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中東情勢とスイス、石油・ガスは供給確保も影響免れず

中東での武力衝突により、スイスでもガソリンやディーゼル油が値上がりしている
中東での武力衝突により、スイスでもガソリンやディーゼル油が値上がりしている Keystone / Sven Hoppe

中東での武力衝突により世界の石油・ガス流通が妨げられている。事態の長期化や化石燃料の値上がりは、ペルシャ湾岸にエネルギー供給を直接依存しないスイスにも影響を及ぼす見通しだ。

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イスラエルと米国がイランを軍事攻撃し、イランが報復を実施して以降、石油価格は急騰し、天然ガスはさらに大きく値上がりした。

イランは自国の海岸線とアラビア半島を隔てるホルムズ海峡を事実上封鎖し、この狭い航路を通ろうとする船を攻撃すると威嚇。カタールやアラブ首長国連邦(UAE)など中東産の石油・ガスを運ぶ船が立ち往生し、世界の原油貿易の約2割が妨げられている。

この影響はあらゆる石油消費国に及ぶ。ホルムズ海峡を通過する原油に頼らないスイスのような国でさえ、その封鎖と無縁ではいられない。

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中東からの輸入に深く依存する国は主にアジアにあり、今回の危機の打撃をまともに受けている。欧州の依存度はそれに比べればはるかに低いが、化石燃料の国際価格の変動にはやはり影響される。アナリストら外部リンクによると、産油国で通常の操業がすぐに再開した場合でも、市場の不安定性は数カ月続く見通しだ。

スイスでは2月28日の開戦から3月9日までにディーゼル油が8.6%、燃油が40%それぞれ値上がりしたが、今のところ化石燃料の供給に影響は出ていない。燃料輸入業者団体アヴエナジー・スイスは9日、国内市場には十分な量の石油があり、現時点で供給は「確保されている」と表明した。

同団体広報のウエリ・バーメルト氏はスイスインフォに対し、「石油製品の供給は常に保証されている。不足する恐れはない」と言明。運輸・物流のレジリエンス(回復力)が非常に高く、ある調達先から配送できなくても、別の地域から輸入できると語っている。

政財界の指導者と各州・市の代表らでつくるエネルギー安全保障運営委員会も17日、スイスのエネルギー状況に差し迫ったリスクはないと発表外部リンクした。

スイスは化石燃料の使用を段階的に廃止し、再生可能エネルギーへの移行を続けることを公約している。最近開かれた国連気候変動枠組み条約の第30回締約国会議(COP30)では、80カ国余りのグループの一員として化石燃料脱却への明確なロードマップ(行程表)の策定を訴えた。

その一方、スイスは交通・運輸や暖房などのため、依然として石油・ガスの輸入に深く依存している。本シリーズでは、スイスのエネルギー依存や化石燃料とのやや曖昧な関係について、国外の情勢を踏まえながら分析する。

供給が安定している理由は、スイスが中東以外の国々から化石燃料を調達していることにある。ただし、たとえ供給が確保できていようとも、中東情勢の緊迫化による物価や生活費への影響は免れない。スイス国民もそれを実感することになるだろう。

中東情勢はエネルギーの世界市場や価格変動、国際サプライチェーンを通じ、スイスの物価や生活費に作用する。これから何カ月も衝突が続く場合、従来より高い価格で石油備蓄を補充せざるを得ず、暖房を含む光熱費や交通費の上昇につながるだろう。米国は2025年8月、幅広いスイス製品に39%の関税を課したが、アナリストらによれば、これを超える経済的打撃が生じる恐れもある。

ホルムズ海峡に足止めされたオイルタンカーと貨物船。2026年3月11日撮影
ホルムズ海峡に足止めされたオイルタンカーと貨物船。2026年3月11日撮影 Keystone / AP

スイスの石油輸入の半分は米国から

スイスは自前の化石燃料に恵まれず、国内消費量のすべてを輸入している。スイスエネルギー基金(SES)によると、石油と天然ガスに比較的少量の核燃料を加えた年間輸入額は平均80億フラン(約1兆6000億円)に上る。

石油製品は国内エネルギー需要の半分近く(2024年は46%外部リンク)を満たしており、運輸や暖房、工業に不可欠だ。なお、天然ガスはエネルギー需要の約12%に対応し、主に暖房と料理に使われる。

スイスが消費する原油の半分は米国産だ。ドイツ語圏スイス公共放送(SRF)の通関データ分析によると、2025年の米国からの輸入量は150万トン、輸入額は6億9100万フランだった。また、以下のグラフの通り、米国に次ぐ国別2位にはナイジェリアがつけている。

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米国がスイスの主な石油調達先となったのは、2023年のことだ。フラッキング(水圧破砕法)など新たな採掘技術による増産と2015年の禁輸措置撤廃の後、輸出を拡大してきた。

