スイス下院、スイスインフォへの拠出金廃止案を否決 上院に続き
スイス国民議会(下院)は4日、2027年以降のスイス公共放送協会(SRG SSR)の国際放送業務に対する政府拠出金の廃止案を否決した。全州議会(上院)は昨年12月にすでに同案を否決しており、スイスインフォの存続はほぼ確定した。
連邦政府は2025年9月、連邦予算の赤字を解消するための緊縮財政案「救済パッケージ27外部リンク」を議会に提出した。65項目に及ぶ削減策の第24項に、スイス公共放送協会(SRG SSR、以下「協会」)に委託している国際放送・配信業務(フォーリン・マンデート、以下国際放送業務)への政府拠出金を2027年から廃止する案を盛り込んだ。
下院は3月2日から同パッケージの各項目に関する審議を始めた。第24項は4日の審議で賛成104票、反対84票、棄権5票の大差で否決された。上院は昨年12月に否決していた。下院でも否決されたことにより、協会の国際放送業務の中核であるスイスインフォ(本サイト)の存続がほぼ確定した。
協会の国際業務にはスイスインフォやスイス伊語圏のオンラインポータル「tvsvizzera.it」運営、国際テレビ局「3Sat」「TV5Monde」との提携がある。これらにかかる費用1900万フラン(約37億2000万円)のうち900万フランが連邦の拠出金で、残りが協会の受信料収入で賄われている。政府拠出金の廃止はスイスインフォ予算の半分を失うことを意味し、可決されれば存続が難しくなるところだった。
スイス公共放送協会(SRG SSR)のフォーリン・マンデート(Auslandmandat外部リンク /Mandat pour l’étranger外部リンク )は、スイス政府とメディア企業である協会との間で締結された、国際社会向けの情報サービス提供に関する委託契約。委託内容は、協会が①国外在住のスイス人向け②スイスに関心のある全世界の読者向けのメディアサービス、の2点を提供すること。
委託の目的は、在外スイス人の政治的権利を支援すること、また国外における偽情報に対抗することだ。例えばスイスインフォの報道は、スイスに関する誤解やフェイクニュースを是正し、根拠のある情報の提供に貢献している。
現在、スイスインフォはドイツ語、フランス語、イタリア語、英語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、アラビア語、日本語、中国語で発信している。
委託業務にかかる費用、つまりスイスインフォの予算は①連邦政府の拠出金②全世帯から強制徴収されるラジオ・テレビ受信料を原資とする協会の予算が半分ずつ賄っている。
政府拠出金廃止案をめぐり議会で問題視されたのは、政府が協会への国際放送業務の委託契約を継続しながらその財源だけを断ち切ろうとした点だ。上院での審議では、政府案が通ればスイスインフォの配信言語を現在の10言語から4言語に削減せざるを得なくなる、と批判の声が上がっていた。
▼上院の政府拠出金廃止案の否決について詳しくはこちらの記事へ
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政府の「救済パッケージ27」は今後2週間以内に上下両院間で意見調整が行われる。第24項に関しては上下院ともに否決されたため、今後数年間は拠出金が維持される見込みだ。
国民党と急進民主党は拠出金削減支持
下院本会議に先立つ財務委員会の審議でも、政府案(拠出金削減案)を僅差で否決していた。本会議の審議前に各会派は意見集約を済ませており、本会議で第24項について意見を述べたのは議会第1党の右派保守・国民党(SVP/UDC)のロマン・ビュルギ議員だけだった。
ビュルギ氏は財務委員会の結論に反対し、「これは解体ではなく規模の縮小だ」と政府案を支持した。「国際放送業務は、在外スイス人がスイスのメディアに簡単にアクセスできなかった時代に誕生したものだ」と述べ、こうしたメディアへのアクセスが容易になった現代において「国際事業サービスは国家の基本的公共サービスの中核ではない」と主張した。
「古いしがらみを断ち切る」
リベラル派・急進民主党(FDP/PLR)所属のカリン・ケラー・ズッター財務相も、政府予算を削減する必要性を強調し、「時には古いしがらみを断ち切る勇気が必要だ」と呼びかけた。在外スイス人は、政府拠出金に依存しない協会のサービス(SRF、RTS、RSIなど国内で放送・配信される公共テレビ・ラジオ)にアクセスできると説明した。
採決では、急進民主党の議員はほぼ全員が拠出金の廃止を支持し、棄権は3人だった。国民党もほぼ全党員が政府案に賛成した。一方、その他のすべての政党は財務委員会と同様、拠出金廃止に反対した。
下院の採決結果を受け、スイスインフォのラリッサ・ビーラー社長は「これにより、連邦議会は世界におけるスイスの存在感を高めスイスの声を届けることに明確な支持を示した」と述べた。「この決定を、今後も高質なジャーナリズムに基づき効率的・独立してスイスについて報じる任務委託として受け止めたい」
メディア労働組合は安堵
メディア労働組合SSMも声明で安堵を示した。拠出金廃止案が可決されれば「100を超える雇用が失われ、スイスの海外における声が弱まる可能性があった」と指摘。下院による否決は、「メディアの多様性、在外スイス人、国際舞台におけるスイスの可視性を支持する重要なシグナル」だと評価した。
SSMの代表らは本議会での審議に先立ち、スイスインフォなど国際放送業務の存続を求める請願書を提出していた。この請願書は、3カ月足らずで1万7000筆以上の署名を集めた。在外スイス人協会、在外スイス人のための協同組合ソリスイス(Soliswiss)、Educationsuisse、その他のメディア団体も署名に賛同した。
編集:Mark Livingston、独語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:ムートゥ朋子
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