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公共放送受信料引き下げ、国民投票で否決 世界に通じる6つの教訓

公共料金引き下げに対する政府の対案策定を主導したアルベルト・レシュティ通信相
公共料金引き下げに対する政府の対案策定を主導したアルベルト・レシュティ通信相 Keystone / Andreas Becker

8日の国民投票で、スイス公共放送協会(SRG SSR)のテレビ・ラジオ放送受信料を引き下げる案が否決された。公共メディアをめぐる政治的な攻防戦はさまざまな課題を浮き彫りにした。今回の国民投票から得られる6つの教訓を整理した。

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【解説】SRGイニシアチブ「200フランで十分!」とは 

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの一般世帯の公共放送受信料引き下げと、徴収対象から企業を除外することを求めるイニシアチブ(国民発議)が、3月8日の国民投票にかけられる。反対派は、国家の一体性や民主主義を揺るがすと警告している。

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1.世界的な潮流を映すスイスの議論

今回のイニシアチブ(国民発議)を巡る議論は、公共メディアの弱体化という国際的な潮流を反映している。西ヨーロッパの民主主義諸国では、政府が公共メディアへの財政支援を削減している。フランスでは公共メディア予算が2年間で1億6200万ユーロ減り、英国ではBBCが政治的・財政的圧力の下、大規模な予算削減計画を進めている。

同時に、公共メディアは政党、政治家の影響力行使の格好の標的となっている。公共メディアには、偏向報道や特定の思想の追求といった批判が浴びせられている。米国ではドナルド・トランプ大統領が米政府系国際メディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」を「不要な連邦官僚機構の一部」と口撃している。

一方、権威主義体制では逆の傾向がみられる。2000年代初め以降、ロシア、中国、イランは情報統制のほか、「第4の権力」である報道機関を弱体化させるため、プロパガンダ機構へ多額の投資を行ってきた。このような状況において、独立した公共メディアは不可欠な存在だ。公共メディアは信頼できる情報へのアクセスを保証し、民主主義社会の多元的な言論空間を維持する重要な役割を担う。

▼国民投票結果を受けた関係者の反応は?

2.家計負担軽減を訴えた政党の主張は広がらず

受信料引き下げを支持していた保守右派の国民党(SVP/UDC)は家計の負担軽減になると訴えたが、有権者の幅広い支持は得られなかった。国民投票直前の世論調査では、スイス公共放送協会(SRG SSR、以下「協会」)の番組は制作費と内容のバランスが適切だとの見方が多数を占めた。

むしろ、協会がスポーツやドラマシリーズの放送を行わなくなれば、それらを視聴するためにさらに多くの出費が必要になるという懸念が広がっていた。

国民党自身も可決の可能性をそれほど高く見ていなかったようだ。投票キャンペーン資金も約150万フランと比較的少額だった。一方、引き下げ反対派は約400万フランを投じ、文化・スポーツ・社会分野から35以上の団体が支援した。今回の投票キャンペーンは協会を支持する多様な勢力を示した一方、協会への財政的依存も浮き彫りにした。

3.通信相の政治手腕

今回の結果は、2023年から内閣閣僚として環境・運輸・エネルギー・通信相を務めるアルベルト・レシュティ氏(国民党所属)にとって二重の勝利となった。

レシュティ氏は今回のイニシアチブ「200フランで十分!(通称『SRGイニシアチブ』)」を立ち上げた1人で、閣僚就任前は発起人委員会のメンバーも務めた。

閣僚就任に伴い委員会を離脱後は、内閣として政府の対案を策定した。レシュティ氏が主導した政令改正案は、個人世帯の受信料を現行の年間335フラン(約6万8000円)から2029年までに段階的に300フランに引き下げるという、イニシアチブよりも少し温度を下げた内容だった。これに企業負担の軽減も加わり、協会の予算は17%削減される。

