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「スイス製」とは何か? ブランド価値めぐり再び論争に

「Swiss Engineering」:オン(On)のシューズに記されたこのロゴには、今後、スイス国旗の十字が追加されることになる。
スイスの靴ブランドOn(オン)は「Swiss Engineering」の間にスイス国旗マークを付けることになる Keystone / Gaetan Bally

スイス当局が法解釈を拡大し、実質的にはスイスで製造されていなくても「スイス製」を名乗る余地が広がった。シューズメーカー「On(オン)」など新興企業は変更を歓迎するが、ブランド価値を守るため国内生産に徹してきた伝統企業からは不満の声が上がっている。

「スイス製」は何を意味するのか?連邦知的所有権機関(IGE/IPI、日本の特許庁に相当)が3月末、この件に関する「実務的な説明」を発表し、大きな議論を呼んでいる。実質的にスイスで生産されていない製品でも、赤地に白十字のスイス国旗マークを付けて販売できるようになった。

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シューズメーカー「On」、スイス国旗マーク使用継続へ

このコンテンツが公開されたのは、 スイスのシューズメーカー「On(オン)」は製品にスイス国旗マークをあしらうことで当局から正式な許可を得た。同社の靴はベトナムやインドネシアで製造されているため、「スイス製」を表す国旗マークの使用は違法ではないかと指摘されていた。

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スイス国旗の価値

スイス政府の報告書外部リンク(2020年)によると、「スイス製」ラベルを付けることで国内総生産(GDP)1%の付加価値が生まれる。IPIによると、現在では約70億フランに相当する。

スイス十字マークがこのような価値を生み出すのは、消費者がスイス十字マークの付いた製品に対してより高い対価を支払う意思があるからだ。「スイス製」は品質、精度、信頼性の象徴であり、スイスブランドの約束は金銭的な価値がある。

「スイス製」製品の高い価値は、独調査会社スタティスティカが世界各国で実施したオンライン調査「メイド・イン・カントリー指数外部リンク」(2017年)にも反映されている。

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IPI外部リンクによると、農産物やスイスの代表的製品の場合は国旗マークを付けることで付加価値が2割増し、高級品に至っては最大5割増しになる。ザンクト・ガレン大学の研究(2016年)外部リンクは、「スイス製」を名乗ることで増す付加価値は平均約40%と推計する。

「スイス製」の意味するもの

工業製品の場合、「スイス製」のラベルをつけるには製造コストの少なくとも60%がスイス国内で生み出されている必要がある。時計には特別規定があり、ムーブメントの少なくとも60%がスイス国内で製造され、開発や最も重要な製造工程もスイス国内で行われなければならない。

食品の場合、原材料の重量の80%はスイス産でなければならない。チョコレートは例外で、ナッツ類とカカオはそもそも国内調達がほぼ不可能なため、原材料規定は免除される。ただしレシピ開発と製造工程はスイス国内で行われなければならない。

リコラののど飴
菓子メーカーのリコラは、自社の「スイスネス」を証明するために悪戦苦闘した Keystone / Christian Beutler

これらのルールを盛り込んだ改正商標・原産地表示法外部リンク、通称「スイスネス」法外部リンクは2017年に施行された。「スイス」ブランドの模倣品からの保護を強化するのが目的だった。

だがルールには厳しすぎる面もあり、多くの大企業が打撃を受けた。生産拠点をスロバキアに移したトブラローネチョコレートは、パッケージからマッターホルンのイラストを削除せざるを得なくなった。ハーブキャンディのリコラは、国旗マークを維持するためにレシピを変更しなければならなかった。故意に法律に違反した場合は、最高5年の懲役刑または罰金が科される。

だが、「スイスネス法」の国外適用については曖昧な点も存在する。例えば、アメリカでは「スイスチーズ」は穴の開いたチーズの総称であり、原産地表示義務もなければ保護対象でもない。

独ニュルンベルク市場判断研究所(NIM)は2025年、世界各国で「Made in 〇〇」ラベルの評判を調査した。スイスインフォの依頼を受け、同研究所は「スイス製」ラベルが特に好意的に受け止められている市場を分析した。

その結果、スイス製を最も高く評価するのはインドで、ドイツが続いた。一方、日本ではスイスブランドの魅力はそれほど高くない。

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スイスネス法が改正されたわけではないものの、IPIの「実務的な説明」により法解釈が変更された。新しい運用では、製造が国外で行われたものであっても、研究や開発過程がスイスで行われていれば、スイス国旗マークを付けられることになった。

ただその場合、国旗マークは「Swiss Engineering」または「Swiss Research」の文字の中に組み込まれていなければならない。「実務的な説明」によれば、「スイス国旗は2つの単語の間に正確に配置されなければならず、正方形の一辺の長さは文字のサイズを超えてはならない」。

