The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録
トップ・ストーリー
ディベート
すべての議論を見る

ホルムズ海峡の混乱がスイスに及ぼす影響

国際宇宙ステーションから撮影されたホルムズ海峡の様子。NASA提供
国際宇宙ステーションから撮影されたホルムズ海峡の様子。NASA提供 Keystone / AP

海上輸送の要衝であるホルムズ海峡が事実上封鎖されて1カ月以上が経った。米・イスラエルのイラン攻撃を発端としたこの混乱は、世界のエネルギーおよび人道支援物資のサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにした。

おすすめの記事

米国とイスラエルが2月下旬、イランを攻撃したことを受け、同国間の緊張が一気に高まった。イラン政府は報復として湾岸地域で船舶への攻撃と脅迫を実施。オマーンとイランを結ぶホルムズ海峡の交通を事実上停止させた。

米国とイスラエルは依然としてイランと交戦状態にある。しかし、ドナルド・トランプ米大統領は7日夜、イランへの攻撃を2週間停止すると発表した。「今夜、1つの文明が滅びる」と警告、自ら設定した期限の数時間前に方針を転換した。

停戦はホルムズ海峡の開放と交渉の進展を条件としている。イラン側は、軍と連携した船舶の安全な航行を認めると表明し、依然として支配権を維持していることを強調した。情勢は依然として不安定だ。

外部リンクへ移動

世界の石油と天然ガスの約5分の1、そして世界の海上貿易の大部分がこのホルムズ海峡を通過する。スイス商品取引の主要業界団体であるSUISSENÉGOCEのフローレンス・シュルヒ事務局長は「ホルムズ海峡の混乱は、世界のエネルギー流通をリアルタイムで再編することを余儀なくさせている。スイスの商社はこの再編の中心にいる」と話す。

長期にわたる封鎖は人道支援活動にも深刻な影響を与え、世界の食糧生産と緊急救援物資の供給を支える物資の流通を阻害している。

「この供給の混乱は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックとウクライナ戦争の勃発以来、私たちが目にしてきた中で最も深刻だ」。世界食糧計画(WFP)のサプライチェーン担当ディレクター、コリーヌ・フライシャー氏は3月末、ジュネーブで記者団にそう語った。「現在のサプライチェーン危機は、現地市場価格の上昇に伴い、明日には飢餓危機へと発展するだろう」

外部リンクへ移動

スイスの脆弱性とは?

スイスの脆弱性は、直接輸入よりも、世界の商品フローを管理する役割にあるといえる。

シュルヒ氏によると「湾岸地域に関連する石油・ガス輸送の相当部分は、たとえ貨物がスイス領内を物理的に通過しなくても、スイスから構成、資金調達、管理されている」。欧州とアジア諸国が混乱のなかで供給を確保できたのは、24時間体制で働く優秀なチームのおかげだという。

2026年3月24日、アラブ首長国連邦のドバイ金融市場で株式市場の動向を追う男性
2026年3月24日、アラブ首長国連邦のドバイ金融市場で株式市場の動向を追う男性 Keystone / EPA

経済学者のピーター・クリメック氏もこれに同意する。2024年のデータを挙げ「スイスは、ホルムズ海峡における貿易混乱の影響を直接受ける範囲が非常に限られている」と語る。同氏によると、スイスの湾岸地域からの直接輸入は約140億ドル(約2兆2000億円)相当、つまり総輸入額の4%未満だった。

主なものはアラブ首長国連邦からの未加工の非貨幣用金で、その額は約124億ドルに上る。その他の輸入品は主に宝飾品や貴金属で、エネルギー関連ではカタール産の硫黄が主な輸入品目だった。

スイスへの経済的影響は? ジュネーブのアセットマネジメント会社GAMA Assetの最高投資責任者、ラジーブ・デ・メロ氏は「最も直接的な影響はエネルギーだ。原油・ガス価格の高騰は家計への直接的な課税に転嫁される。それが実質可処分所得を減少させ、裁量支出の削減を余儀なくさせる」とみる。エネルギー価格の高騰が続けば、暖房用石油・ガスの在庫補充コスト負担がさらにかさむ。

外部リンクへ移動

スイスの主要貿易相手国である欧州の経済成長の鈍化もまた、スイスに影響を及ぼしそうだ。エネルギーコストの上昇は需要を抑制し、企業の利益率を圧迫し、信頼感を低下させ、スイスの輸出、投資、そして経済活動全体を減速させる。

デ・メロ氏は「スイスもその波及効果から免れることはできない」と予測する。「欧州の需要低迷、国内外の景況感悪化、そして企業投資の慎重化といった要因が、スイス経済の活動に重くのしかかるだろう」

スイス経済のどのセクターが最も影響を受けるのか?

クリメック氏は、商品取引会社が最初に打撃を受けるという。エネルギー業界の混乱が取引量の減少を引き起こし、価格変動も大きくなるためだ。価格上昇は担保要件も引き上げ、大幅な流動性不足を引き起こす。短期的な取引機会が改善したとしても、状況は依然厳しい。

貿易金融を通じて二番目に大きな打撃を受けるのは銀行だという。リスクと担保の変動性の高まりに伴い信用供与が引き締められる。これにより流動性制約が生じ、それが現物市場にも波及、貨物輸送量の減少と価格上昇につながる可能性がある。

2026年3月2日に撮影された衛星画像。ホルムズ海峡沿いのバンダルアッバス港で発生した爆発後、立ち上る煙を写したもの
2026年3月2日に撮影された衛星画像。ホルムズ海峡沿いのバンダルアッバス港で発生した爆発後、立ち上る煙を写したもの AFP

