専門家は、例えば携帯電話の没収、共謀の阻止、ほかに加害者と思われる人物がいないか捜査を広げること、または徹底的な家宅捜索といった措置が不可欠だったと指摘する。
さらに、火災の犠牲者の検死が行われなかったことも大きな批判を呼んでいる。外部の目からは、捜査の多くは不十分で、遅きに失し、連携も不十分だったように見えた。
隠蔽疑惑
フランスの日刊紙ル・モンドのスイス特派員セルジュ・アンデルラン記者も、ヴァレー州当局の危機対応を疑問視する。特に、最も重要な情報が公的機関ではなくメディア報道から出てきた点だ。
しかも、「当局の不手際がかなり早い段階から明らかになったにもかかわらず、だ。つまり、何か隠蔽工作がされた可能性がある」という。
アンデルラン記者は、外国メディア、特にイタリアメディアから厳しい批判が起こる背景には、より深い闇があるとみる。それは、イタリア国民の間ではスイスが傲慢だとの認識が根強いことだ。
イタリアメディアのグアステラ氏もこの意見に賛同する。「スイス人の中には批判的で傲慢な人もいる。彼らはイタリア人が常にルールに従って行動しているわけではないと非難する」。同じくイタリアメディアのアバテ氏は、多くのイタリア人の間に「スイスに対する強い劣等感」が見られるとさえ指摘している。
スイスへのルサンチマン
フランスメディアのアンデルラン氏は、スイスに激しい批判が向けられている理由の一つに、フランス人やイタリア人のスイス人に対する「ルサンチマン(反感や憎悪)」があるという。「だからといってスイスを称賛する気持ちが変わるわけではないが、今回のように大きな間違いがあれば、我々はすぐにそれを攻撃する」
スイス紙ブリックのパリ特派員、リカルド・ヴェルリー記者も同意見だ。ヴァレー州当局のとった「壊滅的なコミュニケーション」は、報道陣、そして大衆の疑念を煽った。そして、これが「特に銀行関連の問題において、長らく真実を語らなかったスイスに対する、フランスで燻り続けていた反感を呼び起こしている」という。
ヴェルリー氏はスイスの行動を牡蠣に例える。「スイスは攻撃されるとすぐに自分の殻に閉じこもってしまう」。まさにこれが「国の評判にとって最大のリスク」だといい、スイスは今こそ、この問題を徹底的かつ断固として調査しなければならないと呼びかける。
スイスのイメージを裏付ける?覆す?
今回の火災以来、海外ジャーナリストの仕事の一つは、スイスという国が世間で言われているお決まりのイメージよりもはるかに複雑であると説明することだった。火災発生直後から、フランスのメディアでスイスについて幾度となくインタビューを受けているヴェルリー氏はこう話す。「私の答えはこうだ。スイスは普通の国。他の国と同じように、見落としや間違い、そしておそらくは違法行為さえも存在する」
クラン・モンタナ在住の英デイリー・テレグラフ特派員ヘンリー・サミュエル氏は、従来のスイスのイメージが事実として裏付けられているとみる。「多くのイギリス人読者は、クラン・モンタナ、そしてスイス全体の資金と人脈を使えば当局の沈黙を買い取ることができるのではといぶかっている」
「スイスは長い間、富裕層にとっての不透明な租税回避地と考えられてきた。彼らはただ、いかにして質問攻めから逃げ回るか、ということしか考えていない」
南ドイツ新聞クラン・モンタナ取材班のニコラス・フロインド記者は、スイスのあるイメージが覆されたとの見解だ。それは「スイスでは、多くのことが明確なルールに従って、しかも非常に徹底して行われている」とのイメージだ。
「結局のところ、それも一つの固定観念でしかなかった」とフロインド氏は言う。「クラン・モンタナの火災安全事故のようなミスや見落としは、スイスでも当然起こり得る」
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「スイスは自国のイメージに苦しんでいる」
また、フロインド氏は、州政府が厳しい責任を負うドイツからすると、ヴァレー州の対応が衝撃的だったと指摘する。連邦閣僚はクラン・モンタナを視察したが「スイスの連邦政府の対応は、この災害の規模を考えると、非常に慎重だった」。フロインド氏はさらにこう続ける。「スイスがこれほど重大な事態をこのような下位レベル(州政府、自治体政府のこと)で放置したことを、多くの人が奇妙に感じている」
フロインド氏は論評の中で、「スイスなら当然のごとくやってくれるであろう」独立調査委員会の設置を求めた。
フロインド氏はまた、スイスは現在「おそらく自らの自己イメージに苦しんでいる」と指摘している。これは、スイスの報道機関が以前からヴァレー州当局に対して厳しい論調をとってきた事実とも一致する。
先週、ヴァレー州が被害者に対し1万フラン(約200万円)を即時補償すると発表し、さらなる不満が噴出している。スイス・独語圏の日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングの見出しは「スイスは被害者を見捨てた」。この「安売り解決策」ではスイスのイメージのダメージを修復することはほとんどできないと報じた。
イメージ修正のチャンス?
では、スイスのイメージは海外でどれほど損なわれているのだろうか?スイスインフォのインタビューを受けたジャーナリストの大半は、行政と司法が職務を全うする限り、スイスのイメージが永久に損なわれることはないと答えた。
フランスメディアのアンデルラン氏は、今回の火災をイメージ修正の機会とさえ捉えている。「ようやく表面的なイメージが剥がれ落ち、スイスは真の姿、つまり見た目ほど特別な国ではない姿を見せることができるようになった。他の国より少しばかり裕福なだけで、その富が努力によって得られたものだと装うのは、むしろ偽善的だ」
編集:Samuel Jaberg、独語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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