スイスの人権NGOシビタス・マキシマ代表アラン・ヴェルナー氏、不処罰との闘いに捧げる人生
国際司法が揺らぐなか、戦争犯罪の不処罰と闘い続ける弁護士がいる。ジュネーブのNGOシビタス・マキシマを率いるアラン・ヴェルナー氏の約25年の歩みを追った。
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戦争犯罪の証拠を集め、加害者を法廷に立たせる仕事に携わるきっかけとは何だったのか。戦争犯罪者を追跡するジュネーブ拠点の人権NGOシビタス・マキシマ代表、アラン・ヴェルナー氏は、この仕事に就いたのは、ほとんど偶然だったという。
同氏は「法律の道を選んだと言っても、どこまで自分の意思だったのか、正直よく分かりません」と慎重に言葉を選びながら語る。国際仲裁を専門とする父、刑務所付き聖職者の母、裁判官だった祖父。正義への思いに引き寄せられるのは、ほとんど必然だった。
「結局、父を喜ばせるくらいには法律に携わり、母を喜ばせるくらいには人間味のある仕事に就きました」。そう笑うヴェルナー氏は、自らを「いい子」と形容することをためらわない。
「ただ、私が本当に幸運だったのは、1993年にジュネーブ大学で法律の勉強を始めたことです。ちょうどこの分野が復活を遂げた時期と重なりました」。間もなく54歳になる同氏は、当時を振り返ると、今も目に輝きが宿る。
急速に発展した国際司法
ヴェルナー氏が法律の勉強を始めたのと同じ年、旧ユーゴスラビア国際刑事法廷(ICTY)が設立された。翌年にはルワンダ国際刑事法廷(ICTR)が続いた。
「ニュルンベルク裁判の終結からベルリンの壁崩壊まで、およそ50年間、ほぼ凍結状態にあった国際司法が、当時、一気に発展したのです」
法学部では、後にレバノン特別法廷の裁判官となるロベルト・ロート教授のゼミに参加した。弁護士資格を取得すると、ジュネーブを離れ、ニューヨークの名門コロンビア大学に留学する。そこで、将来自らが携わる分野のもう1人の大物と出会った。国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチに所属し、「独裁者ハンター」の異名を持つ米国人弁護士リード・ブロディ氏だ。
「私にとってはスターでした。一緒に仕事をしたくて、講義室から彼に目配せを送っていましたが、ほとんど相手にしてもらえませんでした。彼にはすでにチームがありました」とヴェルナー氏は冗談交じりに話す。当時は、後にチャドの元独裁者イッセン・ハブレ氏の裁判で、数年にわたってブロディ氏と協力することになるとは想像もしていなかった。
ヴェルナー氏は話を進めるなかで、尊敬する友人や同僚、訪れた場所、歴史的な出来事などを次々と挙げ、法律上の細かな情報も交えて語る。その勢いは目が回るほどだ。話の途中で謝り、立ち止まり、少し前に戻ったかと思うと、また先へ飛ぶ。椅子に座ったまま全身を動かして話す姿からは、思考の動きまで伝わってくる。
2003年、ヴェルナー氏はニューヨークでの学業を終えた。ハーグに国際刑事裁判所(ICC)が設立されてから1年後のことだ。「国際司法の進歩がこのペースで続けば、20年後には勝利を手にしているだろう。不処罰が当たり前ではなく、例外になるはずだ、と考えたのを覚えています」とヴェルナー氏は確信を込めて語る。
チャールズ・テイラー元リベリア大統領の裁判
スイスに戻ったヴェルナー氏は、一刻も早く海外に出たいと考えていた。2003年、スイス政府は同氏をシエラレオネの首都フリータウンにある特別法廷へ専門家として派遣した。同国は血なまぐさい内戦を終えたばかりだった。ヴェルナー氏はそこで3年間を過ごすことになる。
「信じられないほど幸運でした」。謙虚なヴェルナー氏は、インタビューの間、何度も自分の幸運を口にする。その言葉を聞いていると、同氏が国際司法の限られた世界で地位を築くために、どれほどの仕事を積み重ねてきたのかを忘れそうになる。
2006年、ある出来事がヴェルナー氏の歩みを大きく変えた。リベリアのチャールズ・テイラー元大統領がナイジェリアで逮捕され、フリータウンに移送されたのだ。テイラー被告は隣国リベリアから、シエラレオネで想像を絶する残虐行為を繰り返した反政府組織、革命統一戦線(RUF)を支援したとして訴追された。同被告は、ニュルンベルク裁判以来、国際法廷で有罪判決を受けた初の元国家元首となる。
「そんなことが実現するとは、誰も考えていませんでした」とヴェルナー氏は振り返る。当時、同氏は検察局内でも、RUFが犯した犯罪について詳しく知る数少ない弁護士の1人だった。テイラー元大統領と一連の残虐行為との関連を立証するため、引き続き協力するよう依頼された。その後、失脚した元大統領から指示を受けていた、悔い改めた元戦闘員を探すため、西アフリカ各地を何カ月も巡った。「2008年は丸1年、ハーグでの公判に費やしました。証人は約100人で、そのうち30人ほどは内部事情を知る関係者でした。とてつもない経験でした」
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被害者に寄り添う
