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報道の自由を侵害されたジャーナリストたち

ペンとハト
5月3日は「世界報道自由デー」 Kai Reusser / swissinfo.ch

5月3日は国連が制定した世界報道自由デーだ。誰もが保障されるべき基本権だが、ロシアやメキシコをはじめ世界中のどの国も何らかの障害を抱えている。スイスですら、報道の自由を守るために繰り返し闘わねばならない。

swissinfo.chに所属する記者の多くは、報道の自由に対する圧力が高い国でも報道に当たったことがある。

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そして何人かは、報道の自由を欠く社会で報道することがどういうことなのかを自ら経験した。

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チュニジアで情報公開請求権を行使して警察官に嘲笑された記者もいれば、ウラジーミル・プーチン氏に批判的な質問をぶつけるとどうなるか身をもって知った記者もいる。

メキシコや中国の状況は言うに及ばず、スイスも例外ではない。調査報道メディア「ゴッサムシティ」のマリー・モーリス氏とフランソワ・ピレ氏は、スイスの絡む経済犯罪を報じることがどのような影響をもたらすか知っている。swissinfo.chはゴッサムシティの記事を定期的に転載している。

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30年の検閲とジャーナリストへの暴力

パトリシア・イスラス、スペイン語編集部

パトリシア・イスラス記者
swissinfo.ch

ジャーナリストの道を歩み始めた1987年、私はメキシコの検閲を受けるようになった。民放テレビ局では「国政の批判はタブー」が暗黙の了解だった。そのため、調査報道に取り組む記者が発信する方法は1つしかなかった。一部の家族がいかにして中米南部の国々を掌握したかや、1990年代初頭に旧ユーゴスラビアが人道に対する罪を犯していたことなど、他国の事例を利用して自国を鏡に映すことだ。そうやって声のトーンを抑えていなければならなかった。

当時、テレビ報道が検閲の対象であることはメキシコでは公然の秘密だった。私は新聞社に移った。これにより自由を得たが、それでも不可能なことは多かった。

1994年の選挙が近づいたころ、私は独立しているはずの新聞社で特別な任務を与えられた。後に長期与党から立候補する政治家を朝から晩まで追いかける任務だ。真の意味での報道はほとんどできず、上司への報告書ばかり書いていた。ジャーナリズムに抱いていたイメージとはかけ離れた仕事で、私は病気になった。

私が任務を降りた数週間後、この大統領候補に対する暗殺未遂事件が起きた。

事件はメキシコ政治を揺るがし、メキシコにおける組織犯罪の支配の始まりとなった。政治とメディアの間で権力の再配分が行われた。検閲を実施するのは国家ではなく、メディア企業のオーナーとなり、報道の可否は彼らの利益や政治的嗜好次第だった。

私がメキシコを離れてから30年が経つが、メキシコでの報道はさらに自由度が下がっている。組織犯罪の横行により、気に入らない記事を書いた記者は殺害され、それに対する処罰はない。2023年、メキシコでは4人のジャーナリストが殺害された。2024年はジャーナリストに対する暴力がさらに増えるだろう。選挙イヤーだからだ。

中国を締め出された外国人特派員たち

中国語編集部

世界第2位の経済大国であり、14億人の人口を抱える中国は、外国人特派員にとって魅力的な赴任先だ。揉め事が少なく生活費が高いスイスは、ジャーナリストにとってはそれほど面白くない。

中国出身のジャーナリストとして、私はスイスの役人がどれほど親切で、外国人ジャーナリストのどんな質問にも答え視野を広げてくれるかに驚かされることがある。スイス連邦・州政府機関、学術研究機関、大学、多国籍企業などは、スイスを拠点とする外国人記者たちに大抵は広範な情報を提供してくれる。

中国の状況は悪くなるばかりだ。地政学的な緊張の中で、中国をはじめいくつかの国では外国人記者が敵視されている。報道の正当性を否定したり、居住権の剥奪をちらつかせたり、敵国の代弁者、国家安全保障への脅威、フェイクニュースの拡散者として非難したりする。中国は特派員たちの報道を妨害しようと「ビザ脅迫」カードを切っている。

中国は新型コロナ禍において外国人ジャーナリストやその所属媒体に対する制限や批判、妨害行為を強めた。

中国の「ゼロコロナ」政策への反対デモを報じた時、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)をはじめ多くの外国人特派員が逮捕された。英BBCの記者は殴られたり蹴られたりと暴力さえふるわれた。多くの外国特派員が中国を離れ、シンガポールや台湾の首都・台北から中国について報じることを余儀なくされた。

対照的に、スイスを拠点とする特派員たちは1960年代からずっと良好な環境にある。外国人特派員の職業上の独立性はほとんどの場合、尊重されている。情報に対する権利、批判する権利、批判的な第三者の目としての役割も重んじられている。

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中国から締め出される外国メディア 出ても残ってもいばらの道

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スイスでも情報入手は代償を伴う

マリー・モーリス&フランソワ・ピレ、ゴッサムシティ(swissinfo.chの提携メディア)

調査報道メディア「ゴッサムシティ」のマリー・モーリス氏(左)とフランソワ・ピレ氏
調査報道メディア「ゴッサムシティ」のマリー・モーリス氏(左)とフランソワ・ピレ氏 KEYSTONE/DOMINIC STEINMANN

幸いなことに、スイスでは私たちジャーナリストは拳や銃で脅されることはないが、訴訟リスクは存在する。2017年にゴッサムシティが発足して以来、約10件の訴訟を起こされた。ほとんどは民法第28条の守る「人格」を侵害されたとの訴えだ。

つまり原告はゴッサムシティを名誉毀損で訴えているわけではない。ゴッサムシティは組織として、公開された法的文書またはジャーナリストとして私たちがアクセスできる文書に依拠している。情報の入手は骨の折れる作業だ。

だがゴッサムシティの記事に登場する人物は名前を明かさず、匿名を望む。公共の利益になるような著名人ではないため、氏名公表は必要ではないと主張する。これは毎回、司法判断が必要になる問題だ。

例えば現在、数千万フランの脱税容疑でスイス税務当局に告発された元銀行員は、自分に関する記事の公開を差し止めようとしている。ゴッサムシティは、記事公開が公共の利益にかなうと確信している。この訴訟については間もなく判決が下される予定だ。

ゴッサムシティのような独立系メディアにとって、この情報争奪戦には年間数千フランの代償を伴う。裁判費用と弁護士費用にかかる金額だ。約2年前、我々の訴訟費用を支援する団体Batfund.chが資金集めに乗り出した。このような差し止め訴訟に苦しんでいるのはスイスだけではない。アムネスティ・インターナショナルなど複数のNGOがこれを非難する。だが議会の政治的多数派には、改善策を講じる気がない。

編集:Benjamin von Wyl & Samuel Jaberg、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子

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担当: Patricia Islas

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