緊縮財政案、原発回帰、中立…スイス春期議会のポイント
スイス連邦議会で2日、春期会期が始まった。最大の注目は、スイスインフォの命運を握る緊縮財政案の採決だ。原子力発電所の新設解禁案や、中立のあり方を問うイニシアチブの行方も注目される。
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春期議会(3月2日~20日)では緊縮財政案「救済パッケージ27」の最終版が審議に付される。連邦内閣(政府)がまとめた原案は、2029年まで連邦予算を毎年約30億フラン(約6000億円)削減する目標を掲げる。個々の節減策は全て2027年に実施することが予定されるため、今会期中に採決する必要がある。レファレンダム(国民表決)に必要な時間を確保するためだ。
レファレンダム(国民表決)は、連邦議会で承認された法律の是非を国民投票で問う制度。新法公布後100日以内に、有権者5万人分以上の署名を集めて国民投票を行う任意のレファレンダムと、憲法の改正や超国家機関への加盟などに伴い自動的に国民投票を行う強制的レファレンダムがある。
環境政党・緑の党(GPS/Les Verts)はレファレンダムを起こす方針を示している。全州議会(上院)は昨年12月に早くも譲歩し、政府案より削減額を約3分の1抑えた修正案を可決した。この修正案が今会期で国民議会(下院)の採決にかけられる。
緊縮財政案は、スイス公共放送協会(SRG SSR)の国際放送業務への政府拠出金の廃止も盛り込まれている。年1900万フランに上るこの拠出金は、10言語でスイス関連ニュースを配信する「スイスインフォ」やスイス・イタリア語圏のオンラインポータル「Tvsizzera」の運営、国際放送局「TV5 Monde」「3Sat」との提携を支える。上院は昨年12月に拠出金廃止を否決した。下院の財務委員会も、国際放送業務を予算削減の対象外とするよう勧告している。
2つの財源案
緊縮財政案をめぐっては、下院財務委員会が政府案に追加した2つの財源案が今会期の議題となる。1つは国内の「システム上重要な金融機関(SIFIs)」が連邦政府に一種の保険料を納める案だ。この案はクレディ・スイスの破綻後に次なる金融危機を防ぐ措置として2023年秋から審議されていたもので、緊縮財政案に組み込まれることになった。
もう1つは食肉輸入関税の引き上げだ。これはアメリカとの関税交渉で食肉輸入量の割当制が設定されることや、南米南部共同市場(メルコスール)と結んだ自由貿易協定(FTA)の国内農業への影響を和らげるために検討されている。これまでに委員会レベルで議論が交わされてきたが、緊縮財政案の交渉材料に追加された。妥協を呼ぶか、さらなる火種になるかは未知数だ。
下院が全て委員会勧告通りに採決したとしても、上院との不一致点が約20カ所も残る。現状、議会の提案は2027~29年にかけて約59億フランの節約をもたらす内容になっている。
中立と原発回帰
連邦憲法に永世武装中立を明記することを求める「中立イニシアチブ」をめぐり、連邦議会としてどの立場を示すかどうかが審議される。国民党(SVP/UDC)が提起したこのイニシアチブのために、下院で4日間の審議が予定されている。
上院はイニシアチブ原案を否決し、直接的対案を提案・可決した。対案は「永世武装中立」のみを憲法に明記し、イニシアチブ原案の求める「制裁の禁止」は除外する。下院の担当委員会はイニシアチブにも上院の対案にも反対を勧告している。
原子力発電所の新設を解禁する案が、第1院として上院で審議される。これは「ブラックアウトイニシアチブ」への間接的対案で、イニシアチブ原案には上院委員会の大多数が反対を勧告した。2011年の福島第一原子力発電所の事故を受けて、スイスは2017年の国民投票で原子力発電の段階的廃止を可決していた。
「子ども年金」廃止かけ採決
春期議会では、未成年の子どもを持つ退職者(男性限定)に支給される「子ども年金」の廃止案も採決の時を迎える。現在は年2億3000万フランの予算が充てられている。国外移住したスイス人にとって、子ども年金は大きな生計の支えになる。特に移住後に再婚したり、自分の子どもや連れ子を養育したりする場合にその比重は大きい。
国内では、子ども年金は廃止できるという意見が圧倒的だ。廃止により困窮に陥る人は、補足給付を増額することができるからだ。だが国外在住者は増額の対象外だ。子ども年金が廃止されれば、数百人もの在外勢の家計が苦しくなると予想される。下院は2024年に廃止案を可決しており、残る上院の採決が今会期で実施される。
署名集めの電子化
国民投票に不可欠な署名集めの電子化プロジェクトが、上院で採決にかけられる予定だ。これまで署名集めはもっぱら対面で行われているが、過去数年に署名の偽造が相次ぎ発覚し、電子化の議論が急速に進んだ。手始めに実証実験の実施を連邦閣僚に義務付ける議員動議外部リンクが、昨年6月に下院で可決された。最終的に電子署名収集(e-collecting)が実現すれば、国外に住む有権者も国民投票の提起に参画しやすくなる。
編集:Samuel Jaberg、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫
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