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新型コロナからウクライナ情勢まで、WHO総会の課題は山積み

世界保健機関(WHO)の最高意思決定機関である年次総会が、22日から28日までジュネーブの国連欧州本部パレ・デ・ナシオンで開催される
© WHO / Laurent Cipriani

世界保健機関(WHO)の第75回年次総会が、22日からジュネーブで始まる。終息に至らない新型コロナウイルス感染症への対応や将来のパンデミック(世界的大流行)に焦点を当てつつ、財政改革、国際保健規則の改正、ウクライナ戦争の影響など、数多くの課題が議論される。

WHOの意思決定機関である年次総会は、「平和のための健康、健康のための平和」をテーマに、28日までジュネーブの国連欧州本部のパレ・デ・ナシオンで開催される。3年ぶりに対面で行われる。

今年の議題

今回の総会では、WHOの194加盟国が、将来のパンデミックに対する保健規制、財政的貢献、ウクライナ情勢など、WHOが直面する課題について協議する予定。議題は多岐にわたり、非感染性疾患からWHO職員による性的搾取、WHOの活動における平和構築、ポリオ撲滅、医療人材の強化に至るまで73項目が検討される。

「これほどの規模のパンデミックに完全に備えていた国はなかった」。年次総会に先立つ記者会見で、WHO事務局長特別顧問のピーター・シンガー氏はこう述べた。WHOの公衆衛生上の緊急事態への備えと対応は、総会の主要な優先事項の一つ。前例のない規模のコロナ感染は5億2千万人の感染者をもたらし、WHOの記録外部リンクでは死者数は600万人に達した。

WHOの新たなデータ外部リンクによると、コロナウイルスの間接的な影響を含めると、死者数はコロナに感染して亡くなった人の3倍に上る可能性があると推定される。2020〜2021年の超過死者数は推定1490万人。医療システムがひっ迫して他の病気の治療が受けられないことなどによる死亡とみられる。

パンデミックの備えと対応を検証する独立パネル(IPPPR)の元共同議長であるエレン・ジョンソン・サーリーフ氏は18日、「現在と将来のパンデミックの脅威からすべての人を守るため、称賛に値する取り組みが行われている一方で、これらは依然として遅く、断片的で、官僚的プロセスにフォーカスし過ぎ、結実には不十分だ」と警告した。同パネルは昨年5月、将来の脅威に備えるため多くの改革を提案したが、それらは十分に実施されていない。最新報告書外部リンクは、「新型コロナウイルスへの対応は不十分で、不公平で、今や注意は低まっている」と指摘した。

WHOは、「すべての人が安全になるまで、誰もコロナウイルスから安全ではない」と主張するが、高所得国では人口の80%がワクチンを1回接種しているのに対し、低所得国ではわずか16%しか予防接種を受けていない。NGO「国境なき医師団」のシニアワクチン政策アドバイザー、ケイト・エルダー氏はswissinfo.chに対し、「パンデミック対応のための医療技術革新への世界的アプローチという点で、ここから非常に重要な教訓を得ることができた。2022年半ばまでに世界の70%の人にワクチンを接種するという当初の目標は達成できなかった」と語った。

障壁となる課題

総会で議論される最重要課題の一つは国際保健規則だ。法的拘束力のあるこの規則の修正案が、米国から提案外部リンクされている。その案には、国際的な公衆衛生上のリスクがある場合、迅速な情報共有を加盟国に求める内容が盛り込まれている。

米国のトランプ政権は、中国の武漢で最初の新型コロナウイルスの感染者が発見されたとき、中国の情報共有が遅すぎると非難した。しかし、議論がどこまで進むか、改定案が採用されるかどうかは不明だ。

その他の議題

財政的自立

スイスのアラン・ベルセ保健相は昨年の総会で「大きな問題の一つは資金だ。深刻な事態が発生しなければ、WHOが持続的に依存できる固定拠出金は約20%に過ぎない。残りの80%は任意拠出だ」と述べた。

WHOの財源は、米国、英国、ドイツなどの政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団やGaviなどの民間のドナーからの任意拠出金に大きく依存している。だが民間資金は、ポリオ撲滅のような特定のプログラムに割り当てられることが多い。WHOの一般予算は慢性的な資金不足に陥っており、ベルセ氏はその額がジュネーブ州立大学病院の年間予算に匹敵するものであると指摘した。

WHOの予算の50%まで加盟国の分担金を増やすという基本合意外部リンクが、WHAで承認される可能性が高い。その場合、この合意はWHOの財政的な独立性を高めるのに役立つ。

ウクライナの状況

ウクライナ戦争による同国の保健システム、地域、そして国外に及ぼす影響も取り扱われる。WHOの監視システム外部リンクは、ウクライナの医療機関への攻撃236件、死者75人、負傷者59人を記録している(5月20日の時点)。西側諸国には、ロシアをWHOから排除することで制裁を加えたいと考える国もある。

WHOの欧州地域事務局は10日、特別会合を開き、「ロシアの侵略に起因するウクライナと近隣諸国の健康上の緊急事態」と題する決議を採択した。

同案は、WHOの非伝染性疾患の欧州事務所をロシア国外に移転できるようにすることや、ロシアで開催されるすべてのWHO地域会議を中止することを提案している。WHO事務局長に対し、総会でウクライナの保健状況について報告するよう要請している。この報告書は、25日に取り上げられる予定だ。

性的虐待とハラスメント

2018年から2020年にかけコンゴ民主共和国でのエボラ出血熱流行の対応にあたっていたWHO職員による性的虐待に関する報告書と、性的搾取を防ぐための管理計画が総会で加盟国に提示される。

エボラ出血熱への活動に取り組む中、83人の援助者が性的虐待を行い、そのうち21人がWHO職員だった。2021年9月に発表された独立委員会の調査報告書は、WHOが適切な予防措置をとっていなかったと結論付けた。WHOは、性的搾取や虐待、セクシャルハラスメントに対して、「ゼロ・トレランス(不寛容)」の方針を表明している。

事務局長選挙

WHOの次期トップも総会で決定される。元エチオピア保健・外相のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス現事務局長は、フランスやドイツから指名された。候補者はテドロス氏のみなため、5年の任期で再任するのはほぼ確実だ。

専門家の批判的見通し

IPPPRの元共同議長らは、今年の総会でのすべての議論は、実現するまでに時間がかかる可能性があると警告する。国際保健規則の改正は、発効まで2年を要する。WHO予算の50%を賄うための分担金の増額案が、完全に有効になるには2030年までかかる。

「パンデミック条約」のような、よりグローバルな調整を必要とする新しい法的枠組みについての議論も行われるだろう。しかし、決定は期待されていない。すべてのパンデミック改革の問題を新しい法的拘束力のある条約に盛り込む努力は、たとえ成功したとしても、何年もかかる可能性がある。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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