クレディ・スイスがソフトバンクG提訴、顧客資金4億4千万ドル返還請求

スイス金融大手クレディ・スイス(CS)は、英金融会社グリーンシル・キャピタルの破綻に絡み、4億4千万ドル(約600億円)の資金回収を求めてソフトバンクグループを相手取りロンドンの高等裁判所に提訴した。CSはこの資金は自社顧客の最富裕層が負っていると主張している。
ロンドンで正式に手続きが始まったこの訴訟は、CSが先月、スイス政府が介入する形でライバル行UBSによる救済買収が決まって以来、初の法的措置となる。

CSの顧客は、同行が低リスクとして販売したグリーンシル関連の一連のサプライチェーンファイナンスファンドに投資。数億ドルの損失を被った。
この損失は、CSを近年襲った最大のスキャンダルの1つだ。同行の投資家、顧客、取引相手や金融機関に不安を与え、同行の終焉(しゅうえん)を早める一因となった。
この件に詳しい関係者によると、CSは先週、ロンドンの高等裁判所に提訴した。
ソフトバンクは声明で、「2年以上にわたって自らの不適切な投資判断を責任転嫁しようとしてきたクレディ・スイスがついに請求を行った。だが予想通りメリットが皆無であり、力強い(ソフトバンク側の)弁護に直面することだろう」と争う構えを示した。
争点の中心は、ソフトバンク傘下ビジョンファンドが出資し、グリーンシルの顧客でもある米カリフォルニア州の建設会社カテラがCSの顧客に対して負う4億4千万ドルだ。カテラは同行のサプライチェーンファイナンスファンドを通じて資金を受け取っていた。
2020年後半、ソフトバンクはグリーンシルへ緊急資金注入を行うことに合意。これはカテラの負債のカバーが目的だった。英紙フィナンシャル・タイムズは以前、この資金がCSのファンドに到達しなかったと報じている。
未解決の訴訟
CSは米国で起こした別の訴訟で、ソフトバンクがカテラの財務再編を指揮し、CSの顧客を犠牲にして自社に利益をもたらしたと主張した。
CSは19日、訴訟についてのコメントは控えたが、引き続き「サプライチェーンファイナンスファンドにおける投資家の(資金)回復の最大化を優先する」と述べた。
CSが絡む未解決の訴訟は他にもある。アナリストの試算によれば、同行は今後4年間で最大50億ドルの訴訟費用負担に直面する可能性がある。
UBSはCS買収に絡み、スイス連邦政府から最大90億フランの損失保証を受けることで母艦を守ろうとしている。
英高裁の訴訟は、ソフトバンクを相手取ったCSの法廷闘争が発展した格好だ。CSは2021年、米カリフォルニア州、同アリゾナ州の裁判所に対し、2020年にソフトバンクと結んだ契約関連文書をカテラに提出させるよう請求した。CSはまた、孫正義会長兼最高経営責任者(CEO)を含むソフトバンク幹部が、カテラの救済契約に関して何を知っていたのかについての情報も求めている。
CSは、顧客がグリーンシル・ファンドに投資した100億ドルのうち74億ドルを回収した。だが残りも回収するとなれば、裁判や法的請求は数年かかるとみられる。
CSの代理人は国際法律事務所フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー、ソフトバンクはクイン・エマニュエル法律事務所を代理人に起用。クイン・エマニュエルは、救済買収に際し無価値化されたAT1債権者の代理人も務めており、訴訟の準備を進めている。
英語からの翻訳・宇田薫
Copyright The Financial Times Limited 2023
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