2009年、友人である英国人弁護士カリム・カーン氏から、カンボジアのプノンペンで一緒に働かないかと誘われた。カーン氏は2021年にICCの主任検察官に就任し、2026年にその職を解かれることになる人物だ。2人は、クメール・ルージュの幹部が初めて裁かれる裁判で、約30人の被害者を共同で代理することになった。無報酬の仕事だったが、ヴェルナー氏は迷わず引き受けた。
「被害者ともっと直接的に関わる役割を担いたいと願っていました」と同氏は語る。テイラー元大統領の裁判では、被害者は証言しかできなかった。一方、クメール・ルージュの裁判では、被害者が民事当事者として訴訟に参加することが認められていた。ヴェルナー氏が代理したのは、収容施設「S21」で拷問を受け、処刑された人々の遺族らだった。同施設では1975年から1979年にかけて、1万2000人から2万人が犠牲になったとされる。
被害者たちの苦しみが30年を経てもなお生々しく、正義を求める思いも同じように切実であると気づいたとき、「強い衝撃を受けた」と話すヴェルナー氏の声はかすれた。「この経験が、私の被害者への忠誠心を固めたのかもしれません」。同氏は再び、言葉を慎重に選びながら話す。
加害者を弁護しないと決めている一方で、ヴェルナー氏は、自分に貼られる「英雄」というレッテルには警戒している。
「私は、被告側の弁護士たちに常に大きな敬意と称賛を抱いてきました」と強調する。被告側の弁護士は「はるかに難しい仕事」をしており、一般の人々から評価されることも、彼らの仕事のほうが少ないと同氏は理解している。
圧力にさらされる国際司法
2012年にシビタス・マキシマを設立したヴェルナー氏は、自分にできる範囲で、より公平な国際司法の実現に貢献したいと考えた。政治的な理由で一部の指導者が処罰を免れる「死角」をなくすことが、その狙いだった。しかし、今ではその目標は「完全に時流に逆行している」と認める。
ヴェルナー氏は、ICCが受けている圧力を苦々しい思いで見つめている。ICCは、イスラエルの首相を含む指導者に逮捕状を発付したことを理由に、ドナルド・トランプ米政権の標的となっている。すでにICCの一部幹部には制裁が科されている。米政府は今後、制裁対象をさらに拡大すると脅し、ICCを「れんがを1つずつ外すように」解体すると宣言した。各国にもICCからの脱退を迫っている。
「ここまで壊滅的な状況になるとは、夢にも思いませんでした」とヴェルナー氏はため息をつく。ただし、ICCに対する政治的な攻撃を批判する一方で、同氏は同機関の実績にも厳しい目を向ける。年間予算は約2億ユーロ(約353億円)に上る。「ICCは約25年間で20億ユーロ(約3532億円)以上を投じたのに、有罪判決は10件です。その大半は反政府武装勢力に関するもので、被告は全員アフリカ人でした」とヴェルナー氏は嘆く。
ヴェルナー氏は、今後は「各国が国内で闘わなければならない」と確信している。そのためには、戦争犯罪を専門に扱う捜査部門を強化するとともに、「普遍的管轄権」を活用する必要がある。普遍的管轄権とは、戦争犯罪や人道に対する罪などの重大犯罪については、犯罪が国外で行われた場合でも、各国が加害者を訴追できるという原則だ。
不処罰との闘い
ヴェルナー氏が代表を14年間務めるシビタス・マキシマの年間予算は、現在250万フラン(約4億7379万円)に達している。同団体はこれまでに、いくつもの成果を挙げてきた。約20人からなるチームが日々、丹念に証拠を収集する作業が、内戦に関与した複数の人物を法廷に立たせることに貢献した。
その1人が、リベリアの反政府組織幹部アリュー・コシア被告だ。コシア被告は2021年、ティチーノ州ベリンツォーナにあるスイス連邦刑事裁判所で戦争犯罪により有罪判決を受けた。軍事法廷以外のスイスの司法機関で、この種の裁判が行われたのは初めてだった。2023年の控訴審では、人道に対する罪でも有罪判決を受けた。これもスイス初の事例となった。このほか、フランスと米国で計4件の刑事有罪判決があり、「逮捕または逮捕状の発付も10数件に上ります」とヴェルナー氏は説明する。これまでの歩みを振り返ると、誇らしさを隠しきれない様子だ。世界各地でさらに複数の事件が進行中だと、いたずらっぽい笑みを浮かべて明かした。ただ、現時点ではいずれも非公開だという。
国際法廷の後退と、不処罰を容認する風潮の高まりに直面しても、2人の幼い娘を持つヴェルナー氏は悲観論に屈しない。「状況がひどくなればなるほど、私たちは抵抗する姿勢を貫かなければなりません」と同氏は強調する。「問われているのは、私たちの子どもたち、そして将来の世代にとって、これほど重大で、私たち全員に関わる犯罪は必ず処罰されなければならない、という考え方が今後も存在し続けるかどうかです」
編集:Pauline Turuban、仏語からの翻訳:横田巴都未、校正:宇田薫
この人物ルポは、今日の「国際都市ジュネーブ」を形作る潮流を体現する人々に焦点を当てたシリーズ全4回の第2弾です。第1話はこちら。
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