中立・食料イニシアチブ、大差で否決 スイス国民投票
27日のスイス国民投票で、中立をより厳格に解釈し連邦憲法に明記する「中立イニシアチブ(国民発議)」が反対70.2%で否決された。食料の国内生産拡大を目指す「食料イニシアチブ」も反対72.5%で否決された。
「スイスの中立の維持(通称:中立イニシアチブ)」は、中立をより厳格に解釈し、ロシアのような国に制裁を科す連邦政府の権限を狭めることを目的としていた。投票率は47%で、26州すべてで反対票が上回った。
世論調査機関gfs.bernの共同代表ルーカス・ゴルダー氏は、独語圏スイス公共放送(SRF)に対し、有権者はスイスの中立そのものを否定したのではなく、より「柔軟な」中立を選んだと語った。中立政策を憲法で恒久的に定めるのではなく、連邦政府・議会が状況に応じて対応できる「裁量の余地」を残すべきだと、有権者の多くが考えていると分析した。
中立イニシアチブは、主権重視を掲げる団体「プロ・スイス(Pro Schweiz)」が立ち上げた。2022年のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、スイス国内で続いてきた中立政策をめぐる議論―とりわけスイス政府が欧州連合(EU)の対ロシア制裁に足並みを揃えたことへの議論―が争点となった。
イニシアチブ発起人は、こうした対応はスイスの伝統的な中立国としての立場を弱め、スイスの国益にも国際平和にも資するものではないと主張。今後、国連安全保障理事会が決定した制裁でない限り、戦争当事国に対する「非軍事的強制措置(制裁措置)」を禁ずるよう求めていた。また、憲法に「永世武装中立」を明記することで、差し迫った戦争の場合を除き、北大西洋条約機構(NATO)など軍事同盟との協力関係も制限される内容だった。
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中道派の中央党所属のマリアンヌ・ビンダー・ケラー全州議会(上院)議員は27日、SRFに対し、中立イニシアチブは安全保障上の新たな課題に直面しているスイスを「完全に孤立させる」ものだったと指摘。スイスは今回の否決で、国際法が破られた場合、「欧米のルールに基づく安全保障体制の一員として、他国と協力し、制裁にも加わる」ことを国際社会に示すことができると述べた。こうした姿勢は、スイスの安全保障にもつながるとしている。
一方、イニシアチブを立ち上げた「プロ・スイス」のシュテファン・リエティカー代表は、問題は「協力」がどこまでを意味するのかだと主張した。「NATOの軍事構造への統合を意味するのか、それとも攻撃を受ける可能性に備えることを意味するのか」と、SRFに語った。
リエティカー氏は、中立イニシアチブは後者の対応を可能にする内容だったと主張したが、その点を有権者に十分伝えることはできなかった。
中立イニシアチブは苦戦
中立イニシアチブには、元閣僚で実業家のクリストフ・ブロッハー氏らから多額の資金が投入されたが、選挙戦の序盤から苦戦が続いていた。
左派の平和主義者の一部から支持を得たものの、主要政党では保守右派の国民党(SVP/UDC)のみが支持していた。
その他の政党や政府はイニシアチブに反対し、ハーグ条約に基づく中立を維持しながら、地政学的な変化に柔軟に対応する中立政策を支持していた。政府は、スイスが近年、中立政策を転換したとの見方も否定していた。
イグナツィオ・カシス外相は選挙戦で、「スイスは中立だった。今も中立であり、これからも中立であり続ける」と繰り返し訴えた。
イニシアチブ賛成派は、ハトを使ったイメージや「平和にチャンスを」といったスローガンも掲げ、制裁を科すよりも、外交的な仲介を通じてスイスはより大きな役割を果たせると主張した。
これに対し反対派は、イニシアチブは「ロシア寄り」で、中立を厳格に解釈しすぎると、侵略する国を利することになりかねないと指摘。ロシア政府がイニシアチブへの支持を表明したことも、こうした批判につながった。
しかし、今回の否決で、スイスの中立をめぐる議論が終わるわけではない。スイスは今後も紛争や軍事同盟から距離を置く一方、再軍備を進める欧州の中でどのような立場を取るのか、NATOや周辺国とどこまで協力するのかという課題に直面する。 11月には、武器輸出規制の緩和をめぐる国民投票も予定されている。
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食料イニシアチブも大差で否決
世論調査で予想されていた通り、スイスの食料自給率向上を目指す「安全な食料のために(通称:食料イニシアチブ)」も大差で否決された。反対票は72.5%に上り、すべての州で反対が賛成を上回った。ただ、都市部では農村部に比べて反対が少なかった。
前出のゴルダー氏は、食料イニシアチブは、短期間に多くのことを実現しようとしすぎたと分析した。一方、イニシアチブを主導した環境活動家のフランツィスカ・ヘレン氏はSRFに対し、「私たちは何も間違ったことをしていない」と述べた。政界全体がイニシアチブに反対したことは、少なくとも「非現実的」だったと振り返った。ヘレン氏は、今回の結果にかかわらず、気候変動に伴う水資源や農業をめぐる問題は依然として残ったままだと警告した。
反対派で中道右派・急進民主党のペトラ・ゲッシ氏は、「何を食べるかを自分で選ぶ自由を奪われたくないというのが、有権者の意思だった」と述べた。ゲッシ氏は、スイスの農業政策は引き続き重要な課題だが、市場もその形成に関わっており、肉類を否定することは現実的な選択肢ではないと話した。
スイス農民組合(SBV)のアンヌ・シャランデール副会長は、「これは農家を支持する意思表示だ」と否決を歓迎した。
反対派は163万フラン(約3億円)を投じ、肉・乳製品業界の団体やスイス農民組合などが、72万フラン(1億4千万円)の予算で活動する賛成派に対抗した。
反対派はイニシアチブを「ビーガンの押し付け」と位置付け、何を食べるべきかを国民に押し付けるものだと訴えた。ただ、イニシアチブの文面には特定の食生活を義務付けたり、肉類や動物性食品の生産を制限したりする内容は含まれていなかった。
イニシアチブを支持した政党は左派・緑の党(GPS/Les Verts)青年部だけで、グリーンピースやWWFなどの主要環境団体も支持に回らなかった。
今回の結果は、スイスの政界において農業団体が依然として大きな影響力を持つことを示している。特に、左派や緑の党から十分な支持を得られなかったことも理由の1つとなった。
スイスの農業をより持続可能なものにしようとするこれまでの試みと同様、食料イニシアチブも有権者の支持を得るのは容易ではなかった。
最大の問題は、合成農薬禁止イニシアチブや飲料水イニシアチブ(2021年)、生物多様性イニシアチブ(2024年)と同じく、「目的は理解できても、実現しようとする内容が大きすぎる」という点にあった。
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編集:Reto Gysi von Wartburg、英語からの翻訳:大野瑠衣子
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