スイスの原油調達先の首位には長らくリビアがいたが、今は米国がその座に就いている。2011年の内戦とムアンマル・カダフィ政権の崩壊以降、スイスのリビア依存は徐々に減少した。

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調達先を決めるのは民間企業

スイスが輸入した原油は、西部ヌーシャテル州クレシエの製油所で加工される。国内で今も稼働する唯一の製油所だ。全国で消費されるガソリン、ディーゼル油、暖房油の約30%がここで精製される。残り70%は欧州連合(EU)諸国から輸入する精製済み石油製品で賄われ、そのEUは米国、ノルウェー、サウジアラビア外部リンクを調達先としている。

石油をどの国から輸入するのか決めるのは、連邦政府ではなく民間企業だ。クレシエの製油所を運営するバロプリームはSRFに対し、「当社は複数の国から原油を輸入している。判断基準は経済性と実務的な条件で、どちらも常に変化する可能性がある」と説明する。

調達先の国を選ぶ際に決め手になるのが、原油の組成だ。さまざまな燃料を精製する上での適性は原油の性質に左右され、軽質油と重質油の比率が重要な判断材料になる。

スイス西部クレシエにある国内唯一の製油所
スイス西部クレシエにある国内唯一の製油所 Keystone / Laurent Gillieron

アジアと欧州のLNG獲得競争

スイスは天然ガスをEU市場から輸入しているが、スイスガス・水専門協会(SVGW)によれば、こちらも現時点で深刻な状況にはない。

同協会広報のヤーノシュ・キック氏によると、エネルギー価格に生じる影響の多くはホルムズ海峡での緊張がいつまで続くかで決まる。4月上旬か中旬のうちに状況が緩和すれば、市場は影響を吸収できるはずだ。

欧州(そして間接的にスイス)では2025年、気体でのガス輸入の過半がノルウェーとアルジェリアからだった。一方、液化天然ガス(LNG)の調達先は米国が中心で、より少量ながらロシアやアフリカ諸国、カタールからの輸入もあった。

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同協会は、ペルシャ湾の海運の停滞がさらに長引く場合、欧州のガス備蓄に重大な影響が生じかねないと警告する。夏になれば、ガス企業が翌冬に備えて備蓄を積み増す必要に迫られる。欧州の貯蔵施設の充填率は前年同期の39%に対し、現在は29%程度だ。

スイス企業ガスナットのフレデリック・リヴィエ氏はフランス語圏の経済紙ラジェフィに対し、「貯蔵施設を満たすため、この夏は多くのガスが必要になる」と説明した。

また、ガス・エネルギー専門家のアンヌ・ソフィー・コルボー氏はフランス語圏のスイス公共放送(RTS)のインタビューで、ホルムズ海峡を通過するLNGの85〜90%がアジア向けだと指摘。運搬船の行き先を当初予定の欧州からアジアに変更するよう、日本や台湾、韓国などが生産国に働きかけることもできると語る。

カタール産LNGは現在、欧州のガス輸入の5%にすぎないが、EUとスイスで担う役割は重要性を増していくだろう。ロシアはウクライナに侵攻するまでEUの主なエネルギー調達先だったが、カタール産LNGが一部を代替するはずだ。

EUはロシア政府への制裁の一環として、2027年にロシア産ガスの輸入を全面的に禁止すると発表した。スイスも4月25日外部リンク以降、ロシアからのLNGの購入・輸入を禁止する。

備蓄は4カ月半

中東からの燃料輸送の停滞が続いても、スイスのガスが尽きることはない。連邦国家経済供給庁(FONES)の報道官は9日、供給不足に備えた措置はすでに講じていると表明した。

連邦政府には石油製品の義務的備蓄外部リンクの放出という手段があり、ガソリン、ディーゼル油、燃油の国内需要の4カ月半分を賄える。

これは約18週間に相当し、ドナルド・トランプ米大統領がイランとの戦争終結までの想定期間とした「4〜5週間」を大幅に上回る。

原油価格は3月9日、1バレル当たり(以下同)100ドル(約1万5800円)を超えた。ロシアがウクライナ侵攻を始めた2022年以来の水準だ。

仮に原油価格90ドルが常態化した場合、向こう2年間の経済成長率は年率0.2〜0.4%鈍化する。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の景気調査機関(KOF)のハンス・ゲルスバッハ共同所長はSRFに対し、これは1人当たり年間平均所得で200〜400フラン前後の減少に相当すると説明した。

原油価格105ドル超が常態化した場合、1人当たり年間平均所得の減少幅は500〜750フランに跳ね上がる。

ゲルスバッハ氏は原油価格上昇の経済的打撃について、米国が2025年8月に導入した広範なスイス製品への輸入関税の影響をわずかに上回ると指摘している。

編集:Gabe Bullard/vdv. Translated from Italian by AI/ts、英語からの翻訳:高取芳彦校正:宇田薫

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