AIチャットボットは買い物の味方か 問われる信頼性
人工知能(AI)チャットボットは買い物の情報収集や商品選択を支える存在として急速に普及し、消費者の意思決定に大きな影響を与えている。一方で、広告の導入や情報操作への懸念も広がり、企業戦略や法制度のあり方も変化しつつある。消費者はチャットボットの回答をどこまで信頼すべきなのか。
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かつてホテルや保険、新しいスマートフォンを選ぶ際には、Googleの検索結果をいくつも比較するのが一般的だった。しかし今はスイスを含む世界各国で、米生成AI大手OpenAIのChatGPTをはじめとしたチャットボットを使う人が増えている。最新の研究によると、AIチャットボットはGoogleなどの検索エンジンに比べ、消費者の商品選択に約3倍の影響を与える。
AIは単なる情報検索ツールではない。複数の選択肢を分析し、レビューを要約したうえで、個人に合わせた提案を行う。
ザンクトガレン大学のマーケティング研究者、フェリックス・シャコルス氏は「AIモデルによって多くの時間を節約でき、物事も単純になる」と説明する。その最たる例が保険プランだ。スイスは1人あたりの保険料が世界で最も高い水準にあり、保険選びは多くの家庭にとって特に重要な課題となっている。
しかし保険は契約内容が複雑で、免責金額や補償範囲を比較するには時間と専門知識が必要だ。「生成AIモデルは、こうした比較に非常に役立つ。意思決定にかかる時間を減らし、考える負担も軽減する」と同氏は指摘する。
その一方で、利用者はチャットボットを中立的な助言者と受け止め、商品選択の際にその提案に依存する傾向にある。時には、個人情報まで共有するケースもある。研究者や消費者擁護団体は、AIアシスタントの影響力が増すことで、消費者の判断が不当に左右される可能性があると指摘する。また、情報の透明性や信頼性に加え、利用者に届く情報を誰が管理しているのかにも懸念を示す。
AI企業が自社サービスへの広告導入を進めるなか、利用者がチャットボットをどこまで信用すべきかという問題は、ますます重要になっている。OpenAIは2026年初め、アメリカなどの国々で試験的にChatGPTへの広告表示を開始した外部リンク。今後は他の市場にも段階的に拡大する見通しで、専門家はヨーロッパやスイスにも近く波及するとみている。
信頼性を巡る懸念
チャットボットの信頼性を巡る懸念は、広告だけにとどまらない。消費者団体は、企業や利益団体、さらには国家までもが、チャットボットの回答に利用される情報源へ介入する可能性があると警鐘を鳴らす。こうした現象は、「AIポイズニング」と呼ばれる。その一例が、Redditなど、AIシステムが回答生成の際に参照する可能性のあるプラットフォームに偽のレビューを投稿することだ。
スイスの消費者保護基金(SKS)が実施したテストでは、ChatGPTとClaudeに「どちらのノートパソコンを買うべきですか。根拠を明確にしておすすめしてください」と質問したところ、両者は結論に至った経緯を十分に示さないまま、まったく異なる回答を返した。実在しない商品を勧めたり、誤った技術情報を提示したりするケースも確認された。
同基金の法務担当ルシアン・ユッカー氏は「消費者は、AIが完全で中立かつ正確な回答を返すと考えるべきではない。チャットボットの回答を常に批判的に検証し、質問の仕方を変えながら回答を比較することが重要だ」と指摘する。
検索エンジンを上回る影響力
一方、多くの利用者は、チャットボットの助言が操作されている可能性を疑いもしない。
米プリンストン大学が2000人以上のアメリカ人を対象に実施した最近の研究外部リンクによると、ChatGPT、Claude、DeepSeek、Geminiといった主要なチャットボットは、従来の検索エンジンの約3倍、利用者をスポンサー付きの商品へと誘導する効果が高かった。さらに多くの利用者は、自らが誘導されていることに気付かなかった。
この調査を主導した研究者の1人、フランチェスコ・サルヴィ氏は「我々がチャットボットに特定の商品を勧めるよう指示していたと気付いた被験者は、5人に1人もいなかった」と説明する。広告であることを明示した場合でも、スポンサー付きの商品を選ぶ割合は、従来型広告の約2倍に上ったという。こうした結果は、AIモデルを提供する企業がサービスの収益化を進める際、大きな影響力を持つことを示している。同氏は、AIシステムが利用者にとって最適な商品を勧めるとは限らず、プラットフォームや広告主の利益を優先する可能性があると警鐘を鳴らす。
