「中立イニシアチブ」でスイスはどう変わる? 厳格化をめぐり国民投票
スイスでは27日、スイスの中立をより厳格に解釈することを連邦憲法に明記する「中立イニシアチブ(国民発議)」の是非が国民投票で問われる。右派保守政党が主導するイニシアチブだが、反対派は、地政学的危機の際にスイスの首を絞めると批判する。
ロシアによるウクライナ侵攻は、スイスの中立性をめぐる議論を再燃させた。27日の国民投票では、スイスが中立性を今後、どこまで厳しく守るべきかが問われる。
中立イニシアチブってそもそもどんな内容?
保守右派・国民党(SVP/UDC)が主導するイニシアチブ「スイスの中立の維持(通称:中立イニシアチブ)外部リンク」の重要なポイントは以下の2点だ。
▽連邦憲法に「永世武装中立」を明記する。具体的には、外交について定めた第54条を改正し「スイスの中立は永世・武装である」「スイスが直接軍事攻撃を受けない限り、いかなる軍事同盟、防衛同盟にも参加できない」と規定する
▽戦争当時国に対し「非軍事的強制措置(制裁措置)」を課すことを禁じる
スイスの中立は、1848年公布の連邦憲法に明記されている。「連邦政府と連邦議会が中立について責任を負う」と定め、スイスはこれを基盤として何十年にもわたり、地政学的状況に応じて中立政策を柔軟に調整してきた。今回の中立イニシアチブは、その柔軟性を制限する内容だ。
イニシアチブが求める最も大きな変更点は、「非軍事的な強制措置(制裁措置)」の禁止だ。今後、国連が安全保障理事会で決定した制裁でない限り、戦争当事国に対してスイスが独自に制裁を課すことを禁じる。
また、スイスの軍事同盟加盟を明確に禁止する。とはいえ、これはすでに国際法(中立法)の下でも明確に規定されている。2023年のスウェーデンやフィンランドのように、北大西洋条約機構(NATO)のような組織に加盟するには、スイスは中立国の地位を放棄しなければならない。スイスでは、こうした重大な決定には国民投票が義務付けられている。イニシアチブが可決されれば、国民投票にかけるまでもなく加盟できなくなる。
つまり、スイスがこうした軍事同盟と協力できるのは戦時に限られることになる。そのため、1996年から参加しているNATO主導の安全保障協力のための枠組み「平和のためのパートナーシップ(PfP)」をはじめ、NATOとの協力関係も縮小しなければならなくなる。
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スイスの中立政策の現状
スイスの中立は、連邦政府による政治的な決定に基づくものであり、国際法上も認められている。スイスで1910年に発効したハーグ条約によって法的に確立された。
ハーグ条約は国際法の一部で、2国間で武力紛争が起きた場合の中立国の権利と義務を定めている。中立国は戦争に関与してはならず、戦争当事国のいずれにも軍事的な支援を与えることはできない。
その一方で、中立国が政治的立場を表明したり、経済制裁を行ったりすることを禁じてはいない。スイスで現在繰り広げられている議論の大きな焦点も、まさにこの点にある。
また、中立国は自国領土の不可侵性を確保し、自らの中立を守る能力を備えなければならない。そのため、武器の調達や訓練など、軍事分野における他国との協力は認められている。ただし、紛争時に軍事行動を義務づけられるNATOのような軍事同盟に加盟することはできない。
中立イニシアチブが生まれた経緯は?
中立イニシアチブの発起人は、現代の国民党の路線を形作った元連邦閣僚のクリストフ・ブロッハー氏だ。チューリヒ州出身の富豪で、ロシアによるウクライナ侵攻後のスイスの対応への反発から、このイニシアチブを発案した。
ブロッハー氏は、スイスが欧州連合(EU)による対ロ制裁を受け入れたことで、自国の中立を放棄したと考えている。
そこで、EUとの制度的な接近に反対する複数の団体が集まった主権主義団体「プロ・スイス」とともに、イニシアチブを立ち上げた。その中には「独立中立スイス行動(AUNS)」も含まれている。AUNSは1980年代、スイスの国連加盟をめぐる国民投票での反対運動を前身として、ブロッハー氏の主導で設立された団体だ。
賛成派と反対派は?
国民党は、プロ・スイスが主導するこのイニシアチブを支持している。その他の政党、政府(内閣)と議会はいずれも反対を表明している。
一方で、このイニシアチブは左派の平和主義者や反グローバリゼーションの立場を取る人々から支持を集めている。労働党(PST)など複数の団体は「中立のための平和主義・国際主義委員会」を設立し、中立イニシアチブを支持している。
賛成派の主張は?
賛成派は、完全な中立への回帰を主張している。中立は厳格に適用されるべきで、政府が政治情勢に応じてその解釈を変えることを許してはならないと考えている。
発起人らによれば、厳格かつ信頼できる中立こそが、スイスが武力紛争に巻き込まれるのを防ぎ、信頼できる国際的な仲介者としての役割を維持する最善の方法だという。特に、この提案によってスイスが段階的にNATOへ接近することを防げると考えている。
また、戦争当事国に対する制裁を受け入れることは、信頼できる中立国としての立場とは両立しないとも主張する。国際紛争において、スイスはいずれの側にも立つべきではないという考えだ。
プロ・スイスはEUに対しても明確に批判的な立場を取り、スイス・EU間で新たに計画されている協定パッケージに反対している。プロ・スイスの主張によれば、欧州統合の進展に伴い、スイスが「イデオロギーに左右されず、紛争から中立的に距離を置くべきだ」という「国家の根本原則」が揺らぎ、疑問視されている。
一方、左派の支持者たちは、平和主義と非同盟を重視している。中立は、対話や外交、平和的な紛争解決を促進することに貢献すると考えている。
反対派の主張は?
政府がスイスの中立性を維持外部リンクすることに変わりはない。中立はスイスの外交・安全保障政策における重要な手段だからだ。しかし、中立イニシアチブが国民投票で可決されれば、この原則の適用方法が根本的に変わるとの見方を示している。
政府によれば、現在の中立性が効果的なのは、国際法を守りながらも、変化する国際情勢に応じて中立政策を調整できるからだ。憲法で中立をより厳格に定義すれば、この柔軟性が損なわれ、国益を守ることが困難になる可能性がある。内閣は、現在の地政学的状況を踏まえれば、これは適切ではないと主張している。
政府はまた、国際社会が幅広く支持する制裁を導入できる可能性は残しておくべきだとしている。こうした措置は、スイスが国際法上の中立国としての地位を放棄することなく、ルールに基づく国際秩序を守ることに貢献するとしている。
反対派はさらに、この国民発議が成立すれば、スイスが国際的に一層孤立し、国の評価を損ない、他国との安全保障面での協力も難しくなると懸念している。
編集: Pauline Turuban、独語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:宇田薫
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