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クレディ・スイス決算にみる6つの悲惨な数字

クレディ・スイス
クレディ・スイス(本社・チューリヒ)は大きな重圧にさらされている © Keystone / Michael Buholzer

クレディ・スイス(CS)の2022年決算は失望感の大きい内容だった。大規模なリストラを進めるなか、もはや経営に一分の隙も許されなくなった。

問題行CSの会長にアクセル・レーマン氏が就任してから1年、ウルリッヒ・ケルナー氏が最高経営責任者(CEO)に就任してから約半年が経過した。だがアルケゴス破綻からグリーンシルの金融不正にいたるまでの一連の歴史的スキャンダルと不適切経営がもたらした混乱は、スイス第2の銀行になお重くのしかかっている。

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FT

9日に発表されたCSの2022年決算に明るい兆しを期待していた人は、それを探し出すのに苦労したことだろう。主要な数字は軒並み弱かった。6項目はとりわけ悲惨、少なくとも悲惨になる可能性がある。

1つ目に、そして最もはっきりしていたのは、CSが果敢に「指針に沿う」「力強い前進」を示すと位置づけた決算に対する株価の反応だ。投資家はこれを見抜き、9日のCS株は15%も急落。1株3フラン(約430円)を割り込み、過去最低を更新した。1年前より3分の2安く、10年単位でみれば9割も減価した。

2つ目の悲惨な数字は、顧客の信頼も同様に低下していることに関係している。CSの2022年10~12月期の主要業績は概ね市場予想通りだったが、一部は期待を裏切った。CSが投資銀行業務を縮小してウェルスマネジメントに再び焦点を当てる計画を打ち出している今、富裕層向け事業が930億フラン、総預かり資産の15%相当をたった3カ月で失ったと聞けば到底安心できるものではない。CSは以前、22年10月にソーシャルメディアで財務健全性に関する噂を受けてパニック的に資金が流出したが、その後流出は治まったと示唆していた。10月以降は流出ペースこそ落ちたものの、資金引き上げは11月から12月、そして年が明けても続いていた。

資本力

どんな銀行の決算でもそうだが、当に赤字銀行で最も注目される数字の1つに資本力を示す指標がある。CSは、普通株式など中核的自己資本(Tier 1=CET1)比率を維持することが、株式・債券投資家の信頼回復に重要であると認識していた。大手グローバル銀行には投資適格を示す信用格付けの維持も欠かせないが、スタンダード&プアーズ(S&P)はCS債をジャンク(投資不適格)の一歩手前に格付けしている。幸い、昨年11月に40億フランを調達したのが奏功し、CSのCET1は14.1%とアナリスト予想のコンセンサスを上回る成果を上げた。それでも前年の14.4%からは低下しており、リスク業務を減らしたことによる自己資本軽減効果が今年見込まれる損失を相殺しない限り、過去3番目に悪い数字になる可能性がある。

信用損失は、今のところCS決算では貴重な喜ばしい数字のようにみえる。年間の貸倒引当金はわずか1600万フランだった。しかしこれまた他の凶兆を伴っている。まずこの数字にはアルケゴス事件(信用残高が焦げ付き、CSは総額50億フランを超える損失を被った)で必要になった引当金1億5500万フランが加味されていない。リスク見直しにより他の歴史的な破綻を最小限に抑え、スイスは主要ローン残高リスクが低いと知られていても、現在の世界の経済情勢を踏まえると、信用損失は一方向にしか動いていない。

5つ目の悲惨な数値は、CSが起死回生をかけて元取締役のマイケル・クライン氏に支払った2億1千万フランだ。助言会社として優良企業や大型投資家との関係を築いてきたクライン氏がMクライン&カンパニーの投資銀行部門をCSに売却したことは異例の出来事だった。クライン氏は現在、再建した投資銀行部門クレディ・スイス・ファースト・ボストン(CSFB)の経営を担っている。その評価額が1億7500万フラン(1億フランの転換社債の予想利子を含めると2億1千万フラン)とされている理由は不明だ。利益相反は「統制されている」とCSは繰り返し保証しているが、この案件は悲惨なものに見える。ある取締役は、CSFBの経営権と部分的所有権を渡され、現金7500万フランを手に入れたという。

ところで、赤字続きのCSの10~12月期の​​​​​​収益は6割近く落ち込んだ。債券売買が84%、株式は96%減った。投資銀行部門を縮小しているとはいえ、これは6つ目の悲惨な数字に挙げられる。

投資家は、10~12月はCS の成否を分ける四半期になるとみていた。CSはなんとか乗り切った。だが進行中の大規模リストラやマクロ環境の難しさを踏まえると、もはや事故を起こす余地は全くない。

著作権:The Financial Times Limited 2023

英語からの翻訳:ムートゥ朋子

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