水辺のレジャー大国スイス、毎年約50人が溺死
夏のスイスは湖や川を楽しむアクティビティーが大人気だが、その危険性は見過ごされがちで、毎年約50人が命を落としている。
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ヌーシャテル湖でのパドルボード、首都ベルンを貫いて流れるアーレ川の川下り、エメラルド色に映えるティチーノ州ヴェルザスカ渓谷への飛び込みなど、スイスの夏は、湖と川を抜きにしては語れない。
だが、遊泳をはじめとする水辺のレジャーの人気に伴う代償は、決して小さくない。スイス事故防止事務局(bfu/bpa)の統計によると、遊泳中の事故は年間約1万3000件に上り、スイスの水域で50人近くが溺れて亡くなっている。
2025年は溺死者が43人で、平均をやや下回った。断言するにはまだ早いが、2026年の夏は猛暑となったため、夏が終わるまでに数字が膨らむ可能性がある。スイス救命協会(SLRG)の記録では、7月末の時点で溺死事故の件数はすでに2024年と2025年の同時期を上回っていた。
気温が上がればリスクも増える
7月以降も暑く乾燥した日々が続いている。事故防止事務局で水辺の安全対策を担当するダーヴィト・ブルクハルト氏は「高い気温と溺死事故のあいだには相関関係がある」と指摘する。2003年の記録的な熱波の際には、スイス国内でほぼ90人が溺死した。ここ数年で特に犠牲者が多かったのは2022年で、66人だった。
同じ傾向はスイス以外でも見られる。ドイツでは今年6月の溺死者数が2003年以来最多となった。フランスも状況は思わしくなく、同国スポーツ相の発表によると、6月19日から7月10日までの溺死者数は前年同期よりも20%近く多かった。
こうした状況を踏まえ、スイスの溺死事故について知っておくべき5つのポイントを紹介する。
1.国際的な比較では、水難事故による死亡率は低い
スイスの人々は川や湖など自然水域で泳ぐことを好むが、それでも国際的に見た場合、溺死率は低い。現在入手可能な最新の世界データによると、人口10万人当たりの溺死者数は、世界全体が4人近くであるのに対し、スイスは0.5人にとどまる。国連によると、世界で毎年30万人以上が溺れて命を落としており、犠牲者のほぼ4分の1を幼い子どもが占める。
しかし、こうした国際比較はスイスの状況の評価にとってあまり有益ではないとブルクハルト氏は指摘する。「スイスはほかの多くの国とはスタート地点がまったく違う。たとえば統計データから、低所得国の溺死率は高所得国のおよそ3倍に達することがわかっている」。その理由は、予防策や救助サービス、安全インフラなどの不足に加え、水泳を習う機会が少ないことなどがある。
ブルクハルト氏は、スイス独自の観点から事故を詳細に分析することこそが、予防策の強化にとって有効だと考える。
2.溺死の9割が川か湖
他国同様、スイスでも溺死事故の大多数が、自然の水域、つまり川や湖で発生している。たいていそうした場所のほうが、環境条件が厳しいからだ。ブルクハルト氏は「流れ、水温、視界の悪さ、距離の長さ、そして総じて監視の目が少ないこと」を要因に挙げる。
スイスでは溺死の半数近くが川で、40%以上が湖で起きている。この比率は、ドイツなどでもほぼ同じだ。一方フランスでは、溺死の40%以上が海で、16%が家庭のプールで発生している。
3.高齢者の犠牲は増えつつあるが、子どもの溺死は減少傾向にある
溺れる可能性が最も高いのは男性、特に20代の男性だ。予防の専門家は、向こう見ずな行動をとりがちなことに加え、飲酒がそこに重なる場合があること、子どもが思春期を迎えると大人の目が届きにくくなることを理由に挙げる。
>>このテーマについては、2022年のスイス救命協会理事長へのインタビュー記事もご参照ください(下記記事)。
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事故防止事務局によると、2000~2024年の期間でスイスの幼い子どもの溺死率は0.24から0.12へと半減した。昨年中に溺死した子どもは2人で、事故予防の専門家は2030年までにこれをゼロにすることを目指している。
対照的に、70歳を超える人の溺死率はかなり前から5歳未満の子どもの溺死率を上回ってきた。加えて、この20年で0.44から0.83に上昇したため、その差はさらに開いたことになる。事故防止事務局は、人口の高齢化に伴い、水辺のレジャーを楽しむ70歳超の人々が増えたことを理由に挙げる。
子どもと高齢者の溺死率の逆転現象は、スイスでは以前からみられていたが、世界全体で同様の傾向が現れ始めたのはここ数年のことだ。
4.犠牲者の半数近くが外国籍
溺死犠牲者全体のうち、外国人観光客が14%を占める。ブルクハルト氏は「観光客が水に接する機会はスイス居住者に比べれば少ない」ため、これは不釣り合いに高い数字だと指摘する。
同氏は、「その土地の環境をよく知らず、そこで育ったわけでもないため、地元の水域に特有の危険をほとんど知らないことなどが関係しているのだろう」と説明する。
スイスに住む外国籍の人は総人口の4分の1に過ぎないが、溺死者数では3分の1近くを占める。
ここでもまた、外国籍の比率が高い。理由はいくつか考えられる。ブルクハルト氏は「子どものころの水辺での経験が異なること、あるいは経験そのものがないこと、言葉の壁で情報が得にくいこと、スイミング能力や水の安全に関する知識が不足していること、あるいは単純に水泳文化が異なり、川などで泳ぐ習慣がないこと」を挙げる。
ただし同氏は、一般論でことを片づけてはならないと警告する。国籍そのものが事故の原因ではない。「リスクは、第1に、個人が水に接する頻度と状況で、第2に、その状況でどう行動するかで決まる」
5. 予防と自己責任の大切さ
ここ数十年で、溺死者の数は激減した。1975年まで、スイスは人口が今よりも少なかったにもかかわらず、頻繁に200人以上の年間犠牲者を出してきた。スイス救命協会でスポークスパーソンを務めるクリストフ・メルキ氏は、「この数字は予防の取り組みが実を結んでいることを示している」と話す。
同氏は、「救命協会は幅広く事故予防に取り組んでいる」と説明する。たとえば、14言語でのパンフレットの発行、スイミング能力や水の安全に関する知識の普及、さまざまな啓発キャンペーンの展開などだ。提携団体と協力しながら、水辺に注意喚起の看板の設置も進めている。
その一方で、仏語圏のスイス公共放送(RTS)が最近、政府はこれまで介入に消極的だったと報じた。この問題をめぐる直近の議会動議は、社会民主党(SP/PS)のバティスト・ユルニ議員が2023年に提出したものだ。政府は当時、個人の責任を指摘し、事故防止を自治体や関連団体の取り組みに委ねるとの立場を示した。
政府は現在、週3時間の体育授業の義務を廃止することを検討しているが、スポーツ団体や事故予防団体はこれに反対している。ブルクハルト氏は「泳力の水準を高く保つこと、つまりすべての子どもが水泳の授業を受けられるようにすること」が極めて重要だと指摘する。
編集:Samuel Jaberg/ds、英語からの翻訳:長谷川圭、校正:宇田薫
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