広告導入で高まるChatGPTの影響力
OpenAIは、ChatGPTの広告は回答の質に影響せず、広告であることを明示したうえで、通常の回答と区別して表示すると説明している外部リンク。一方で、広告は利用者との会話や入力内容に基づいて表示される。例えば、新居のインテリアについて質問すると、その後ソファの広告が表示される可能性がある。
サルヴィ氏は「広告と通常の回答が構造的に区別されず、外部の監査機関もモデルを検証できないのであれば、そのチャットボットに利用者の意思決定を誘導する意図がないと信じるのは難しい」と指摘する。ChatGPTの月間アクティブユーザー数は10億人外部リンクに達し、単なるアシスタントから、膨大な数の利用者に影響を及ぼす商業プラットフォームへと変化しつつある。OpenAIは現在、買い物や予約といった行動を促すことを目的とした新たな広告フォーマット外部リンクの開発も進めている。
AI時代のマーケティング
商品選択にAIを利用する人が増えるなか、チャットボットの回答に影響を与えることが、新たなマーケティング戦略になりつつある。米PR会社Publicity For Goodの共同創業者ヘザー・ホームズ氏は「あなたのブランドが回答でおすすめされなければ、存在しないのと同じだ」と指摘する。
同氏によると、AIが引用する情報の多くは、いわゆる「アーンドメディア」に由来する。これは、広告料と引き換えに商品を紹介するのではなく、価値があると判断した商品のみをレビューする、信頼性の高いメディアだ。
このほか、第三者のウェブサイトからのリンクや、Redditなどのプラットフォームに投稿された好意的なレビュー、AIが読み取りやすいよう最適化されたウェブサイトもAIの情報源となる。
近年は、Googleでの表示順位を高めるために長年用いられてきた検索エンジン最適化(SEO)に代わり、生成エンジン最適化(GEO)が注目を集めている。GEOは、AIシステムが企業の商品を引用・推奨する可能性を高めることを目的とした新たな手法だ。
ザンクトガレン大学のシャコルス氏によると、多くのスイス企業がチャットボットに自社を取り上げてもらう方法を模索している一方、本格的な戦略を構築している企業はまだ少ない。「ほとんどのスイス企業は、この分野でようやく第一歩を踏み出したところだ」
同氏が2025年に実施した調査外部リンクでは、回答したスイス企業のマーケティング責任者のうち、生成AIを日常的に活用している人は12%にとどまった。一方で、信頼性の高いレビューの獲得など、GEO戦略への関心は着実に高まっている。
市場調査会社Market Inteloの報告書外部リンクによると、アメリカに加え、ドイツ、イギリス、フランスなどヨーロッパの主要市場では、企業がGEO関連のサービスやツールへの投資を積極的に進めている。
スイスで法整備を求める動き
消費者団体は、生成AIの普及が進むなか、現行法で消費者を十分に保護できるのか疑問を呈している。チャットボットは、商品やサービスについて誤った説明を生成する可能性があり、それを信じた消費者が不適切な判断を下す恐れがあるためだ。
SKSのユッカー氏は「チャットボットが不正確な回答を生成し、その結果として消費者が損害を被った場合でも、現行法上、AI企業は原則として責任を負わない」と指摘する。
欧州連合(EU)はAIなどの新技術に対応するため、製造物責任法を改正してきた。一方スイスでは、現行法がソフトウェアを基盤とするシステムにも全面的に適用されるのか、依然として明確ではない。これを受け、最近、現行法をEUの法制度に近づけるよう求める動議が提出された。動議には、AIソフトウェアを適用対象に明記することなどが盛り込まれている。
ただし、法規制が強化された場合でも、消費者が負う責任は引き続き大きいと同氏は指摘する。「法制度の見直しは重要な前進となるだろう。しかし、チャットボットが買うように勧めた商品を、消費者が無批判に信じないことも重要だ」
編集:Gabe Bullard/VdV/amva、英語からの翻訳:本田未喜、校正:宇田薫
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