だが「Swiss Engineering」「Swiss Research」という言葉が何を意味するのかは、裁判所が明確にする必要がありそうだ。

企業の負担を軽減

解釈変更の目的は、スイス企業にかかる負担を軽減することだ。スイスフランの高騰とアメリカに課された高関税により、多くの企業が生産の国外移転を迫られている。

またIPIは、研究開発や設計といった付加価値創造の主要プロセスはスイス国内に留まっていることが多く、企業が自社の「スイスらしさ」を強調し続けることは正当な利益となる、と説明している。

ビクトリノックスのアーミーナイフ
スイスの老舗ブランド、ビクトリノックスは、スーツケースの製造をアジアで行っている Keystone / Gaetan Bally

その一例として、有名なスイスアーミーナイフの製造元であるビクトリノックス社が挙げられる。同社の旅行用スーツケースやバッグのデザインをスイスで行っているものの、製造はアジアで行っている。

これまでビクトリノックスは、「外国製」のスーツケースには黒字に白十字の紋章のようなエンブレムを付けることで、スイスネス法違反を回避してきた。将来的には、スーツケースに本物のスイス国旗マークがあしらわれる可能性がある。

きっかけはオン

スイス製基準の拡大は、シューズブランドのOn(オン)にとって大きな勝利となった。同社はアスレチックシューズにおけるグローバルブランドに急成長し、時価総額は100億フランに達し、数千人の従業員を抱えている。そのうち1000人以上はスイス国内で働いているものの、シューズの製造は主にベトナムで行われている。

Onは国外でスイス国旗ラベル付きで製品を販売したため、IPIは中国当局に通報するなど世界中で対策を講じた。2025年9月にオンが連邦裁判所に持ち込むことを提案したのを受け、IPIの解釈変更に至った。ただIPIの広報担当者は、この変更は「Onに対する法律」ではなく、すべての企業に適用されると述べた。

実際、新ルールは他の多くの企業にも恩恵をもたらす。例えば、ランジェリーメーカーのカリダ社はかつてスイスで生産を行っていたが、現在は製造を主にハンガリーにアウトソーシングし、スイス国内に残っているのは開発業務のみだ。このような経緯を持つ企業は、ブランド価値を高める証としてスイス国旗マークを再び付けられる可能性が出てきた。

企業努力が無駄に?

一方、スイスネスの要件を満たすために多額の投資をしてきた企業の間では、すでに不満が高まっている。例えばキッチン家電メーカーのV-Zugは、製造コストが高いことで知られるスイス国内での生産を維持し、スイス国旗マークをブランドの中核として守ってきた。同社のマーケティング部はドイツ語圏大手紙NZZに「今回の決定は『スイス製』ブランドを希薄化させ、スイスの製造拠点としての地位を損なうとみている」と語った。スイスで生産を行っている企業にとって、この解釈拡大は「不利益」だと断言した。

園芸工具メーカー、フェルコの最高経営責任者(CEO)もNZZへの寄稿で、「スイス製」という謳い文句は、品質、精度、信頼性に依拠していると論じた。「スイスネスをデザインや研究開発だけに限定すれば、この基盤が弱体化してしまう」

コーヒーマシンメーカーのサーモプランも、マーケティング上の理由からスイスへの忠誠を貫いてきた。同社のエイドリアン・シュタイナーCEOもNZZに「今回の決定は我々にとって残念だ」と嘆いた。「スイス十字は『約束』であり、当然ながら1つのハードルとなっている」。だがその約束は今、水に流れた。

スイス国旗マークのついたぴかぴかのコーヒーマシン
スイス国旗のついたサーモプラン製コーヒーマシン Keystone / Christian Beutler

国民投票も辞さず

IPIの解釈拡大に真っ向から異を唱えるのが、シャフハウゼン州出身のトマス・ミンダー元上院議員(無所属)だ。同氏は役員報酬に上限を設ける国民投票(2013年役員報酬イニシアチブ)の主導者として一躍有名になり、スイスネス法の制定を提唱した張本人だ。NZZによると、ミンダー氏は「スイスネスとスイス国旗を守る」ためのイニシアチブ(国民発議)に向け動き出している。

議会でも同様の議員動議が提出され、一部企業は司法への異議申し立てを検討している。アールガウ州の靴ブランド「キュンツリ」のロベルト・マルトゥッロCEOは、ドイツ語圏のタブロイド紙ブリックで「この新解釈が許されるなら、『スイス製』の価値は大幅に低下するだろう」と語った。

キュンツリの靴はポルトガルで製造されている。ビジネスモデルはOnと同じで「新解釈から当社も恩恵を受ける可能性がある」と知りながら、新解釈には反対姿勢を見せている。その背後には、マルトゥッロCEOの義父はスイスを代表する保守政治家クリストフ・ブロッハー氏だという事情がある。スイス国旗マークをめぐる論争は、経済や業績指標など表面的な問題にとどまらない。

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編集:Marc Leutenegger、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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