その次は再保険会社だ。保険金請求が急増したり、船舶リスクが保険対象外になったりした場合、影響を受ける。これは危機初期に見られたように、貿易の流れを直接的に抑制する可能性がある。

商船の戦争リスク保険料は、48時間以内に船体価格の約0.2~1%に急騰。米国、英国、イスラエルと関係のある船舶では5~7.5%に跳ね上がった。その結果、海上交通量は激減した。

クリメック氏は「スイスの産業と製薬業界への影響は、主にエネルギー価格の上昇、化学原料コストの増加、物流コストの上昇・混乱といった間接的なものとなるだろう」と語る。

クリメック氏は、時間が極めて重要な要素であることを強調する。4週間が経ち、すでに緩衝材の限界が試され始めている。インドでは一時的な操業停止といった兆候が見られる。残りの出荷が到着し、在庫が減少する現状において、たとえ混乱が収束したとしても供給不足を解消するのはより困難になるだろう。在庫がどれだけ持つかが決定的な要素となり、緩衝材が限られている企業はより影響が出やすい。

スイスに拠点を置く商社の対応は?

「スイスの商社は、このショックを吸収する最前線に立っている」とシュルヒ氏は言う。「しかし、経済全体へのこうした混乱を緩和することが、まさに彼らの役割だ。危機や不確実性への対応は、彼らの日常業務の一部」と指摘する。

ホルムズ海峡の緊張が高まると、商社はまず乗組員の安全を最優先する。その後、輸送ルートの変更、契約の再交渉、ヘッジ戦略の調整といった実務的な対策へと移行する。こうした迅速な対応は、混乱下でのエネルギー供給の維持に役立つ。

「世界的な危機を、具体的な解決策を探す動きへと変えているのは、スイスの貿易ハブ全体であり、その結果スイスは世界のエネルギー市場を安定させる存在となっている」

変動は機会を生み出すこともあるが、「何よりも、リスク管理者としての商社の役割を浮き彫りにする」とシュルヒ氏は語る。資本力のあるスイス拠点のトレーダーは混乱を吸収し、「他社が撤退する中でも、商品の物理的な流れを確保し続けることができる」。

しかし、価格の急騰は流動性を圧迫する。「幸い、スイスの銀行は依然として十分な流動性を有しており、この経済活動への資金供給を継続できる」とシュルヒ氏は指摘する。「これがなければ、価格上昇はさらに顕著になっていただろう。大きな混乱時には、商社と銀行間の信頼関係が極めて重要となる」

食料システムと人道支援物資のサプライチェーンへの影響は?

燃料価格の高騰により支援物資の輸送コストが上昇し、物流の混乱によって配送時間が長期化している。世界食糧計画(WFP)によると、ホルムズ海峡の封鎖で7万トンの食料物資の輸送が遅延または停止している。

支援物資の輸送を維持するため、WFPは輸送隊のルート変更を余儀なくされている。1700万人が飢餓に苦しむアフガニスタンへ向かうため、アラブ首長国連邦を出発するWFPのトラックは現在、イランを迂回し、サウジアラビア、ヨルダン、シリア、トルコ、アゼルバイジャン、トルクメニスタンを経由している。「これにより、1トンあたり約1000ユーロの追加コストと3週間の遅延が生じている」と、コリーヌ・フライシャー氏は話す。

人道支援予算が逼迫する状況下で、WFPは活動規模を縮小せざるを得なくなることを懸念している。「コストが上昇すれば、受益者一人当たりのコストも上がる。そして、支援できる人数は減る」

ホルムズ海峡は液化天然ガス(LNG)と肥料の戦略的な輸送路でもある。3月10日に発表された国連貿易開発会議(UNCTAD)の報告書によると、多くの後発開発途上国はペルシャ湾からの肥料輸入に大きく依存している。スーダンは50%以上、ソマリアは30%を輸入している。

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の液化天然ガスの約5分の1、そして世界の肥料取引量の最大30%がホルムズ海峡を通過する。危機が長引けば、価格は今年上半期に15~20%上昇する可能性がある。

FAOのチーフエコノミスト、マキシモ・トレロ氏は記者会見で「農家は二重のコストショックに直面している。肥料価格の高騰に加え、燃料費の上昇が農業バリューチェーン全体に影響を与えている」と述べた。農家が肥料の使用量を削減せざるを得なくなれば、将来の収穫量減少のリスクを招く可能性がある。

混乱が続いた場合、最悪のシナリオはどうなるのか?

デ・メロ氏は、原油価格が1バレル150ドルまで急騰する可能性に言及。より広範な経済的影響を引き起こす可能性があると警告する。「一時的なエネルギー不足にとどまらず、より広範な世界的な景気後退リスクへと発展する可能性がある。小規模で高度に開かれた経済国スイスは、貿易、投資、そして信頼感といった経路を通じて特に大きな影響を受けるだろう」

WFPは、紛争が上半期以降も続き、原油価格が1バレル100ドルを超える水準で推移した場合、4500万人が深刻な食糧不安に陥る可能性があると推計している。世界ではすでに3億1800万人が飢餓に苦しんでいる。

外部リンクへ移動

WFPのカール・スカウ副事務局長は先月ジュネーブで行われた記者会見で、「この紛争が続けば、世界中に衝撃が広がり、すでに次の食事さえままならない家庭が最も大きな打撃を受けるだろう」と述べた。WFPの分析によると、サハラ以南アフリカとアジア諸国は食料と燃料を輸入に依存しているため、最も脆弱な立場にある。

編集:Virginie Mangin/ts英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部