通信相としてイニシアチブに反対しつつ、イニシアチブが求める受信料引き下げを一部成功させた。さらに協会の規模は縮小され、企業負担も軽減されるという目的も達成した。さらにレシュティ氏は今後、協会が任務を果たしているか、政治的に均衡の取れた報道を行っているかを厳しく監視する考えを示している。

レシュティ氏は、政治家としての確たる手腕を発揮した。イデオロギー的には揺るぎない姿勢を貫きながらも、その過程では柔軟性を見せた。自らの役割が提供するあらゆる手段を駆使し、政治的に実現可能な最大限の成果を達成した。

4.SRGへの継続的な攻撃の影響

国民投票では過半数の支持を得たが、一部の国民が抱える不信感は消えていない。

公共放送受信料制度を問うイニシアチブが提起されたのは1982年以来、すでに6度目を数える。

いずれも取り組みは失敗しているが、確実に影響を与えている。2018年に反対72%で否決された「ノー・ビラグ」イニシアチブや今回のSRGイニシアチブがなければ、受信料がはおそらくこれほど早く引き下げられることはなかっただろう。受信料は2007年の462フランから2029年には300フランに減額される。20年間で35%の削減だ。

これを受け、協会は国民投票前から組織再編を進めている。しかし、言語圏や連邦制度といった制約を抱える協会にとって、17%の予算削減は大きな試練だ。

スザンヌ・ヴィレ協会会長は、より中央集権化された、効率的で利用しやすい公共放送を実現すると約束しているが、これを迅速に実行しなければ政治の支持を失い、さらなる予算削減に直面する可能性がある。

5.批判への真剣な対応が必要

投票キャンペーンでは協会が「左寄り」あるいは社会的正義を追求する 「ウォーク(woke)」だとの批判も繰り返し上がった。この指摘は無視できない。

協会の使命は、社会の多様な側面や政治的要素を反映することであり、活動家として振る舞ったり、既存の社会構造と戦ったりすることではない。

一方で、自身の政治的主張を報道機関に押し付けようとする保守右派の圧力に屈することもまた誤りだろう。

スイス国内で、公共放送協会ほど強い注目を浴びる機関は、スイス軍を除いてはほぼ皆無だろう。公共放送の記者は常に厳しい視線にさらされ、求められる水準はこれまで以上に高い。

それでも、真に中立で独立した報道を続けることだけが、公共放送の存在意義を国民に示し続ける唯一の道だろう。

6.標的にされなかった在外スイス人

国外に住むスイス人の多くは、今回の投票結果に満足しているだろう。スイス公共放送協会の委託を受け世論調査機関gfs.bernが実施した最新の世論調査では、在外スイス人の58%が反対、27%が賛成と回答した。

2024年に国民投票が行われた、老齢・遺族年金(AHV/AVS、日本の国民年金に相当)の年間支給額を1カ月分増やす提案では、スイスよりも生活費の安い国に住んでいることの多い在外スイス人は「恩恵だけ得ている」として批判の対象となった。

そのため在外スイス人は今回、再び批判の対象となる可能性があった。在外スイス人には受信料の支払い義務がないにもかかわらず、スイスインフォの国際社会向けの情報サービスを利用したり、スイスの4つの公用語に対応したラジオ・テレビ放送(SRF、RTS、RSI、RTR)で地元の情報を得たりできるからだ。

国際社会向けの情報発信は、公共放送の典型的なサービスの1つだ。20万人を超える在外スイス人が、スイス国民投票や選挙に参加する際の意見形成を助ける。多くの国・地域でメディア危機が指摘される中、依然として多様性に富み、強固な基盤があるスイスのメディア環境は心強い存在だ。

2015年の「ラジオ・テレビ法(RTVA)改正案」を巡る国民投票は50.08%という僅差で否決されたが、今回は反対61.9%と、より明確に否決された。

編集:Mark Livingston、独語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:宇田薫

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